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IMART2023実行委員 数土直志氏インタビュー

マンガ・アニメ業界のプロがガチトークするIMART2023の見どころ教えます

2023年11月21日 17時30分更新

女性や若手の実行委員を増やしたのは「戦略」だった

―― 今年は実行委員に「女性と若い人を増やした」と聞きました。私も実行委員になってメンバーを見渡すと確かにそうだなと感じます。どんな理由があるのでしょうか?

数土 偶然という面もあるのですが、僕個人としては意識的に女性や若い人を増やしたい、とも思ってはいました。IMARTの基本姿勢が「多様なジャンルや視点を入れる」というところにあるので。イベント制作側が単一だと、多様なものは生まれないと思っています。

 個人的に、僕は何か組織で物事をやるときには女性を増やしたいとここ数年ずっと考えているんです。別にそういう運動をしているわけではないのですが、とある現場で「ここに女性が居ないから、入れたほうがいいのでは?」と提案したことがあります。でも、その場にいた人たちには、そもそもそこに気づかなかったんです。

 これは誰かが言わないと変わらないかなと思ったので、機会があれば「女性を入れよう」と話すようにしています。

IMART2023では「多様なジャンルや視点を入れる」ため、女性と若者の実行委員を増やしたという

―― ありがとうございます。アニメ業界は男性中心なのかも……と感じてきた場面も多かったので、すごくうれしいです。

数土 いえ、ありがとうと言われるような話じゃないと思うんです(笑) 女性が参画するという普通の状態に持っていくべきなのは当然のことでしょう。

 別にこれまでも、アニメ業界の人が女性を特別に排除しようとしていたわけじゃないと思うんです。……実際のところ、おじさんがイベントを企画すると、おじさんの友達や知り合いを呼んでくることが多いので、どうしてもおじさんだらけになってしまいます。

―― なんと……! 確かにコンテンツ業界で、女性を排除するような方に遭遇したことはないんです。クリエイターにもお客さんにも女性が多い業界ですからね。

 けれども、何らかの団体を作るとそのメンバーには女性がとても少なくなってしまう。それはなぜだろう? とずっと思ってきたんです。私は、自分が呼ばれないのは、実力が足らないせいだと。

数土 そういうことではなくて、単に団体を作るとき、おじさんが自分の知り合いを呼んでくると自然にそうなってしまいます。それは意識しないと変わりません。

―― IMARTにお話を戻すと、実行委員に「女性と若い人」を増やすことでどんな効果を期待しましたか?

数土 イベントに新たな人材を入れるのは、多角的な視点を確保するという「戦略」でもあるんです。

 女性の委員を入れることで、女性の人脈でこれまでとは異なるジャンルや視点を持つ登壇者を増やせるのではと。若い人なら、今イケてる登壇者を連れてくるかもしれない。そして結果的に多角的な視点になるのでは? と考えたわけです。

―― なるほど。イベントのプロデュースとして良いアイデアだと思いました。企画して登壇者の人選をする実行委員はそれぞれに自身の視点と人脈を持っていますから、その視点と人脈ごとイベントに引っぱってくるということですね。

数土 今年は多角的な視点になったのでは。一方、登壇者67名のうち女性は20名近くまで増えましたが、まだ足りないとも思っています。

―― 新しい企画が増えたようで、私の周りではIMARTのセッションを楽しみにしてくれている方が多いです。私が企画したセッションで、マンガ研究家の藤本由香里さん、ライターの青柳美帆子さんが登壇する『アニメ・マンガ女性ファンとビジネスの歴史』もその1つですね。

筆者がモデレーターを務めるセッションは『アニメ・マンガ女性ファンとビジネスの歴史』『アニメマーチャンダイジングの今』

数土 僕の周りで面白そうと言われたのは、『アニメのお仕事と家事育児』(登壇者:西村 美香 アニメーション美術背景屋・美術監督、西畑朋未 株式会社LuLaforte 広報・制作事務、イシグロ キョウヘイ アニメ監督・演出、川俣綾加 アニメ&漫画ライター)ですね。

 登壇者は実際に子育てをしながら仕事をされている方で構成されていて、男性であるイシグロ監督にも語ってもらいます。育児について監督、しかも男性に語ってもらう場は、アニメではこれまであまりなかったかもしれません。男性も育児に悩んでいるんだという話が出れば面白いし有意義だと思います。

若い人が試行錯誤することで次の世代の育成に

―― 若い人が企画したセッションについてはいかかでしょうか?

数土 そうですね。「マンガ」担当も含めて、いろいろ工夫したり苦労したりしているようです。

 いしじまえいわさんは『アニメプロデューサーは育成可能か』(植田益朗 株式会社スカイフォール代表取締役・一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)代表理事、川口典孝 株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム代表取締役、大澤信博 株式会社EGG FIRM 代表取締役、いしじまえいわ ライター・構成作家)という難易度の高いテーマに取り組んでいます。

 難易度が高いというのは、「アニメのプロデューサー」とひと言に言っても、働いてきた企業や部署、キャリア形成が異なると、知見も目的も大きく異なるからです。登壇者の人選によって、テーマとセッションの流れが大きく変わってしまいます。

 それがセッションを作る醍醐味でもあるけど、いしじまさんはだいぶ悩んで試行錯誤されていました。横から見ていると、本人には申し訳ないけど悩んでいるのがちょっと楽しいなと感じます(笑)

―― 登壇者が多忙な方ばかりなので、全員が集まれる日程調整から苦心されていました。

数土 おこがましいようですが、若い人が企画を立案して、登壇者との交渉も含めて全部自分でやってみたら、何らかの力になるでしょう。IMARTでの経験を生かして別の現場で活躍できたり、次の世代につながる人材に育ったらうれしいよね、という気持ちもあります。

サンライズなどで数々のアニメをプロデュースした植田益朗氏、すべての新海誠作品をプロデュースしている川口典孝氏などが登壇

―― 今回、女性や若い実行委員も自由な発想で企画を立てることができました。でも一方で「まだ不慣れな人を入れる」リスクもあったと思います。運営側としてはどのような方策を立てましたか?

数土 これは委員選出の段階で、そこをクリアできそうな人たちを選んだから、その心配はすでにクリアされているんです。事前にある程度、見込みと調整ができていたと言えます。

 各委員が自由にセッションを組んだあとで、僕ら運営委員が不足している分野や、マンガとアニメを横断する企画を盛り込むようにした感じですね。

―― そうでしたか。事前の調整が大事だと。「プロジェクトに新規人材を採用する時のコツ」にもつながりそうなことですね。

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