オーディオ評論家・潮晴男と麻倉怜士による高音質レーベル
調整レスのワンテイク録音、MQACD + UHQCDの高音質盤にこだわるUAレコード新作、情家みえ『BONHEUR』
2025年08月07日 09時00分更新
ウルトラアートレコード(UAレコード)の最新アルバム『BONHEUR』(UA-1008、ボヌール)の販売が9月10日に開始することが決定した。タイトルの"ボヌール"はフランス語で"幸せ"という意味で、代表の潮晴男氏による命名。Qobuzでのダウンロード盤(リニアPCM形式)の配信も予定している。
| Image from Amazon.co.jp |
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| ボヌール(UHQCD-MQA) |
UAレコードはオーディオ評論家の潮晴男氏と麻倉怜士氏が2017年に設立したレーベル。2017年に録音した情家みえさんの前作『ETRENNE』は、高音質にこだわったアルバムとしてジャズとしては珍しい数千枚のセールスを計上。海外展開にも積極的で、今後はイギリス、ドイツ、フランスでの展開を予定しているほか、香港には情家みえさんの熱烈なファンが多いとのこと。8月の香港オーディオショーでは、後藤浩二さんのピアノ伴奏で情家みえさんが歌うライブも予定されているという。
「編集をするとグルーブ感が若干変わる」という潮氏のポリシーに沿い、編集なしのワンテイク録音をすることが特徴となっている。周波数特性やコンプレッションといった処理も控え、録音時にはPro Toolsを経由したCDやハイレゾ配信向けのデジタル録音(192kHz/32bit)とオープンリールテープを使ったアナログ録音を同時にしている。アナログ録音に使用するテープは通常よりも幅広の2インチ幅(約5cm幅)で、走行スピードも秒速76cmと非常に速くしている(速くすると高音質、遅くすると長時間の録音ができる)。
BONHEURはMQA-CDとしてのリリースだが、アナログ録音がなされていることからわかるように年内にLP、来年にはSACD化も予定しているそうだ。
収録は塩澤利安氏が担当し、ポニーキャニオンの代々木スタジオで実施。ここは、元々作曲家の久石譲氏が所有していたもので、しっかりとしたピアノやアナログミキサーがあり、目配せできる適度な大きさ、自然な響きなどが特徴としている。録音方法・機材はETRENEとほとんど変わりがないが、音は飛躍的に良くなっているという。
なお、イラストは新進イラストレーターの清水優美(まさみ)さんが担当。こちらもデジタルではなくアナログ原稿による制作で肉筆の点描を用いて描いたものだという。発表イベントでは、今後のLP化、SACD化では背景色を変えたジャケットにしていく計画があるというこぼれ話も出た。
また、ハイレゾのPCM音源をMQA化する際には、MQAの提唱者であるボブ・スチュワート氏自らがエンコード作業を手がけたのだという。UHQCD、緑色のディスクラベルを引き続き使用、ディスクに印刷する面積を最小限に抑えるといったノウハウを盛り込んだ点はETRENEのSACD化の際と同様だ。
深い深い低域の表現に圧倒された
バラード主体の楽曲で構成されたというBONHEUR。8月4日に実施されたイベントでは、その魅力の一端に触れることができた。まず、特別に披露されたのが、1つの曲が演奏(テイク)ごとにどのぐらい違うかというもの。トラック1の「LOVER, COME BACK TO ME」では3つのテイクのうち最後(3番目のテイク)を採用しているが、当日のラフミックス(各マイクがとらえた音のバランスを調整せず、ステレオの音源=2ミックスに落としたもの)を順に聴くと、演奏の緊張感や音の強弱(ダイナミクス)、ニュアンスの込め方、速度の変化などにかなり違いがあることがわかる。
これには、テイクの合間にディレクションが入ることもあるのだろうが、歌手と楽器奏者が呼応し合うジャズ特有の演奏形態や、編集で楽曲の途中を切り、良い部分を繋ぐことを前提しない(切った際につなぎやすくすることを想定しない)通しの録音であることなども関係しているのだろう。採用されたテイクはボーカルの入りの部分がもっとも自然な印象である一方で、曲の進行に伴うアッチェレランドもかなりダイナミックで派手さがあった。ワンテイクでの録音はアーティスト泣かせの部分もあるのだろうが、演奏者の空気を感じ、演奏ごとに変わる温度感を伝えるという意味では意味があることのように思えた。
実際に商品化するCD品質の音源では、より厳密にミックスがなされることになるが、仕上がりは温かみやボディー感が加えられ、歌詞を伝える子音などもより強く、低域はズンズンと響き、より疾走感を感じる仕上がりになっていた。上に述べたような方向性をよりハッキリと出したものとも言えるかもしれない。
なお、MQAの176.4kHz/24bitで聴くと声と楽器のフォーカス感がピッタリとあい、全体にすっきりとした印象になるほか、バスドラムやベースのズドンとした沈み込み、切り込みの深さなどが出て、S/N感の向上を感じた。空間再現や声の質感などは確実に上がっており、情報量の豊富さが生きた形になるのだろう。もっとも、機材の都合でCD再生にはKEF Music GalleryにあるMcIntoshのプレーヤー、MQAの再生にはメリディアンのプレーヤーが使用されていたので、その性格が出たのかもしれない。
BONHEURはバラードが多いアルバムだが、4トラック目の「OVER THE RAINBOW」では、ベースを担当した古木佳祐氏によるコントラバスの間奏がいい。弦を弾くのではなく弓で引いて即興的に演奏したものだそうだが、感情が深くダイナミクスあふれる演奏だった。
ほかにも9トラック目の「MY ONE AND ONLY LOVE」や10トラック目の「I CAN SEE CLEARLY NOW」なども再生された。MY ONE AND ONLY LOVEはジョニー・ハートマンとジョン・コルトレーンのものが有名だが、情家さんによると「曲が先にあり、あとから歌詞がついたのでは?」と思えるほど、「音域が広くて、地声とファラセットをまぜないとうたいこなせない」ものだという。情感豊かな演奏として仕上がっていた。
I CAN SEE CLEARLY NOWは初挑戦、しかもライブなどでも歌ったことがない「人前で披露するのはこれが初めて」というレアな音源だそうだ。レゲエからのジャズアレンジだが、面白い仕上がりになっているので、興味がある方はぜひ聴いてもらいたい。
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