第448回
Ryzen 9000シリーズの成長を見守る
TDP 105W動作にするとRyzen 7 9700X/Ryzen 5 9600Xはどの程度化ける? レッドゾーン寸前を攻める絶妙な設定だが、ゲームでの効果は期待薄
「Starfield」
Starfieldは画質プリセット“低”を選択しつつ、レンダースケールはFSR 3“バランス”相当の58%とした。都市ニューアトランティスのMAST地区を移動する際のフレームレートを計測した。
Starfieldでは平均フレームレートにポジティブな影響はないものの、最低フレームレートの出方に明らかな違いがみてとれる。Ryzen 5 9600Xの方が最低フレームレートの伸び方が鈍く、Ryzen 7 9700Xの方が著明な改善が見られる点は、前掲のCINEBENCHやHandbrakeの検証結果と連動している。
ゲームでTDP設定とCPUの消費電力に相関はない、というデータしか出てこなかった。しかしStarfieldでは一転、TDPを105Wや120Wに引き上げることでCPUの消費電力が大きく引き上げられるデータが得られた。しかしこれはRyzen 7 9700Xに限った話で、Ryzen 5 9600Xではほぼ変化していない。
StarfieldにおけるRyzenの挙動は非常にユニークで、CCDあたりコア6基しかないモデル(例:Ryzen 9 7900X3D)のパフォーマンスは、CCDあたりコア8基の格下モデル(例:Ryzen 7 7900X3D)に負けるなど、CCDあたりのコア数が十分多くないと性能が頭打ちになる傾向がある。
もしかするとRyzen 5 9600XでCPUの消費電力やフレームレートが伸びない理由の一つに、CCDあたりのコア数が関連している可能性がある。
TDP 105Wモードは保証範囲なのか?
Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600XのTDP 105W設定を試した結果、CGレンダリングや動画エンコードのようなマルチスレッド性能が重要な処理では明らかな性能改善が確認できた一方、ゲームのようなCPU負荷の低い処理では体感性能の向上にあまり寄与しないことがわかった。CPUの消費電力や発熱面においても、TDP 105Wにすると前世代のRyzenに近い挙動となり、空冷運用するにしても大型クーラーを使うなどといった配慮が必要になる。
このようなメリット・デメリットを考慮に入れると、MSIが実装しているTDP 105Wモードの“オン・オフ”という設定項目は実に合理的である。しかし、このTDP 105WモードはPBOを利用して実装されているものであるとすれば、この105Wモードの利用は自己責任となると考えるのが自然だ。それともメーカー保証の範囲でTDP 105Wにする設定を作るのだろうか? このあたりは他社製マザーにTDP 105Wモードが広まってから考えてみるといいかもしれない。
これでRyzen 9000シリーズのパフォーマンスに関する騒動は終わりか……と思っていたがそうではないようだ。本稿の検証の終盤に配布が始まったWindowsの更新「KB5041587」には、Zen 5の分岐予測を改善するコードが含まれているとされているし、2CCD構成のRyzenの弱点であるCCD越境時のレイテンシー問題を改善するAGESAも開発中という。
Ryzen 9000シリーズは生まれ落ちたばかりだが、まだこれから伸びしろのあるCPUなのである(といえば聞こえはよいが……)。今後も折を見てRyzen 9000シリーズの成長を見守っていきたい。
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