評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
2023年はラフマニノフ生誕150周年。それを記念してCD、ハイレゾのリリースや、コンサートでのラフマニノフ作品演奏の機会が多い。本作品は、ユジャ・ワンがアメリカ各地で行ったピアノ協奏曲全4曲連続演奏のロサンゼルスでのライブ。2023年2月にグスターボ・ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルハーモニックとの協演にて、ラフマニノフのピアノ協奏曲全4作品、「パガニーニの主題による狂詩曲」を収録した。
ドゥタメル/ロスフィルとユジャ・ワンはまさに同志だ。相携えて、ラフマニノフのロマンティック世界を耕す。ピアノ協奏曲第2番では、冒頭の強靱な打鍵からして、早くもノックアウトだ。実に剛毅でスケールが大きい。低域が雄大で、中域がなまめかしく、高域が躍動する。ピアニズムは完璧に安定し、表現意欲が横溢。歌わせがひじょうにロマンティックだ。まさにラフマニノフが現代に降臨したら、こう弾いたであろうという鮮烈さ。録音も素晴らしい。ディズニーホールでのライブ収録だが、まるでスタジオ収録のように鮮明。2023年2月、 ロサンゼルスはウォルト・ディズニー・コンサートホールで録音。
FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music
2023年3月に逝去したサックスの偉人ウェイン・ショーターへ捧げられたトリビュート・アルバム。ヨシ・ワキ(b)、ジョン・デイヴィス(ds)とのトリオだ。山中の新曲「Dolce Vita」と「To S.」が冒頭を飾り、「Yes or No」「Beauty and the Beast」「Footprints」などショーターの名曲を披露。アルバムの最後には、坂本龍一へ捧げた2曲が収録。まさに目が覚めるようなパフォーマンスと録音だ。一曲目タイトルチューンのオリジナル「2.Dolce Vita」は、悠然たるピアノのメロデイックな進行。「2.To S」は、ピアノがやや左に移動し、右手のコロコロした弾み感と、躍動が耳に心地よい。トリオの3人の音像がたいへん明確。センターにはピアノ、ベースが明瞭に定位し、ドラムスは、左右の振り分けられている。ドラムスのステレオ音場での飛翔と、音像の拡がりも面白い。2023年3月、ニューヨークで録音。
FLAC:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『ハイドン: 6つのディヴェルティメント Hob. IV:6-11』
ハイドン: 6つのディヴェルティメント Hob. IV:6-11
3人のバロックの専門家によるハイドンのディヴェルティメント集。バッハ・コレギウム・ジャパン、オーケストラ・リベラ・クラシカなど活躍している、バロックフルートの新井道代、バロック・ヴァイオリンの池田梨枝子と野津真亮の3人だ。愛すべき可愛い旋律に溢れた佳曲集だ。五反田文化センターの美しいソノリティの上に、明瞭な音像が聴ける。ステレオ音場では、センターを中心にまとまった楽器配置で聴ける。チェロとヴァイオリンは同じ弦楽族だから音色的に綺麗に溶け込み、一方、まったく違う系統のフルートとの対照がとても面白い。鮮明でクリヤーな録音だが、それが強調されるのではなく、音の一粒一粒が円やかで、麗しい。音調はハイドンのコンパクトな室内楽にふさわしい典雅なもの。2022年12月20日--22日、品川区立五反田文化センター 音楽ホールで録音。
FLAC:192kHz/24bit
Waon Records、e-onkyo music
『You're the One』
Rhiannon Giddens
アメリカン・ルーツ・ミュージックの歴史を背景に、独自の世界を歌い込む、リアノン・ギデンズの最新作『YOU'RE THE ONE』。全編でオリジナル楽曲を収録されている。力強く、押し出し感が強く、エッジがシャープに切れる主張型のヴォーカルを、コーラス、エレキギター、ベース、ブラスとドラムスのバックが、強靱な安定したリズムで支える。重層的な音のビート進行が心地好い。カントリー、ソウル、ロック……などの音楽的要素をたくみに編集し、どの曲も親しみやすく、グルーブが快適だ。ヴォーカルを始め、音数は多いが、録音ではそれらをうまくバランスさせ、明瞭な音進行にて融合させている。音楽性と録音性が一致している。
FLAC:44.1kHz/24bit
Nonesuch、e-onkyo music
『Stars & Smiles, Vol.1 (Players)』
鈴木央紹
サックス奏者・鈴木央紹(すずき ひさつぐ)のニュー・アルバム『Stars & Smiles, Vol.1 (Players)』は、横浜のT5Jazz Recordsレーベルでのスタジオ録音3作目。毎回編成が異なっている。第1作「Standards++」はピアノ、ベース、ドラムスとのカルテット、第2作「Favourites」はハモンドオルガン・ドラムとのトリオ、そして第3作の本作はギター、ベースとのトリオだ。テナーサツクス・鈴木央紹、ギター・荻原亮、アコースティック・ベース若井俊也---だ。 眼前にトリオのパフォーマンスを聴くというイメージ。インティメットでジェントルな音楽感と、眼前的な音場感だ。サックスとギター、ベースという編成は、いつものピアノがないので、とても静謐で、ひっそりとしているが、確実にビートは効いている。横浜の港に近いジャズバーで、しっとりと3人の演奏に浸るという雰囲気が愉しい。左にベース、センターにサックス、右にギターという配置も、眼前感が横溢。
FLAC:96kHz/24bit
T5Jazz Records、e-onkyo music
『Departure~新たな船出』
海上自衛隊 東京音楽隊, 植田哲生, 三宅由佳莉(海上自衛隊東京音楽隊所属), 橋本晃作(海上自衛隊東京音楽隊所属)
海上自衛隊の歌姫のニューアルバム。2013年リリースの海上自衛隊東京音楽隊と海上自衛官・2等海曹の三宅由佳莉による『祈り~未来への歌声』は、大ヒット。新アルバムではこの代表作の「祈り~a prayer」をソプラニスタ岡本知高とデュエットしている。その「5.祈り~a prayer 2023[デュエット・バージョン]」は耳触りがたいへんよい、艶々しく輝かしい音色の三宅と、堂々たる、神々しく、音の幹が太い岡本のソプラノが、自然にマッチしている。ユニゾンで同じ旋律を歌うのだが、音色がまるで違うので、混声合唱のよう。バックの海上自衛隊東京音楽隊の演奏も、壮麗で、音楽的。二重唱をたいへんクリヤーに捉える録音もいい。透明感が高いので、二人の音色の違いや、その融合性が、綿密に聴ける。「7.瑠璃色の地球」は、松田聖子とはまったく違う質感、松田聖子はクールにストレートにメッセージするが、三宅は、そのまろやかな音色で、柔らかく、暖かくメッセージを歌い上げる。
FLAC:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
鈴木大介が8弦ギター(低音弦を追加)で弾く、ロマン派の名曲集。シューベルト、メンデルスゾーン、ショパンの編曲ものと、J.メルツ、N.コストのオリジナル作品だ。ギターは音楽の三要素、リズム メロディ、ハーモニーが一台の楽器で演奏できる、ピアノと共に、たいへん珍しい楽器。その能力を8弦でさらに拡張。8弦ギターの表現力は圧倒的だ。「楽に寄す」は、まるでギターにためにシュールベルトが作曲したのではないかと思わせる、メロディの美しさ、ハーモニーの厚みが聴けた。ポヴロヴィッツ編曲によるショパンのマズルカは、輪郭がくっきりと立つピアノとは違う、まろやかな質感が、しっとりしている。「14.N. コスト: ジュラの思い出(アンダンテとポロネーズ) Op. 44」。のメロディとハーモニーの美しさには、泣けるほど。ギターの音色のヒューマンなこと。2022年9月、PyramixにてDSD 11.2MHzで録音。
e-onkyo musicの特別記事「椿三重奏団2ndアルバム『偉大な芸術家の想い出に』発売記念対談 麻倉怜士×武藤敏樹(アールアンフィニ代表)」に、私はこう述べている。
「前半を聴いて、原曲のピアノ版とかなり違うと思ったのは、ピアノというのは、10本の指で弾くと全部が主張する感じがするのですが、そこがギターだとそんなに主張しないというか、みんなでうまくまとめるというか……。リズムとハーモニーのバランスが大変良くて、ハーモニーの中にメロディーが浮かび上がってくる。ピアノだったら、ハーモニーもメロディーもどちらも頑張る感じなのですが」。
FLAC:384kHz/24bit
ART INFINI、e-onkyo music
ベースの須川崇志、ピアノの林正樹、ドラムスの石若駿のバンクシア・トリオ第3弾。東京のStudio Dedeでアナログ録音した。実に生々しい。ベースがスタジオの空気を震わせ、ドラムスのブラシワークが目の前で見えるようなヴィヴットさ、ピアノも響きの美しさと、輪郭のエッジ感が、これまた生々しいのである。奥行きを持つステレオ音場にて、空気が音で凝縮されたかのような濃密な空間感だ。この楽器の立ち方や、一音一音の緻密さはオーディオチェックにも十分、使えるだろう。「2.MASKS」は音場が、音で充たされる感覚。いまをときめく石若駿のスーパーテクニックが堪能できる。大地を揺るがすようなベースの雄大さ、低音体積の大きさも刮目。録音と演奏の凄さが際立つ作品。2022年10月、Studio Dedeで録音。
FLAC:192kHz/24bit
rings、e-onkyo music
『〈ハイドン:交響曲集 Vol.21〉第69番「ラウドン将軍」、第71番、第53番「帝国」』
飯森範親, 日本センチュリー交響楽団
日本センチュリー交響楽団が首席指揮者の飯森範親と共に、ハイドンのすべての交響曲を演奏する一大プロジェクト「ハイドンマラソン」。本アルバムは第25回、27回コンサートのライヴ収録だ。実に晴朗なハイドン。喜びに溢れ、前向きで、チアフルな音楽を、その鮮明な音色そのままに録音している。音場の透明感が高く、奥行き方向にまで、音場がクリヤーに見渡せ、各部門の解像度が高い。弦の倍音がたいへん綺麗に収録されているのが、音のすがすがしさにつながっている。グラテーションも緻密だ。2021年9月30日(第69番、第71番)、2022年5月26日(第53番)、大阪、ザ・シンフォニーホールにてライヴ録音。
FLAC:192kHz/24bit
EXTON、e-onkyo music
ニューヨークを拠点に活躍するドラマー、ジョナサン・ブレイクの初リーダー作。メンバーはサックスのマーク・ターナー、ジャリール・ショー、キーボードのケビン・ヘイズ、ベースのベン・ストリート。ゲストもトランペットのトム・ハレル、ハーモニカのグレゴア・マレ、キーボードのロバート・グラスパーと、豪華。「1.Lament For Lo」は冒頭のドラムスソロがたいへん印象的。「2.Passage」はピアノ、テナーとアルトのサックス、ベースはセンター、ドラムスは右よりに配置されている。互いの綿密な関係性が分かる音場と音像だ。「6.Tears I Cannot Hide」はサックスの粘っこさ、ケビン・ヘイズが弾くフェンダーローズとビブラフォンの合奏が、セクシーで心地好い。音像の間の空気感がとても濃い。
FLAC:96kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music
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