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〈前編〉エクラアニマル 本多敏行さんインタビュー

アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで

昼間はアニメの勉強、夜は池袋で大暴れ

まつもと その時点ではアニメーターとしての勉強は一切していないわけですよね。

本多 全然。確か一応、試験は受けたんです。『巨人の星』のキャラクターを描かされたような気がするんだけれど、うまく描けた記憶はないから、コネですよ。

まつもと よく考えれば、遺影は顔だけですし。

本多 そう、ただの肖像画。動かないし、ティッシュや筆でそれっぽく描けば良い。(全身の動きを描く)アニメは難しかったですね。ただ、楠部社長も自分の親父と高校の先生の紹介だから簡単には断れなかったのでしょう。

 一方、私は紹介してもらったメンツがあるから一生懸命やらなきゃと思ったんだけれど、やはり東京で一人暮らしを始めると、飲み歩いたりできて楽しいじゃないですか。当時住んでいた池袋はヤクザ者がいっぱいいる街だったから、警察沙汰になるようなケンカをしょっちゅうやっていて。でも彼らに絡まれても元陸上部だったので逃げ足だけは自信がありました。

まつもと えー!

本多 あのへんを飲み歩いていると、「にいちゃん飲まねえか」とか言われるわけですよ。

まつもと 絡まれるんだ。

本多 「いや、いいですよ」と断ると今度は「俺の酒が飲めねえのか」。そのうち「表へ出ろ!」となって、出たらいっぱい(仲間が)いて袋叩きにあって。頭にきたからそのへんのモノをつかんでワーって。それで警察が飛んで来るなんてことがあったり、飲み屋でボラれるとこっちから店に文句言って立場が変わったり。

まつもと もう映画のワンシーンですね。

本多 周りのみんなには『のたり松太郎』にちなんで“まっちゃん”と呼ばれてました。そんな騒ぎを起こすたび楠部社長に呼ばれて、「今度やったら帰ってもらうぞ!」。「すぐ帰れ」とは言わない。帰したら社長も、親父や先生にメンツが立たないから。それに気づいた私は『これは都合が良いな』と(笑)

まつもと すごい青春だ! そんな毎日のなかでアニメの絵を描く勉強もしていたのですね。

本多 そうです。当時は『ドラえもん』シリーズの作画監督などをやっていた中村英一さんに教えてもらいました。

まつもと 飲んで暴れる問題児だけれど、きっとみんなから才能を見出されていたんですね。

本多 いやいや、才能なんてほとんどないですよ。絵は下手だし暴れてしょうがないのでヘタに触らないほうがいいや、みたいな感じで。

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木上さんは入社前から「とんでもなく上手かった」
やがてプロレスで意気投合

まつもと お話をうかがっていると、『怪物くん』のアクションシーンなどに活かされているのかなと思いました。

本多 あれは当時人気だったプロレスからですね。『怪物くん』にはまさにプロレスする話もあるんですよ。「怪物くん 岩石怪物ドタマカチン」という回。アントニオ猪木さんやアンドレ・ザ・ジャイアントさんに似せたリアルなキャラを描いた覚えがあります。木上くんはじめ、みんなプロレス好きだったんですよ。

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まつもと へえー。木上さんとはシンエイ動画でどのくらいの期間ご一緒だったんですか?

本多 『ドラえもん』から一緒にやって……7年くらいかな。この建物(エクラアニマル本社)はもともとシンエイ動画のものだったんです。まさにこの部屋で『怪物くん』も描いてました。部屋の角に社長がいて、その隣が私。なぜかと言えば、この2人はタバコを吸うから隅に追いやられた(笑)

 ドラえもんをやっていたある日、社長が、「本多くん、こういう人が来たんだけど、どうかね?」と絵を見せられて。すごく上手いので、「すぐ雇ったほうが良いですよ!」って。周りの同僚も口々に「この絵はすごい!」と。……それが木上益治くんだったんです。

40数年前、まさにこの場所で『ドラえもん』や『怪物くん』が作られていた。取材時は『小さなジャムとゴブリンのオップ』の作画作業に使われていた

まつもと では、後輩になるんですね。

本多 ええ。でも彼は絵が上手かったからすぐ原画マンになって、『怪物くん』では作画監督を頼みました。鈴木信一くんと3人で共同作監体制を組んだのです。

 あの頃は、現在のような各話作監体制ではなく、1人で全話見るのが当たり前でした。しかも正月や暮れには特番が入り、劇場版をやるとなったらそれも。とても1人じゃ見きれないと言うことで、3人になったんです。

まつもと 木上さんと、まさにここで作業されていたんですか。そう聞くと、なんだかすごく神聖な場所ですね……。

本多 最近の人たちが言うところの聖地ですね。

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