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早期からRISC-Vの開発に着手した中国企業 RISC-Vプロセッサー遍歴

2024年01月08日 12時00分更新

早期からRISC-V開発に着手した中国

 話を戻すと、まずSiFiveがIPを提供、これに続きさまざまな独立系IPベンダーがRISC-Vに傾倒し、また大手でも自社でRISC-V CPU IPの開発を始めるところも出てきたわけだが、同じくらい早期からRISC-V CPU IPの開発とこれを利用したSoCの開発に着手したのが中国である。

 連載747回では、それこそ電子タバコの制御といった小さい規模の製品を紹介したが、そもそもRISC-V財団の財団メンバーにHuaweiが入っている。さらに、GAFAの中国版ともいわれるBATH(Baidu/Alibaba/Tensent/Huawei)は各社とも自前でサーバー向けチップをまかなえる技術や設計能力を持っているわけで、RISC-Vベースのチップに手を出さないと考える方がおかしい。

 実際2020年6月に、Huaweiの傘下でLSIを設計しているHiSiliconは、Hi3861V100という製品を2020年6月に発表している。これはスマートホーム向けのコントローラーという位置づけで、Huaweiの提供するLiteOSというリアルタイムOSが稼働するMCUであるが、これがRISC-Vベースのものである。

HiSiliconが開発した「Hi3861V100」

Hi3861V100を利用する評価基板用の情報一式より。RV32IベースのMCUコアだそうだ。ちなみにLiteOS以外にHarmonyOSもサポートしている

 2021年にはHi3731V110というSmart TV用のSoCも発表されているが、こちらもRISC-Vベースのコアを搭載していることをRISC-V Internationalが公表している

 Hi3731V110の方は同じくLiteOSが動くとは言え、れっきとしたMPUであり、動画デコーダーやグラフィックエンジン、ディスプレーエンジン、USB 2.0 I/Fなどを含んだはるかに性能の高いチップである。そもそもスマートTV向けなので動作がもっさりしていたら商品として差支えがあるので、それなりのキビキビとした動作が求められる用途に、2021年にはRISC-Vコアを投入してきたわけだ。

 これらは外部、つまりHuawei社内で使用する分ではなく、Huawei/HiSiliconの外部の顧客に販売する目的の製品であり、社内向けにはもっと高性能なチップ、それこそサーバー向けのチップを開発していたという話は出ていた。

 ただ、最初からArmやインテルのチップを性能で凌駕できるものを作るのは難しいし、ソフトウェア側の対応も必要になる。したがって、ロードマップ的には何世代かにまたがるものであり、当初はソフトウェア開発のプラットフォーム向けに、そこそこの性能のもの(おそらくはArmのCortex-A51やA53程度だろう)をまずは開発。これでソフトウェアの移植や検証などを行ないつつ、その間により性能の高いRISC-V CPU IPを開発していくという話だったと聞いている。理に適った堅実な案である。

 なぜRISC-Vコアを使うか? は簡単な話で、自前でシリコンからソフトウェアまで提供できるBATHクラスの企業の場合、Armやx86のエコシステムに頼る必要性がない。エコシステムに加わる最大の理由は、そこで提供されているソフトウェアを利用できることに尽きるわけだが、BATHクラスの企業になるとそもそもソフトウェアのインフラから自前で構築しているので、エコシステムに加わるメリットが非常に薄い。

 おまけに、プロセッサーやそれを搭載するボードも自前で調達しているとなると、Armとx86を使うのは無駄にコストがかさむだけである。短期的には仕方ないにしても、長期的にはライセンス料もロイヤリティも不要なRISC-Vに移ろう、と考えるのは非常に合理的である。

 ところで、なぜ少し上で「話は出ていた」と過去形で書いたのか? というと、事情が変わったからだ。HuaweiだけでなくそれこそAlibaba/Baidu/Tensentやこれに続くクラウドプロバイダーは、比較的穏当なスケジュールでRISC-Vへの移行を予定していた。これが全部ご破算になったのは、連載747回でも触れた米中貿易摩擦のせいだ。

 先端チップが買えないどころの話ではなく、ArmのIPを使うことが禁じられかかるといった状況に陥った以上、今利用している分はともかくとして次世代以降のインフラにArm IPは使えないし、ハイエンドのXeonなども売ってもらえない。となるとRISC-Vをベースにより高性能なサーバー向けプロセッサーを前倒しで構築・導入するしかないわけだ。

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