配信全盛の音楽市場。作り手・送り手・受け手の視点はどう変化した?
配信による音楽聴取が当たり前となった昨今における、音楽コンテンツを巡るカスタマージャーニーや著作権のあり方などについて、ParadeAll(パレードオール) 代表取締役の鈴木貴歩さんにお話をうかがいました。
実は鈴木さんには2014年にもご登場いただいています。その間、音楽業界にはどのような変化があったのでしょうか?
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まつもと 前回の取材からほぼ10年経ちました。
鈴木 時が経つのは早いですね(笑)
まつもと 鈴木さんのお立場も変わり、国内外の音楽市場も配信にシフトして色々変化したというところで、前回の記事にもリンクを貼りながら、作り手、送り手、受け手の3つの観点からどう変わったのかをおうかがいしたいと思います。
鈴木 まず、作り手はノートパソコンやタブレットのような手軽に買える端末で音楽制作できるようになりました。ここは非常に進化したと思います。
特に、音楽制作ソフト――僕たちは「DAW / Digital Audio Workstation」と呼びます――が気軽に使えるようになったことで、パソコンが1台あればスタジオ録音まで完結するような状況が世界中で現われました。
わかりやすいところで言うと、ビリー・アイリッシュはお兄さんがパソコン1台で作った楽曲を歌っていますし、YOASOBIの楽曲制作もノートパソコンとヘッドホンで完結しています。
送り手も変化しました。1つはみんなに聴いてもらう「音楽ストリーミング」です。無料で聴けるプラットフォームとしてYouTubeが台頭し、さらに定額制の音楽ストリーミングサービス、いわゆるサブスクが世界レベルで普及しました。これによって世界中で手軽に音楽が無料もしくは低価格で聴き放題になり、新たな音楽に触れる機会が大きく増えました。
かつてレコード店にCDやレコードを流通させるためには、「レコード会社と契約をする→商品を制作する→商品を流通させる→お金を回収する→回収したお金を分配する」というような1つのバリューチェーンが必要でした。それが「Spotify」などのデジタル配信に置き換わったことで大幅に省力化されました。
レコード会社のような間に入るプレイヤーがいなくても音楽を流通できるようになり、その反面僕たちが「ディストリビューター」と呼んでいるプレイヤーが非常に大きく成長しました。
これらが起きたことで、誰もが音楽を送り手として、手軽に世界中に配信をして、さらにそれを世界中の人が手軽に聴けるようになっていったと思います。
鈴木 そして、聞き手もそれに応じて変化していきます。
特に音楽ストリーミング、グローバルな視点で言えば、やはり自分の好きなアーティストを聞くということも当然あるのですが、レコメンデーションやアルゴリズムという形で、ストリーミングプラットフォームの「おすすめ」に左右されることが多くなっています。また、それにある種「乗っかる」ことで新たな音楽を聴いていくことにもなります。
あとは「プレイリスト文化」ですね。おじさん世代にはなじみがあると思うのですが、かつてはCDやレコードから一生懸命ダビングしてドライブ用のカセットテープを作っていたものです。そういった習慣が、ストリーミングでは「プレイリスト」が担っています。
しかも月額聴き放題なので新しい音楽に触れる機会も爆発的に増えました。その結果、新たな世代のアーティストがストリーミングから羽ばたいていったのです。
これと同じようなことはYouTubeでも起こっていました。日本ですとシティポップのブームがありましたが、これはYouTubeのレコメンデーションから突然サムネイルに出てきて、聴いてみたらすごく良かったことから世界的な大ブームになっていったと推測されています。
こういったストリーミングプラットフォームならではの聴き方、聴かれ方の変化が与えた影響は大きいと思います。
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