シミュレーションによる特性評価と
高密度化を支える多重化技術
次に光ファイバーを利用するためのPDK(Process Development Kit)の説明があった。COUPEを使うユーザーはPDKを設計ツール(要するにEDAツール)に入力し、提供されるコンポーネントのパラメーターを変更したり組み合わせたりすることでPIC/EICを構築するわけだが、その一覧が下の画像になる。といっても、これは大分類であるし、これで全部でもないのだろうが。
PDKの一覧。"O-band photonics device library"という表記、O-band以外は提供しないという意味なのか、もしくは"O-bandだとこれだけ用意できる"(ほかのbandはこれから)という意味なのか、判断が難しい
SiNを利用する方が損失は少なく、高い耐久性があり、温度変化にも強く、光の後方反射(back-reflection:すなわち光の逆流)も少ないとされているが、ただしその分製造コストが上がると思われる。このPDKはSPICE(*2)の上で利用可能で、ここで特性を確認しながら設計するわけだ。
(*2) SPICEは、もともとは1970年代に開発された電子回路シミュレーターだ。CadenceならこれをベースにしたPSpice、Synopsysなら同じくHSPICEというものが提供されている。
例えばSPGC(Single Polarization Grating Coupler)やPSGC (Polarization Splitting Grating Coupler)の特性は下の画像で、1310nm前後を中心にかなり低い損失でPICと外部との接続が可能とされている。
そして光信号の変調を行なうMRMと、光信号の受信を行なうPDの特性が下の画像だ。細かくは説明しないが、MRMの方はDWDM(この話は後述)にも使える特性を持っているとしており、またPDの方も暗電流(光が入ってこない際の出力電流:これが小さいほど、信号/ノイズ比を高くできる)
OPCそのものは、特に長距離伝送の際に光ファイバー内で波形が歪む場合に、この補正のために使われる。ただ、スケールアウト以降はともかくスケールアップのネットワークではOPCがどの程度必要とされるのかはよくわからない
OPC(光学補正)に関しても、これを利用すると特性が大幅に改善されることが示されている。1310nm付近で言えば、PDL(Polarization Dependent Loss:偏波依存性損失というもので、入射光の偏光状態をすべての状態に渡って変化させた際の挿入損失を示すもの)が3.87dBから0.42dBと3.5dBも改善されるとしている。
それと先程も出てきた導光路であるが、SiとSiNでどちらが有利か? というのがこちら。光出力が低いと大差ないが、出力を上げるとSiでは急速に挿入抵抗が増える一方、SiNではほとんど変わらないことが示されている。
問題はどの程度の光出力が必要か? という話で、スイッチ側のCPOには長距離接続が想定される場合があるため高出力が必要な一方、GPU側はとりあえずスイッチまでつながればいいため、そもそも光出力は低めに抑えられる。スケールアウトではやはりSiNベースの導光路が使われるだろうが、スケールアップ向けにはSiベースのまま、ということもありそうだ。
最後にWDMについて。連載878回のBechtolsheim先生の最後のスライドにもあるように、信号速度を上げるよりも並列度を上げる方が現実的であり、それも光ファイバーをいっぱい並べるよりWDMの方がリーズナブルであり、特にCWDMよりもDWDMの方が可能性が高いとしている。
上の画像は「現在の」CWDMとDWDMの使われ方を示したもので、波長は長距離用の1550nm帯(C-band)におけるCWDMとDWDMの波長を示したものだが、TSMCのターゲットとしている1310nm帯の場合、20nm間隔のCWDMでは2波長かそのくらいしかまともに利用できず、その先は急速に特性が劣化する事が予測される。
例えば前ページ2番目の画像やこのページの3番目の画像にあるグラフを見てもらえばわかるが、現状は1310nm±10nm程度の波長しか想定されていない。理由はいくつかあるが、例えば石英ガラス系の光ファイバーの場合、1400nmあたりで損失が急増する特性があるため、あまり波長を長くできないのも理由の1つだ。
そこで1310nm付近を中心とするDWDMを利用する風潮が強くなっている。今回TSMCは1310nm帯で1.11nm間隔に16波長という実例(下の画像)を示しており、これが最終的に利用されるものになるかどうかはまだ未定だが、こうした1310nm帯のDWDMを利用して(波長あたりの速度は控えめにしつつ)帯域を稼ぐ方向が示された。
目下の問題は、この1310nm帯のDWDMという構成がまったく独自(標準的な仕様がない)なこと。もちろん全部自社製品だけで完結するスケールアップのネットワークであればそれでもいいのかもしれないが。
今回の発表は、TSMCのCOUPEを利用してスケールアウト・ネットワークだけでなくスケールアップ・ネットワークも構築可能であることを示したものとなっている。とりあえずNVLink 8が光信号を使用する最初のスケールアップ・ネットワークになりそうな雰囲気だが、COUPEをベースに作ることは可能であることがこの講演で示された格好だ。この先の詳細に関しては、情報が出てくるまでもう少し時間がかかりそうだ。
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