第319回
第1回 kintone hive sapporoの登壇者が4年振りに再登壇
経営判断にAIの活用はもはや必須 日々の蓄積データから的確なデータを迅速に引き出すMCPの活用法
2026年08月04日 09時00分更新
AIを経営判断に活かすのは分析ツールだけでは足りない。日々蓄積される情報から、必要な時に必要な情報を引き出せる必要がある。そこで大切なのは、データ基盤があること。農業資材を手掛ける中小企業の社長は、そのデータ基盤にkintoneで蓄積したデータを活用し、AIで素早い経営判断ができる体制を整えた。
kintone hive 2026 sapporoのユーザー事例発表の後に行われた限定企画に登壇したのは、農業資材の企画・製造・卸・施工を手がける中小企業「三晃化学」の渡辺庸介さん。「AIに分析をさせる前に、まずデータの基盤がないとダメなんです」と訴える渡辺さんは、kintoneに蓄積されたデータとAIを使い、迅速な経営判断に結びつく仕組み作りについて語った。
現場の「ちょっと困った」を、プラグインや外注ではなくAIに聞いて自分で解決する
渡辺さんはkintone歴およそ8年で、社内で運用するアプリは30個ほど。第1回のkintone hive sapporoにも登壇し、本選出場は逃したものの、4年を経て再び舞台に立った。三晃化学は農業資材の企画・製造・卸・施工を手がける中小企業で、農家の庭先に立てる防風網を縫って作るほか、子牛用のジャケットのような酪農資材や、食用カボチャの種も製造・販売している。工場では従業員がミシンでシートやネットを縫う。そんな会社のAI活用が語られた。
「kintoneを使っていて、標準機能では困ったなという時に、プラグインの契約や外注もありますが、そうではなく、AIに聞いて自分で解決するという方法が出てきたのではないか、という話です」と渡辺さんは語りはじめた。
例に挙げたのが、工場からの「引取記録」をスマホひとつで完結させるアプリだ。従業員が工場から商品を引き取る際、商品を運ぶのが輸送会社ではなく自社の社員だったため、伝票も記録も残らず誰がいつ何を持ち出したのかを事務側が把握できなかった。
出荷の情報はあるので、kintoneで引き取りを報告できるようにしようと考えたが、標準機能のモバイル画面では、一覧でテーブルの項目が見えない。1件ずつ開いてチェックする作りでは、現場が使ってくれなくなる恐れがあった。そこで渡辺さんは、AIにフィールドコードの一覧と要件を渡して改修を依頼した。
「モバイル表示が見づらいので、必要な項目とテーブルを一覧で見られるようにして、編集はドロップダウンだけ、ここだけ編集できればいいとAIに伝えました」(渡辺さん)
仕上がったのは、カード形式で一覧性が高く、横にスライドすればほかの情報も見られるモバイル画面だ。編集はドロップダウン1ヵ所だけになった。
「画面遷移はゼロで、現場の操作は半分以下になりました。「これは便利だね」ということで、今もしっかり使われています」(渡辺さん)
2つ目の例は、kintoneの添付ファイルのバックアップだ。標準のCSVエクスポートでは、添付ファイルまでは保存できない。毎日バックアップしたいわけではないが、万一消えたら困る。
そこでAIと壁打ちしながらソフトを自作したという。kintoneのAPIを使い、添付ファイルを一括取得して、ボタンひとつでローカルに整理されたフォルダ構成で保存できるようにした。
データ基盤があるからAIが効く、半日かけた会議資料をCSV連携で数分に
AIを経営判断に活かすには、分析ツールを導入するだけでは足りない。日々の業務データを一定の形式で蓄積し、必要なときに取り出せる基盤を整えておくことが重要だという。三晃化学では、kintoneと基幹システムに業務データを蓄積し、AIで分析できる下地を整えている。
「AIに分析をさせる前に、まずデータの基盤がないとダメなんです。kintoneと基幹システムにデータが溜まっていて、そのデータを活かすことが、まず大事です」(渡辺さん)
渡辺さんが挙げる基盤の条件は4つ。kintoneと基幹システムにデータが蓄積されていること、アプリをまたいで横串で連携が取れていること、入力フォーマットが統一されて誰が入力しても同じ形で残ること、そして現場の誰もが入力できる敷居の低さがあることだ。この下地があってはじめて、精緻なデータが縦軸横軸で残っていく。
その基盤を活かす最初の一歩が、基幹システムのデータをCSVに書き出してAIに渡す方法だった。予算と実績、経費、担当者別の売上推移などのデータをAIに読み込ませ、分析レポートを作成する。
「半日ぐらいかけて、Excelで関数をポチポチやっていたものが、ものの数分に変わりました」(渡辺さん)
速くなっただけではない。分析の深さも変わったという。
「会議中に「売上が上がったね。そこはどのお客さんだろう」という話になっても、データが溜まっているのでAIが分析して答えてくれる。なんでかわからないね、で終わっていた会議が、実際の数字を見て判断できるようになりました」(渡辺さん)
CSVを出す手間すらゼロに、MCPでkintoneから直接データを分析する
基幹システムのデータをCSVでAIに渡すだけでも、資料作成や分析にかかる時間は大幅に短縮できた。一方で、分析のたびにCSVを書き出して読み込ませる作業は残る。渡辺さんはこの手間もなくすため、AIとkintoneを直接つなぐMCP(Model Context Protocol)を取り入れた。
「毎回エクスポートするのが嫌になってきたのですが、今はMCPという仕組みで、AIがkintoneから直接データを取得できます」(渡辺さん)
MCPは、AIが外部のデータやツールと接続し、必要な情報をやり取りするための標準仕様だ。渡辺さんの仕組みでは、MCPがkintoneとAIの橋渡し役となり、CSVを書き出さなくても、AIがkintone上のデータを直接取得できる。
MCPを導入したことで、アプリをまたいだ分析がその場でできるようになった。渡辺さんは、第1回のkintone hive sapporoでは、データを集めるところまでだったと振り返る。製造実績を記録するアプリと製造時間を見積もるアプリを作り、両者の差から採算は把握できたものの、毎月集計・分析するところまでは手が回らなかったのだ。
「今はClaudeに分析してくださいと頼めば、決まったやり方で分析してくれます。この商品は儲かっていないね、では製造をどう簡易化しようか、というアイデアにつながっています」(渡辺さん)
kintoneだけに閉じず適材適所、kintoneを根っこにAIを広げる
AIの活用は、kintoneの画面内だけにとどまらない。渡辺さんは、データの蓄積や管理にはkintoneを使いながら、従業員との接点には普段から使い慣れたツールを組み合わせている。その一例として紹介したのが、Chatworkから話しかけるだけでkintone上のデータを調べられる社内チャットボットだ。
「AIツールをそのまま渡すと、セキュリティの問題もあるし馴染みづらいです。そこで現場はChatworkで話しかけるだけで、裏側ではAIがkintoneを見に行く、という流れにしています」(渡辺さん)
Chatworkを窓口に、その裏でClaude Codeが処理を実行するという仕組みを構築したのだ。Claude CodeがMCPでkintoneから直接データを取得し、必要に応じてローカルに出力した基幹システムのデータや社内のナレッジも読み込んで、Chatworkを通じて回答する。たとえば「過去3年分の4月の販売実績を、販売先別に教えて」と話しかければ、裏でAIがkintoneを見て答えを返すような仕組みを構築している。
さらに「おまけ」として紹介したのが、営業支援のためのモバイルアプリだ。営業担当が顧客との打ち合わせを録音し、AIが内容を要約して、そこから何をすべきかタスクを分析する。外出が多くパソコンを開きづらいため、モバイルで動くツールを自作した。これもkintoneのAPIで連携し、売上などkintoneにあるデータを活かす。
「kintoneで実現しづらいことは、kintoneの外でやってもいい。適材適所だと思っています」(渡辺さん)
「改善活動を進める中で思うのが、データがしっかりと溜まっていなかったり、いろいろな例外的なデータばかり置いてあったりすると、分析しづらいということです。まずはkintoneに、現場の方々が入力し、データが溜まったらAIで分析する。それ以外のツールも適材適所で活用しながら、kintoneを根っこにしていろいろな活用ができれば、業務改善がどんどん進むと思っています」と渡辺さんは語った。
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