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現場ごとの仕事の進め方が染み込み、ペーパーレスなど程遠い現場

「なんだ、できるじゃん」 1日でアプリを作るワークショップが変えた現場

2026年07月21日 10時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水 写真提供●サイボウズ

ホクレン農業協同組合連合会 武田展也さん、山﨑瑞穂さん

 北海道内に12支所、正職員数約1800名を抱える組織は紙と判子の文化が根強く残っていただけでなく、同じ業務でも運用方法がばらばら。kintoneを導入しても現場には根付かない中でたどりついたのは、1日でゼロからアプリを作るワークショップだった。

 kintone hive 2026 sapporoの5番手として登壇したのは、北海道の食と農を支える「ホクレン農業協同組合連合会」の武田展也さんと山﨑瑞穂さん。「ファックスが当たり前で、紙が原本。何にでも判子を押す組織風土」を変えるために二人が辿り着いたワークショップの開催と、kintoneが浸透していく課程について語った。

「古くてそこそこでかい農業団体」、紙と判子の土壌にkintoneは根づかなかった

 セッションではデジタル推進課の武田展也さんと、本社家畜販売課の山﨑瑞穂さんがダブル登壇した。二人は同い年の同期で、帯広時代には一緒につなぎを着て家畜市場で汗を流した間柄だ。伴走支援する側の武田さんと、現場の側の山﨑さん。お堅い農業団体の話を、軽快な掛け合いで届けていった。

kintone hive 2026 sapporoの5番手はホクレン農業協同組合連合会

 ホクレンは、北海道のJAや生産者から出資を受けて運営される農業協同組合連合会で、設立は1919年。北海道の農畜産物の販売、生産資材の供給、研究開発などを担い、「作る人を幸せに、食べる人を笑顔に」を掲げている。正職員数は約1800名、取扱高は約1兆6000億円、そして北海道内に12支所を置き、道内外に支店や事業施設を展開する、北海道の食と農を支える大きな組織だ。

 扱う業務も幅広く、酪農畜産や米穀、青果、資材、燃料など、品目ごとに事業本部があり、現場には支所、家畜市場、生産者、JA、取引先がつながっている。武田さんはそれを一言で「古くてそこそこでかい農業団体」と表現した。規模が大きく、歴史も長く、現場ごとの仕事の進め方も染み込んでいる。だからこそ、kintoneを入れればすぐ変わる、という単純な話ではなかった。

「ファックスが当たり前で、紙が原本。何にでも判子を押す、判子が大好き。データはNASに個人ごとに保存するなど、クラウドとは程遠い土壌でした」(武田さん)

 たとえば、A課がExcelで作った売上一覧を印刷してB課へ渡し、B課がそれをまたExcelに入力する。同じ組織の中で、Excelから紙、紙からExcelという作業が行われていたのだ。複写式の伝票には何度も判子を押していたそう。2019年にRPAが導入され、コロナ禍をきっかけにTeamsなどが徐々に浸透してきたものの、土壌の改良はこれからだった。

ファックスと紙と判子が当たり前。改良前のホクレンの土壌はクラウドとは程遠かった

 kintoneとの出会いは2021年。ICT推進課に現業部門から「Wordで作っている営業日報を楽にしたい」という相談が寄せられたのだ。そこで、ノーコードで日本語のマニュアルも充実したkintoneを提案。1部署10名で利用が始まり、ICT推進課は「クラウドだ、ノーコードだ、2025年の崖だ。絶対にみんな使ってくれる」という勢いで推進を開始した。説明会やハンズオンセミナーを行い、デモアプリまで用意した。

 しかし、現場から返ってきたのは、こんな声だった。

「いやいや武田さん、現場を忘れたんですか。Excelの関数は使えませんし、判子も押せません。今の書類の様式とも合いませんし、取引先が入力してくれるなんて無理ですよ」(山﨑さん)

「情報という肥料を撒いても、土壌に吸収されない。作物が肥料を吸うには土壌の改良が必要なように、ホクレンの土壌も、まず改良する必要があったんです」(武田さん)

よかれと思ってkintoneを導入したものの現場からは反発の声が上がった

事例の共有でも動かない現場、デジタル推進の担当者は板挟みになった

 何とかしなければ。そんな思いから、ICT推進課はkintoneユーザーが情報交換をする「kintoneユーザーの集い」を2022年に始め、以後毎年続けている。「ほかの課はこう使っている」という事例が土壌に混ぜられ、抽象的だった「kintoneでできること」が現場の言葉に分解されて吸収され、利用は徐々に増えていった。

 さらに2024年2月、デジタル化を伴走支援する専門部署としてデジタル推進課が誕生し、武田さんもその一員となる。同課は全事業本部と全拠点に対し、年33回のデジタルシフト相談会を開いた。

 とはいえ、最初の頃の相談はかみ合わないことも多かった。「ネットワークがつながらないんですが」と言われてヘルプデスクを案内したり、「支店で件数表を印刷できるようにしたい」と相談されて、それは紙に印刷する話では、と戸惑ったりしたという。

 それでも、ほかの部署が何に困り、どう解決したのかという事例を共有することで、kintoneの利用イメージが伝わっていく。使いたいという新規の相談は週に1件のペースで増え、業務整理からアプリ作成まで伴走支援した結果、1年間で100アプリが増えた。kintoneは、業務改善ツールとして定着し始めた。

kintoneユーザーが情報交換するイベントを開催した

 ところが、現場の側にいた山﨑さんの見え方は違った。

「あの山の麓で武田が頑張っているな。すごいことをやっているみたいだけど、それは遠くの畑の話でしょ。そんな感じでした」(山﨑さん)

 ほかの部署の成功事例は、まだ自分たちの話には見えていなかった。山﨑さんの部署でも解決事例は出てきたが、改善を進めようとしても、やり取りはかみ合わない。「あれをアプリ化したい」「どの業務の、どこを変えたいんですか」「それでは、うちの支店は楽にならない」「せっかく改善しても、使ってもらえません」。改善の主役は本所で、現場はなかなか動いてくれなかった。

 そして山﨑さんは板挟みになる。上からは「いいから早くやれ」、現業からは「最近やたらとDX、DXとうるさいが、こっちは忙しい」。「しっかりと板挟みに遭いました」と山﨑さん。

 どうすれば現場は動くのか。行き詰まって激論を交わす中で、2人はある原因に行き当たった。現場で課題解決がうまくいかないのは、同じ業務でもやり方が違うからではないか。

「広い北海道では、場所が変われば畑も違うように、同じ業務でも、運用や困りごとがまったく違っていました」(山﨑さん)

 現場で課題を解決するには、現場で課題を具体化したうえで、みんなで考える場がいる。そう考えた2人がたどり着いたのが、「そうだ、ワークショップだ」「kintoneなら一気にできる」という結論だった。

デジタルシフト相談会や事例共有を重ねても、現場はなかなか動かなかった

1日でゼロからアプリを作るワークショップ、「なんだ、できるじゃん」で現場が動いた

 何日も人を集める集合研修は現実的ではない。だが、1日なら集まってもらえる。

「1日でゼロから課題解決をするのが、ノーコードのkintoneならできるのではないか。自ら業務を改善することを実感してもらえれば、現場は動くのではないかと考えました」(山﨑さん)

 ワークショップは、みんなで現状の業務を棚卸しし、その場で改善の方向を決め、サイボウズの協力を得て、その日のうちにkintoneアプリ化まで行う内容だ。取り組む課題は、デジタルシフト相談会で実際に挙がったものからkintoneで解決に向きそうなものを選んだ。グループは、新人からおじさんまで、本所と支所、職種をごちゃ混ぜにして、業務を一貫して考えられるように工夫した。目的は、アプリを作れるようになることではなく、業務改善ができると実感してもらうことだ。

 進め方では、サイボウズの業務分析シートを使い、「どの業務を改善するのか」「今どう運用しているのか」「どこを改善したいのか」「原因は何か」「どのような形にしたいのか」という5つの問いを整理して、改善の方向性と必要な機能を決めた。決めた資料と作ったアプリは、その日のうちにみんなの前で発表する。発表会には部長も参加し、すべてのグループが改善方向の決定とアプリ化までやり遂げた。

「率直な感想は「なんだ、できるじゃん」でした。基本的には参加者に丸投げの研修でしたが、皆さんは課題解決の方向をしっかり定めていた。現場の差や抽象的だった課題が解消され、これなら現場の課題を解決できそうだと感じました」(武田さん)

 効果はすぐに表れた。ワークショップと同じやり方で改善が進められるようになり、進め方と視点が揃ったことで、研修の1ヵ月後には、支所の職員が主体となって作ったkintoneアプリが稼働した。1業務での利用から、今では7業務36アプリまで広がった事例も生まれている。

新人からベテランまでごちゃ混ぜのグループで、1日でアプリ化まで行うワークショップを実施した

マイナス20度の手書き伝票も解消、改良された土壌は収穫の段階へ

 例えば、家畜市場の業務には、マイナス20度の中で牛の出荷伝票を手書きする作業があった。ペンも凍りつくため、胸ポケットに何本もペンを差して、何とか書ける状態を作って作業していたという。これが改善課題として挙がったのだ。各事業所の業務を共有すると、伝票のほかにも、JAごとに様式が違う、牛の在庫管理が難しい、現場での確認作業が多い、牧場から伝票をFAXしないと精算業務に移れない、といった課題が次々と見えてきた。それらをみんなで整理していった。

 その結果、現場での手書きをなくして労働時間を短縮したという定量的な効果にとどまらず、ドライバーの荷待ち時間も短くなった。JAや生産者が困っていた牛の在庫管理の問題も解決し、支所では精算業務をすぐに始められるようになった。業務課題の解決だけでなく、サービスの向上にもつながっている。

 今では、社内外とkintoneで情報を共有することが当たり前になり、内製でやってみようという風土も育ってきた。アプリ数は2026年に263個。ユーザー数は全職員のおよそ3分の1にあたる650名を超え、ゲストスペースでつながるゲストユーザーは64名、稼働しているアプリを作った職員も60名に達した。ゲストスペースや外部連携プラグインを使った外部との情報共有は23件で、外部連携プラグインでは月に6000件の入力、閲覧数は2万件にのぼる。これまでのノウハウを活かし、グループ会社やJAの支援もできるようになった。

「古くて肥料も吸収できなかった土壌は、事例という堆肥が混ぜられ、情報という肥料を吸収できるようになりました。それでも、土壌を改良して終わりではありません。作物を育て、収穫しなければいけない。これからもJAや生産現場、取引先とノウハウを共有しながら、「作る人を幸せに、食べる人を笑顔に」できるよう取り組んでいきます」と武田さんは語った。

マイナス20度の中で手書きしていた牛の出荷伝票も、ワークショップを起点に改善された

質疑応答

セッション後、サイボウズの山本裕弥さんから二人に質問が投げかけられた。

山本さん:業務分析シートを現場で書くとき、新たな気づきや、改めてこういうことだと思わされたことはありましたか。

山﨑さん:思った以上に、現場ごとに業務が違うことを再認識しました。私自身もいろいろな場所を転々としてきましたが、「そんなふうに運用していたのか」と初めて知る業務もありました。それを業務分析シートというフォーマットで分析できたので、非常に整理しやすかったです。

山本さん:伴走する立場としては、ほかの部署からの依頼のときにも、この業務分析シートを使っているのでしょうか。

武田さん:使っている部署もあります。自分たちでやりたいことをうまく提案できるところもあれば、なかなか自分たちの言葉に落とせない部署もあります。そういうときは、「こういう作り方をすれば解決できますよ」と分析シートを渡して、まず見てもらうようにしています。

山本さん:ワークショップの目的が、業務改善ができると実感してもらうことだったという点も大切ですね。実際にアプリを作れるようになった人は、どれくらいいるのでしょうか。

山﨑さん:かなり増えました。ただ、誰かにお願いして作るのではなく、みんなでTeamsのグループチャットを作り、まず誰かが分析シートを作る。そのうえで「ここまでの作業は誰がやりますか」と進めます。デジタル推進課と「次は宿題としてここまで」「ここまで作ったら、また打ち合わせしましょう」という形で、ステップアップしながら作っていけるようになっています。

山本さん:業務改善の風土の変化は、外部にも及んでいるとのことでした。ゲストスペースを使う場合と、外部連携サービスを使う場合とで、使い分けの基準はありますか。

武田さん:ゲストスペースを使うと、コメント機能などで、普段の社内と同じように密なコミュニケーションが取れます。ですので、情報をどのくらい密に連携したいかという観点で要件を聞き、「この場合はゲストスペースが向いています」「この場合は外部連携プラグインを使いましょう」と話をしています。

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