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社員同士が顔も知らないSE派遣会社の課題解決プロセス

辞めるつもりだった社員が挙げた3つの問題 社長が定例会から外れて動き出した社員の自主性とチームワーク

2026年10月09日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

新日本ニーズ 代表取締役 佐藤良介さん

新日本ニーズ DX推進リーダー 管原百世さん

 前社長との「LINE1本」しかなく、横のつながりが一切ない会社を辞めるつもりだったSEは、取引先から就任した社長となら会社を変えていけるかも知れないと考えた。社内に情報も人のつながりも残らない、別々の現場にSEを派遣する会社が取り組んだのは、kintoneを使うことで人と会社を成長させるプロジェクトだった。

 kintone hive 2026 tokyoの3番手として登壇したのは、SEを顧客先に常駐させる事業を営む「新日本ニーズ」の佐藤良介さんと管原百世さん。プレゼンでは、社員同士が顔も知らず、横のつながりもない環境をkintoneによって風通しをよくし、チームワークを高め、売上を含めてあらゆるものをほぼ倍にした事例について語られた。

kintone hive 2026 tokyoの3番手は株式会社新日本ニーズ

前社長との「LINE1本」しかない会社で社員は辞めようとしていた

 新日本ニーズは東京都中央区銀座にある創業23年目の会社だ。顧客先にSEを常駐させてIT運用を支える事業を柱にしていて、kintoneを始めた頃の社員数は12名。佐藤さんはもともと取引先の側にいた人で、4年前に事業承継で社長として着任した。

 一方の管原さんは、未経験からSEとして新日本ニーズに入社した。当時出ていた現場は大手金融で、2万台のPCを管理するチームに常駐する。PCへのアプリ配布やウイルス対策ソフトのサーバー保守をこなしながら、VBAやマクロで自分の仕事を効率化する毎日。その管原さんが、会社を辞めようと考えていた。

 登壇では、当時の新日本ニーズに「なかったもの」を3つ挙げた。1つ目がITシステムだ。

「前社長との個人LINE、1対1のみでした。LINEグループすらないんですよ。まず、会社に何人いるのか、誰がいるのかも分からないという状況でした」(管原さん)

 2つ目が社員同士の横のつながり、3つ目が描けるキャリアプランだ。常駐先に出たきり社内の誰とも顔を合わせないので、今の現場を続ける以外の道が見えてこない。

ITシステムも横のつながりもなく、キャリアプランも描けない状態だった

 そこへ社長交代の知らせが届く。新しい社長は、取引先の担当者として何度も一緒に仕事をしてきた佐藤さんだった。この人となら会社を変えていけるかもしれない。管原さんは辞めるのをやめた。

LINE WORKSの次に選んだkintoneを社員6名のDXチームで動かし始めた

 社長になった佐藤さんがまず向き合ったのは、社員が散らばったままになっている状態だ。SEを別々の現場に出す会社では、社内に情報も人のつながりも残らない。同業ならあるあるの課題だ。そこで、佐藤さんはLINE WORKSの導入を決める。LINEと同じ感覚で使えて掲示板や予定表も付き、しかも無料で始められる。管原さんに相談し、2人で進めた。

 社員が使うようになると、会社の動きは目に見えてよくなった。ところが使われるほど別の課題が積み上がる。特に重かったのがデータ集計のための転記作業で、LINE WORKSだけでは足りないとはっきりした。

 さらに、佐藤さんにはもう1つ悩みがあった。引き継いだ会社は人も売上も長年横ばいで、このままでは沈むという危機感だ。その頃、2人はこの課題を解決するべく、毎日のようにウェビナーを見てネタを探していたという。そして、DXの伴走サービスを紹介する回で、kintoneに出会う。

 佐藤さんが導入を決めた理由が、自社との相性だった。

「情報がストックされないという課題の解決だけではなくて、kintoneでアプリを作って、自分の思いを形に変えて、誰かに使ってもらう。このプロセスで人が成長すると思ったんです」(佐藤さん)

 社員と一緒に使うことは最初から決めていた。学びの途中で脱落する人が出ないよう外部の伴走サービスも入れ、研修を組む。残るはチームリーダーで、佐藤さんはウェビナーで学んだ推進者の素養に鑑みて、当てはまる社員を社内で探した。行き着いたのが管原さんだった。

 こうして社員6名のDXチームが立ち上がる。最年長は50代、最年少がリーダーの管原さんで27歳。社員12名のうち半分が入った、規模のわりに大きな編成だ。IT経験の浅いメンバーは不安そうにしており、まとめきれるだろうかと管原さん自身も怖かったという。

社員6名で立ち上げたDXチームは、最年長が50代で最年少がリーダーの27歳

「マニュアルを見なくていい」を作る側にも当てはめて3ヵ月で14アプリを作った

 全5回の研修を終え、LINE WORKSで回していた社内申請をkintoneに移す作業が始まる。最初に手がけたのは「移動交通費申請(スポット)」。まずは、これから作るすべてのアプリに共通するルールを決めた。

「私は二重管理が本当に嫌いです。あと、スマホでアプリを使うときに、マニュアルを見なきゃいけないみたいなのも絶対嫌だったんですよ。なので、アプリの中に説明を全部入れて、1つで完結できるようにしました」(管原さん)

 実際の「移動交通費申請(スポット)」を見ると、入力欄の前に申請のルールが書き込まれている。IC利用時はICの料金で申請すること、月末までに出したぶんを次回給与に合算すること、1回あたり税抜5000円を超えるものは分けて申請すること。その下には対象日や行先、交通機関など、項目ごとの書き方が並ぶ。マニュアルに書くような中身を、申請画面そのものに載せてしまったのだ。使う社員は別の資料を開かずに済み、DXチームもマニュアルとアプリを二重に管理しなくてよくなる。

 このやり方は、社員が使うアプリだけでなく、DXチームが自分たちの作業に使う「リリースチェック」アプリにも適用した。

 新日本ニーズでは、DXチームが作ったアプリを全員が使える状態にすることをリリースと呼ぶ。リリースのたびに社内申請を出す決まりで、その申請を受けるのがこのアプリになる。ここに、リリース前後で確かめる項目のチェックシートと、アプリ作りのルールを書いたマニュアルまで詰め込んだ。

 おかげでメンバーは資料を探し回らずに済む。申請画面を上から埋めていけば、アプリ名の付け方も、説明を画面の中に入れるルールも、リリースまでの段取りも目に入る。

 チェックは担当者とリーダーの2人が、リリースの前と後に行う。アクセス権のようにチェックシートで書ききれない部分は、気になったらコメントで確認する。

 DXチームは3ヵ月で14アプリを開発したが、その間、社員からの問い合わせも来なかったという。皆が迷わず作れたのも、アプリの作りがそろって問い合わせが出なかったのも、ここが効いたからだと管原さんは振り返った。

リリースの申請とチェックシートとマニュアルを1つにまとめたリリースチェックアプリ

 社員が使う申請をkintoneに移しきったことで、LINE WORKSで抱えていた課題はすべて片付いた。全社リリースのあとには、DXチーム発足時に微妙な反応をしていたメンバーも「楽しいですね」と口にするようになる。

 アプリはその後も増えていった。帳票を出力するアプリには名前の末尾に「つくるん」と付けると決め、その第1弾が「個別契約書つくるん」だ。トヨクモのPrintCreatorを組み合わせ、情報を入力して選ぶだけで契約書を出力できる。無機質な名前を避けて愛着の持てる名前にすると、使うのも育てるのも楽しくなるという。

帳票出力アプリの「つくるん」シリーズ、第1弾が「個別契約書つくるん」

 社内の規定や制度は、kintoneの検索AIで作った「AIニーズくん」に質問できるようにした。検索AIはkintoneのアプリのデータをもとにAIが回答を生成するチャットボットを作れる機能だ。

「検索AIを使っていて、なんかちょっと回答が物足りないよなと思う時は、FAQみたいなものを1つ追加で添付してみてください。回答精度が爆上がりします」(佐藤さん)

 活用は社内にとどまらない。物販ビジネスでは業務委託先の協力会社とのやり取りが電話やメールに散らばり、コミュニケーションエラーが絶えなかった。そこで管理用のkintoneアプリにトヨクモのkViewerを組み合わせ、協力会社にも同じ画面を見てもらうようにした。作業の進み具合は、FormBridgeで協力会社自身に反映してもらう。

 しばらくして、その協力会社から「ここ、変えられませんか」という声が届くようになった。社内で回していた改善の輪が、社外にまで広がった瞬間だった。要望はすぐ反映したという。

 この春には、トラスト・ログイン byGMOで自社のITシステムに顔認証ログインを追加した。パスワードは複雑なまま置いておき、社員は顔をかざすだけでログインできる。これもノーコードだ。

トラスト・ログイン byGMOで、顔認証機能も導入した

社長が抜けた定例会から現場発の「ニーズくんの酒場」が生まれた

 順調に見えたが、管原さんには引っかかっていることがあった。毎週1時間半のDX定例は、そのほとんどを社長の話が占めていたのだ。メンバーは現場を抱えたまま開発している。聞く時間が長いぶん手は動かず、ナレッジの共有にも回らない。管原さんは社長に相談し、いったん定例会から抜けてもらうことにした。

 空いた時間で作ることにしたのが、コミュニケーション促進のアプリだ。メンバーにアイデアを3つずつ持ち寄ってもらうと、想像以上の数が集まった。そこから選んだのが自己紹介アプリの「ニーズくんの酒場」。平成女子のプロフィール帳をイメージした作りで、「好きな飲み物を教えてね」といった項目が並ぶ。「嫌いな食べ物、アレルギー含む」の欄は懇親会で役立った。管原さんが口を出さないまま、年長のメンバー中心に仕上がったアプリだった。

 ある社員が異動するとき、餞別の品が贈られた。選ばれたのは、このアプリの「好きな飲み物」に書かれていた「お茶とコーヒー」のうちのコーヒーだった。

「こんな使い方があったんだというのと、DXチームが実際にコミュニケーション促進の役に立っているというのが本当にうれしくて、感動してしまいました」(管原さん)

 定量的な効果も出た。この3年間で社員SEを9名採用しながら、バックオフィスは1人も増やしていない。売上を含め、会社の中のありとあらゆるものがほぼ倍になった。新しく加わった社員のkintone活用率も、アプリを作る割合もどちらも100%。地方に住んだままフルリモートで働く社員も採用できるようになった。

3年で社員も売上もほぼ倍になり、バックオフィスは1人も増えていない

 佐藤さんは自分で育てているブドウの写真を映し、「良質な果実を収穫したかったら、果実だけ見てても駄目で、肥料をまいて、土を耕して、時間をかけて育てていく。このプロセスが大事だと思います」と語った。組織作りも同じで、最初にやるのは人材育成と、社内風土を柔らかくすることだという。

良質な果実には土を耕す時間が要る、組織作りも同じだと語った

 kintoneから生まれたチームワークは、社内にとどまらなかった。管原さんは昨年、年齢も住む場所も業種もばらばらな4人でkintoneのカスタマイズコンテストに出場している。きっかけはユーザーコミュニティのkintone Caféで、トヨクモのイベントに登壇したのも同じ縁からだ。DXチームやkintoneが気になる社員も、全国へ足を運び始めている。

「会社に仲間がいなかったら、外で作ったっていいんです。最初は前社長とのLINE1本だけだったつながりが、気づいたら全国に広がっていました」(管原さん)

 会社を変えるきっかけは、もしかしたら一歩踏み出すことなのかもしれない。管原さんはそう言って講演を締めくくった。

質疑応答

セッション後、サイボウズの蒲原大輔さんから2人に質問が投げかけられた

蒲原さん:社長の佐藤さんが定例会から外れたあと、社員の自主性が一気に出てきたのが印象的でした。最後にコミュニティの紹介もありましたが、少ない人数で回している会社にとって、全国に足を運ぶのは時間も労力もかかります。それでも参加する価値はどこにあるのか、教えてください。

管原さん:全国に友達ができるんですよ。コミュニティは、どこに行っても知っている人がめっちゃいる、みたいな感じなんです。あとは、業種が違う人と話せる機会って、なかなかないと思うんですよね。kintoneのコミュニティの良さだと思っています。

蒲原さん:ぜひこれからも一緒に、全国のコミュニティを盛り上げてください。

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