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『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(旦木瑞穂 著、光文社新書)を読む

親から受けた“毒”を子どもに与えないために

2024年02月29日 07時00分更新

「宗教2世」も毒親の影響が共依存に結びつく

 本書に登場するケースはどれもが強烈で、よくも悪くも興味深いのだが、なかでも強い印象を残してくれたのは、宗教にのめり込む母親の元、ネグレクトに近いような状況で成長した30代女性のケースだった。昨今問題化されている「宗教2世問題」だが、ここで紹介されているのはその先がけともいえるものなのである。

 具体的な団体名こそ書かれていないが、「当時は教団が、世界中が震撼するような大事件を起こした直後だった」という一文だけで、どの団体のことかは容易に想像できる。

 母親は、「友だちと旅行に行く」などと嘘をついてまだ幼い妹は祖父母に預け、時任さんだけ連れて、富士山の近くにある教団施設に1週間ほどこもった。そこでは、頭にピリピリと電気刺激を与えるヘルメットのような物を被らされ、2段ベッドのある部屋で母親と2人、ひたすら座って過ごした。(214〜215ページより)

 他にも環境や体験などについての生々しい記述が多いので、いやでもあのときの喧騒を思い出さずにはいられない。しかし、それでも自分なりの問題意識を持っていたこの女性は少しずつ母親との間に距離を置き始め、27歳で結婚。2人の子を生み、少しずつ教団から離れていく。

 ところが、背負い込んでしまう傾向のある妹は別で、母親と距離を置くことができなかったという。

 母親と妹には共依存傾向があるように感じる。現状、母親はまだ64歳で健康状態も良く、誰かが同居しなくてはならないという状況ではない。にもかかわらず、同居ありきで結婚を考えている妹は、母親に囚われすぎていないだろうか。幼い頃から何でも1人でできた時任さんとは異なり、小学校でいじめられたことがきっかけとなったのかそれ以前からなのかは不明だが、母親は宗教に没頭しながらも妹を放っておけず、妹も母親を頼るうちに、離れられなくなったのかもしれない。(233ページより)

 ここでも毒親の影響が共依存に結びついてしまっている。宗教のことを差し引いたとしても、毒親が引き起こす結果にはやはりひとつの共通項がありそうだ。

親は子どもを1人の人間として扱うこと

 では、毒親にならないために、親はどうすればよいのだろうか?

 子どもを1人の人間として扱い、気持ちや事情を尊重する。万が一踏みにじってしまったときには、心から謝罪する。大人同士の付き合いの中では普段から当たり前にしていることを、子どもに対しても同様に行うだけのことだ。(325ページより)

 簡単なことではないかもしれないが、それでも常に頭の片隅に置いておき、時間をかけてでも習慣化するべきなのだろう。

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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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