週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

【前編】東映アニメーション 平山理志プロデューサーインタビュー

なぜ『ガールズバンドクライ』は貧乏になった日本で怒り続ける女の子が主人公なのか?――平山理志Pに聞く

2024年08月03日 15時00分更新

「トゲナシトゲアリ」はオーディションに1年半かけた

―― 『ガールズバンドクライ』の主題歌・挿入歌を担当し声優を務めているのがリアルバンド「トゲナシトゲアリ」のみなさんです。アニメを通してトゲナシトゲアリのバンドとしての高い実力に驚きました。どのようにして実現されたのですか?

平山 「音楽ものでバンドの物語をやる」そして「音楽の比重が非常に大きい作品を作る」ために、今回の『ガルクラ』では演奏ができるメンバーをイチから集めてバンドを作ることから始めました。

 そのバンドメンバーが、アニメの声優として出演する――それが一番良いと思いましたし、作品の軸としてぶれさせなかった部分でもあります。

―― 「演奏ができるメンバーを集めてバンドを作って、声優も務める」。このプランを実行に移すのは非常に難易度が高いと感じます。しかも芸能事務所に所属している人ではなく「イチから作る」というのも……。制作費の限界もありますし、思い切りましたね。

平山 バンドを描く物語で音楽がちゃんとしてなかったら、仁菜たちの本気やバンドの世界がすべて嘘になってしまいます。それを表現するにはもうミュージシャンでないと担保できない、と思ったのです。

 ですから、僕が信頼している音楽総合クリエイティブカンパニーであるアゲハスプリングス代表の玉井健二さんにご相談し音楽プロデューサーとして入っていただき、バンドの全楽曲を含むトータル・プロデュースと音楽の制作をお願いして、メンバーをイチから集めていただきました。

―― メンバーはどのように集めたのですか?

平山 オーディションで発掘しています。アゲハスプリングスさんがオーディションを始めたのが2021年の6月末。僕がメンバー全員と会えたのは2023年2月ですから、メンバー集めに1年半くらいかかっています。

 時間がかかった理由は、なかなかボーカルが見つからなかったためです。ボーカルはバンドのキモであり、魅力的な歌声でないと仁菜たちと物語の説得力がなくなってしまいます。

 また、玉井さんとしても“仮にもしアニメがなくて5人組のガールズバンド単体だとしても、世界で勝負して勝てるボーカルしか選ばない”という高いハードルを設けて選考されていました。

 最終的にお客様に聴いてもらうためには、作り手の僕ら全員が納得できる人じゃないといけません。非常に難しい条件だったのですが、アゲハスプリングスさんは理名さんを見つけてくださいました。アゲハスプリングスの皆様には本当に感謝しかありません。

 アフレコも最初からうまかったですね。彼女は、主役の声だなって。ほかのメンバーも演奏がとんでもなく上手くて、しかもキャラクターの声にぴったりだったんです。奇跡の出会いだなと思いました。

バンドメンバーであり、メインキャストでもある「トゲナシトゲアリ」の5人。声優がバンドを組むのではなく、ミュージシャンが声優を務めるという異例の手法が採られた

怒りを表に出す女性主人公が受け入れられた理由

―― 『ガールズバンドクライ』を観て驚いたのは、仁菜という女の子の「怒り」の感情が思いきり描かれていることでした。すばるに初めて会ったときも「ライブに行った」などの何気ない言葉にトゲトゲした感情が現われたり、せっかくもらったルームライトを振り回して破損させてしまったりして、いわゆる「美少女アニメ」の枠からははみ出ていました。

平山 仁菜という子は、理不尽な目に遭ったり、自分からその状況を突破しようと家を飛び出してきた子です。そんなバックグラウンドを背負っている子だから、出会った未知のものが敵に見えたり、怒りの感情が破壊につながったりもします。シナリオを読んでいるときも「ああやっぱり、この状況に遭遇したら仁菜はこう動くよね」とうなずいていました。

―― でも、「こう動くよね」と思っても、それをオモテに出すのはプロデューサーとして別の勇気が必要です。「美少女アニメ」であれば、狙うのは男性ファンですよね……?

平山 そうですね。女性を主人公にした段階で、我々もまずは男性アニメファンの皆様に好きになってもらうことを目指していました。でも実際にアニメの放送が始まるまでは、仁菜が嫌われてしまったり、美少女アニメのファンに受け入れられないのではという怖さもありました。

―― やはり怖さはあったのですね。

平山 バンドもので、お話や背負っているものもリアルに重めで、主人公の仁菜はいわゆる明るい元気な子とはむしろ真逆のタイプです。僕らもシナリオを作りながら、やはりこれまで慣れ親しんだ美少女アニメのフォーマットに戻りたくなる誘惑には駆られました。

 それでも、第1話のシナリオを読んだときの感動をそのまま突き詰めていくべきだと。

主人公とは「状況を作る者」だ

―― どうして仁菜という主人公が受け入れられたのだと思いますか?

平山 ある意味、仁菜は(『新世紀エヴァンゲリオン』の)碇シンジなのかなと。彼も苦悩しながら周囲とよく衝突する主人公でしたよね。でもすごく人気が出ました。それは彼がちゃんと「主人公」足り得ていた、その条件を持っていたからだと僕は思うのです。

―― 主人公には条件がある……?

平山 アニメを作るときに、状況を先に作っておいて主人公を置くだけですと、主人公が状況に振り回されているだけの作品になってしまいます。

 主人公とは、置かれた状況は状況として、それとは別に自分の意志を持つ者です。自分の意志で状況を作っていって、周りに影響を与えていく。それが大事だと僕は思っています。

地に足をつけると、1クールで武道館に行けない

―― 地に足がついた登場人物と物語を描いてきた『ガールズバンドクライ』ですが、着地点もリアルになりましたね。

平山 よくあるパターンですと、1クールで武道館に行ってしまいがちです。サクセスストーリーでどんどん進むわけですが、作っている最中に思ったのです。地に足がついた話を描いていたら、この子たち、そんな簡単には武道館行かないなって。

 ですから1クールの最後も、本人たちが望む成功では終わらない。成功したら嘘になっちゃう。そうならずに終わるのがすごく良いなと。

―― では、今後も続いていく……?

平山 オリジナルなので、人気が出れば次が作れる、というところなので、お客様の応援や今後の展開次第で見えてくると思っています。お客様の応援の声は本当に感謝しかありません。

後編はこちら

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事