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〈前編〉エクラアニマル 本多敏行さんインタビュー

アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで

本多さん、実は「二原システム」の生みの親だった!?

まつもと お話をうかがっていると、本多さんは当時のアニメ制作の第一線で、しかも日本を代表するようなアニメーターの方々と一緒に活躍されていたことがわかります。しかも入社時はアニメに興味なかったというのも驚きです。

本多 そんな私が続いているのは、大塚さんや芝山さんがいたずら好きで職場が楽しく、こういう人たちと一緒に仕事ができるということが本当に幸せだったからだと思います。

 実は、私が原画に昇格した理由もすごくて。昇格試験には問題が3つあり、まずは“跳び箱を跳ぶ”。これは動きがわかっているから良い。問題は2つ目の“宮崎さんの描いた『パンダコパンダ』の女の子キャラが大きな石を持ち上げる”。そして最後に“『ルパン三世』のガンアクションを自由にやれ”。

 私は大きな石を一生懸命持ち上げるポーズがどうしても描けなくて、悩んだ挙句、苦し紛れに“力持ちになる薬を飲んで、片手でヒョイと持ち上げる”という動作を描いたら試験官の大塚康生さんが、「これ面白い!」と言って、そのまま合格しちゃったんですよ。

まつもと それは大変だ(笑)

本多 そのとき一緒に昇格した同僚がのちに『ルパン三世』のシリーズで活躍する青木悠三くん。彼はもともと漫画家のアシスタントだったので絵が上手。実際、彼の原画はどんどんパスしていくんです。一方、私が描いた原画はドサッとリテイクが戻ってくるんですよ。大変な思いをしました。

 その後『ガンバの冒険』をやってるときもまだうまく描けないので制作進行に、「早く描け!」と急かされる。あまりに鬱陶しいから一計を案じて、青木くんがラフを描いて私が清書するという分担作業で進めたんです。

 結果、すごく早く上がったので制作進行は大喜びなんだけれど、作画監督の椛島義夫さんに呼び出されて、「お前ら、何ふざけてるんだ!」とお叱りを受けました。

まつもと でもそれって、現在の一原・二原システムの走りですよね。

本多 先駆的だったね(笑)

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「似せようなんて思うな。自分の演技を描け」

まつもと しかし原画に昇格して日も浅い頃に『ガンバの冒険』は大変ですよね。何と言っても動物作画のオンパレードですから。

本多 そうですね。演出も出崎統さんだし。ただ、当時恵まれていたなと思うのは、先輩たちが口を揃えて、「(キャラデザに)似せようなんて思うな。自分の演技を描け」「そのお前の下手な絵を直すところから新しい表情が生まれるんだ」と言ってくれたことです。

 だから『ど根性ガエル』のときは好き勝手に描いてました。その方針のおかげで伸びた人は結構多いんですよ。百瀬義行くん、友永和秀くんもそうでした。

 昨今は絵を似せないと怒られちゃうんです。だから作監がいっぱいいるんですよね。そんなに作監がいるならみんなで描けば? と思うくらい作監が多いです。

まつもと 似せる前にちゃんとした動きを描かせるという教育方針だったと。その結果、その人じゃないと描けない動きが出てくる、ということですね。

本多 そうなんです。やがて私も『おれは鉄兵』で大塚さんに、「これは本多にやらせる」って変なシーンばかり担当させられました。

まつもと きっと面白くするはずだと。

本多 おしっこを我慢するところとかね(笑) でも、そうやって大塚さんから直に指名されるようになれたってことが、うれしかったんですよ。

後編はこちら

筆者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし(ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者)

 IT・出版・広告代理店、映画会社などを経て、ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。NPO法人アニメ産業イノベーション会議理事長。情報メディア・コンテンツ産業に関する教育と研究を行ないながら、各種プロジェクトを通じたプロデューサー人材の育成を進めている。デジタルハリウッド大学院DCM修士(専門職)・東京大学大学院社会情報学修士(社会情報学)。経産省コンテンツ産業長期ビジョン検討委員(2015)など。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)、「地域創生DX」(同文舘出版)など。

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