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鮮明で尖鋭、そして美音のヴァイオリニストの登場だ!

100万ドルのヴァイオリニスト? フランスの新鋭ルカ・ファウリーシのデビューアルバムほか~麻倉怜士推薦音源

2023年04月23日 15時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『SHANTI with String Quartet LIVE (96kHz/24bit)』
SHANTI

特選

 久方振りのSHANTI。最近、取り組んでいる弦楽器編成でのパフォーマンスをライヴ収録したアルバムだ。2022年5月、渋谷のHakuju Hallにて録音。エンジニアはUAレコード合同会社で「情家みえ・エトレーヌ」、「小川理子・バリュション」を録音していただいた名匠、塩澤利安(コロムビア)氏が務めている。同氏はこれまでもSHANTIアルバムでプロ録音賞を数度、受賞している。曲は、「Fly me to the moon」などのスタンダードナンバーを含む全7曲。

 「1.Sunset (96kHz/24bit)」は意表を衝く、サティの「ジムノペディ」だ。弦楽カルテットのポップは、ビートルズのイエスタディでお馴染みだが、ライトジャズでもよく似合う。SHANTIの歌声も落ち着いた、豊かなボディ感を湛え、弦楽にマッチしている。左右に広がった弦の音が美しい。塩澤氏の録音はナチュラルで、臨場感が濃い。ライブ的な美麗さが、ヴォーカルのファンタジーを高めている。

FLAC:96kHz/24bit
Nippon Columbia Co., Ltd.、e-onkyo music

『Aria』
Luka Faulisi, Itamar Golan

特選

 フランスのヴァイオリニスト、ルカ・ファウリーシのデビューアルバム。「100万ドルのヴァイオリニスト」(ピンカス・ズッカーマン)、「素晴らしい技巧、パワフルな音楽的表現力」(エマニュエル・パユ)と名手が絶賛し、世界が注目する新人だ。フルート・メーカーのフォリジの創業者を父に持ち、3歳でヴァイオリンを始め、名手ボリス・ベルキンに師事した。 本デビュー・アルバムは、アウアー、コハンスキ、ジンバリストなど、ヴァイオリンの名手たちがアレンジしたオペラ・アリアによる華やかな小品集。ファウリーシ自身の『椿姫』編曲も収録されている。

 鮮明で尖鋭、そして美音のヴァイオリニストの登場だ。ヴィルティオーゾ的な曲芸もさることながら、一音一音が美しく、伸びやかで、躍動的だ。「ヴェルディ/ファウリージ編:歌劇『椿姫』より乾杯の歌」の華麗さ、「同・そは彼の人か~花から花へ」のブリリアントな躍動、「同・フィナーレ」の大芝居の悲劇性……とまるで、ヴィオレッタになったようなヴァイオリンの歌いだ。「ビゼー/ワックスマン編:カルメン幻想曲のハバネラ」の官能性も豊か。名手イタマール・ゴランのピアノも見事な助演。まさにルカ・ファウリーシのデビューを飾る、歌心に溢れた新鮮なアルバムだ。2000年12月7-20日、パリはサル・コロンヌで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Home Again - Live From Central Park, New York City, May 26, 1973』
Carole King

特選

 1973年5月26日、ニューヨークのセントラル・パークでの開催された、10万人以上の聴衆を集めたキャロル・キングの歴史的なコンサートのライブ。ピアノの弾き語りと、11人編成バンドとの協演だ。「It's Too Late」「You’ve Got A Friend」「Smackwater Jack」「Sweet Seasons」「Been To Canaan」……、うーん、懐かしい。 もともと作曲家を目指していたが、自分でも歌い出すというのはユーミンと同じストーリーだが、さすが、作曲者だけあり、歌の深い意味を、見事に聴かせてくれる。You’ve Got A Friendは懐かしくて、涙無しには聴けない。50年前の録音だが、flac 48kHz/24bitにも関わらず、素晴らしい音質だ。ヴォーカルとピアノの音像がシャープで、音調もたいへんクリヤー。11人編成のバンドが加わっても、クリヤーさはそのままだ。

FLAC:48kHz/24bit
Legacy Recordings、e-onkyo music

『The Handel Project: Handel-Suites & Brahms-Variations』
Seong-Jin Cho チョ・ソンジン

推薦

 2015年ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝した韓国のピアニスト、チョ・ソンジンのバロックとロマン派の作品集。ヘンデルの組曲と、ブラームスの「ヘンデル変奏曲」をカップリングした。チョ・ソンジンは、「より明瞭さを追求するために、サスティンペダルを極力使わず、バロック音楽の表現を重視しながらも、モダンピアノの可能性を引き出すためにダイナミクスを一部変更しています」と述べている。

 ピアノのバロックは、表現のダイナミックレンジの広さ、音色の多彩さ、そして奏者の思いの込められる受容性……から、チョ・ソンジンがあえて挑戦するにふさわしいテーマ。その意味で、ピアノの性能を十全に発揮したヘンデルだ。クラヴィーア組曲第1巻第2番ヘ長調の第1楽章Adagioはトリルの装飾が美しく、右手の旋律もシンプルに響く。第2楽章 Allegroは左手のスタッカートと右手の躍動が、ダイナミックに対比する。第3楽章Adagioはサスティンペダルを使わとも、響きが美麗だ。ヘンデルをプラットフォームにしたブラームスの「ヘンデルの主題による25の変奏曲とフーガ 変ロ長調」は、それとは対照的に、ピアノのロマン的な側面を強調することで、ピアノの表現性をダイナミックに聴かせる。スタッカートとスフォルツアンドが同居し、低音の偉容さは比類ない。2022年9月、ベルリンはジーメンスヴィラで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music

『LIVE 2022 "Simple is best"』
手嶌 葵

推薦

 手嶌葵の初のライブアルバム。2022年6月4日東京オペラシティ コンサートホールで行われたピアノ&弦楽四重奏、1月14日に同会場で行われたピアノ、ギター、ベース、バイオリン、サックス、パーカッション---という異なる編成のライブを収録。特に2022年6月4日のピアノ&弦楽四重奏との協演が素晴らしい。ライブ録音なのに、もの凄く音が良いのである。センターのヴォーカルはもちろん、ピアノ&弦楽四重奏も、たいへんクリヤーで、存在感が確実だ。特徴的なかすれ声も、リバーブと会場の響きが合算され、妖艶と形容できるほど、グロッシーだ。味わいがコンデンスされ、さらにさらに濃密になる。これほどのライブ録音のクオリティは珍しい。

 私は手嶌葵には3つの音楽的特徴があると認識している。①フレーズの終わりで母音を明確にしている時と、していない時があり、母音と子音の使い分けでニュアンスを出すのが上手い。語尾の子音の擦れが魅力的。②はかなき歌声だが、その背後には、強靭で強固な芯の強さがある。③暗いなかの明るさ、明るいなかの暗さという、感情の深みとアンビバレントが、味わいを深くしている。これらが堪能できるのが「3.瑠璃色の地球」。たいへんしっとりとした感情が聴ける。

FLAC:48kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound.、e-onkyo music

『Bruckner: Symphony No. 9 in D Minor, WAB 109 (Edition Nowak)』
Christian Thielemann, Wiener Philharmoniker

推薦

 2024年の生誕200年を目指し、クリスチィアン・ティーレマン&ウィーン・フィルが取り組むブルックナー・プロジェクトの第6弾。3楽章までオーケストレーションを終えながら終楽章を未完にした第9番だ。。ウィーン・フィルの表面の柔らかさ、内実の芯の強さ、大伽藍的な響きが、巨大なブルックナー世界を色濃く体験させてくれる。暖かく、スケールが大きく、包み込むようなマッシブさという、ウィーン・フィルの特質を見事に活かした巨魁なブルックナーだ。 ライブ収録らしく、細部まで徹底的に解像させるという行き方ではなく、全体を鳥瞰し、その全体像を抱擁力の大きさで包む。潤いと、輪郭の優しさは、まさにウィーン・フィルだ。2022年7月28日&30日、ザルツブルク、祝祭大劇場でライヴ・レコーディング。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』
Brad Mehldau

推薦

 ジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーのアルバムは本欄でも何度も紹介しているが、今作はビートルズ。なぜYour Mother Should Knowをタイトルチューンにしたのか。それは、ドミナント進行がビートルズ曲の中でももっとも強烈で、短調と長調が混ざり合う哀愁漂う曲調の音楽的魅力であろうと私は想像する。私事で恐縮だが、早稲田大学エクステンションセンターのビートルズ・コード進行全曲分析講座は、2022年の1月からスタートし今、イギリスで7番目のアルバム、「 Revolver」(1966)に入った。そのデフュージョンも横須賀市、津田塾大学の市民講座で展開している。

 その「2.Your Mother Should Know」はブラッド・メルドーは、対位法的な奏法がバロック的。「3.I Saw Her Standing Thereは左手の低音の蠢きが躍動。「4.For No One」は、ジャジイな即興と、低音のクリシェがマッチングする。「5.Baby's In Black」は左手の複雑なコード進行とブルーノートが彩りを与えている。デビット・ボーイの「A DAY IN LIFE」のアンサーソング、「11.Life On Mars?」もしっとりとした味わい。録音は響きが美しい。

FLAC:48kHz/24bit
Nonesuch、e-onkyo music

『Clara & Robert Schumann: Piano Concertos』
Beatrice Rana, Chamber Orchestra of Europe, Yannick Nezet-Seguin

推薦

 1993年、イタリア生まれのベアトリーチェ・ラナがヤニック・ネゼ=セガン指揮&ヨーロッパ室内管弦楽団と協演したクララとロベルト・シューマンのピアノ協奏曲。ベアトリーチェ・ラナはイタリアの音楽一家に生まれ、4歳から音楽の勉強をスタートし、9歳でバッハのヘ短調協奏曲のソリストとしてオーケストラと共演。ニーノ・ロータ音楽院で16歳にてピアノの学位を取得。2013年6月にはヴァン・クライバーン国際コンクールで2位賞と聴衆賞を獲得。2011年のモントリオール国際コンクールに入賞……と、まさに俊英だ。

 クララのピアノ協奏曲はロマンティックな雰囲気と、美しい旋律美に溢れた名曲だ。これが13歳の少女の作品とは驚かされる。「10代の彼女が何の制約もなしにこの音楽を構想し、楽章と楽章の間に休憩もなく、途切れることのない協奏曲を作曲したことが魅力的」と語るベアトリーチェ・ラナは、この曲の伝道者として、見事なメッセージを聴かせる。美しいピアニズムだ。シューマンも繊細でカラフル。2022年7月8-10日、バーデン=バーデン祝祭劇場にて録音。

FLAC:96kHz/24bit
Warner Classics、e-onkyo music

『Dance Kobina』
Joe Chambers

推薦

 ブルーノートのレジェンドドラマー、ジョー・チェンバース(1942~)の2年ぶりのアルバム。いまや80歳でも たいへん精力的。「1.This Is New」ではエネルギーに満ちたドラムスとメロディアスなヴアイルのピアノが美しい。。アルバムテーマの「2.Dance Kobina」はラテン的、アフリカ的な熱いリズムで、思わず踊り出しそうな勢い。コンゴのリンガラ語でKobinaは「踊る」。躍動的な音進行が楽しい。「3.Ruth」では、叙情的なピアノとサックスをフューチャー。録音は音像描写がしっかりとしている。

FLAC:44.1kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music

『Femmes』
Raphaela Gromes, Festival Strings Lucerne, Julian Riem, Daniel Dodds

推薦

 ドイツの人気女流チェリスト、ラファエル・グロメスの最新作はタイトル『Femmes』(フランス語で女性)どおり、新旧の女性作曲家の作品を集めた。「なぜ、女性作曲家の作品を集めたアルバムを作らないのですか?」と聞かれたグロメスが「自分が知っている女性作曲家はごくわずかしかいない」ことに気付き、さまざまな女性作曲家の作品を渉猟し、23人の女性作曲家による中世から現代までの美しい作品を選んだ。

 それは---ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)、クララ・シューマン(1819-1896)、ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド(1821-1910)、マティルド・カピュイ(1913-2017)、ヴィクトリア・ヤグリング(1946-2011)、フローレンス・プライス(1887-1953)、ナディア・ブーランジェ(1887-1979)、リリ・ブーランジェ(1893-1918)、セシル・シャミナード(1857-1944)、ジェルメーヌ・タイユフェール(1892-1983)、エイミー・ビーチ(1867-1944)、ドロレス・ホワイト……だ。聴いてみよう。

 「1.ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:おお、英知の力よ」はエスニックにして、チェロの音色が心に染みいる。「3.ヘンリー・パーセル:歌劇『ディドーとエネアス』~私が地に伏す時」は心に深く沈殿するような哀しみ。「4.モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』~急いでここへ恋人よ」は まさに「フィガロの結婚」の優しい雰囲気、貴族の遊び的な典雅さ。「5.クララ・シューマン:3つのロマンスOp.22~第3曲「情熱的に、速く」は、スウィートでマシュマロ的なおいしさと柔らかさ。 「6.ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド:6つの小品」は明瞭で、旋律線が浮き立つ高揚感。「9.ユリアン・リーム:ビゼーのカルメンによるファンタジー」は、いつもはサラサーテ編曲のヴァイオリン版を聴くが、このチェロは深く、剛毅だ。録音場所は異なるが、トータルで優秀録音だ。2022年7月4-7日、ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター、2022年4月19-20, 5月3-4日、ミュンヘン、バイエルン放送第2スタジオで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical/Sony Music、e-onkyo music

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