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2026年以降の右肩上がりは困難だが、手つかずの領域を攻める、サードウェーブ

2023年10月16日 08時00分更新

法人向けモデルにも注力、AIがそのカギに

 サードウェーブが力を注ぐ法人事業を統括するのが井田副社長である。

 インテルで執行役員を務め、パートナー事業やクライアントコンピューティング事業などを統括した経験を持つ井田氏は、2023年2月にサードウェーブ入りし、副社長として、同社の新たな法人事業をリードする役割を担う。

サードウェーブ

井田氏

 井田副社長は、「サードウェーブは、40周年の節目に向けて、Inflection Point(戦略的転換点)を迎えている。ここで大きな飛躍をしたい」と意気込む。

サードウェーブ

サードウェーブの法人向けモデル

 法人事業への注力は、同社にとって、まさに戦略的転換点となる。

 その中核のひとつに据えるのが、AIである。

 「AIは、私たちの生活のすべてに関わってくる。ビジネスシーンでも、様々な用途で利用されることになる。raytrek の役割のひとつが、AIにフォーカスすること。AIの学習などにも活用できるデバイスも投入しAIに最適化した製品として展開していくことになる」と語る。

 サードウェーブの尾崎社長も、「サードウェーブは、一般的なPCやワークステーションでは対応できない用途のために、特別な構成の製品が欲しいというニーズに応えてきた経緯がある。CGクリエイターやミュージシャン、大学をはじめとする学術機関の研究者、大手企業の技術者などの利用も多い。AIの世界でも、この経験を生かすことができる」とし、「OpenAIのChatGPTの衝撃に続き、オープンソースとして提供されるMetaのLlama 2は、今後、Linuxのような広がりが期待される。AIの世界は一気に広がっていくのは間違いない。膨大なデータを与えた汎用的なAIの活用だけでなく、各企業が持つデータをもとに、学習をさせたAIの利用も広がっていくことになる。サードウェーブは、サーバーやワークステーションを、企業や研究所などに提供するとともに、クラウドサービスによるAI活用を促進することにも力を注いでいく」と述べた。

 サードウェーブ自らもクラウドサービスとして「raytrek cloud」を展開することになるという。

5つの注力エリア

 2023年8月からスタートした同社新年度において、注力エリアに掲げているのが、「ゲーミングPCユーザー層の拡張」、「クリエイター・デザイナーPCの成長」、「法人市場のさらなる開拓」、「文教市場におけるハイエンドPCの訴求」、「継続的な店舗展開と様々な製品訴求」の5つである。

サードウェーブ

 なかでも、店舗展開では、前年度に10店舗をオープンしたのに続き、今年度も新たに10店舗のオープンを目指すという。

 サードウェーブの2023年7月期の売上高は前年比1%増の765億円となった。前年比でほぼ横ばいという実績は、国内PC市場全体の低迷が影響したというが、新規店舗の出店や、生産物流拠点の拡大、新たな製品ラインの技術開発に取り組むなど、投資面での強化を進めてきた1年でもあったと振り返る。

 だが、今後は高い成長を見込むことになる。中期経営計画では、2024年7月期には850億円、2025年7月期には950億円、2026年7月期には1000億円の売上高を目指すことになる。市場変化にあわせて、計画は見直すことになるというが、基本的には右肩あがりの計画は崩さない。

サードウェーブ

 この成長戦略においても、法人事業が重要な役割を果たすことになる。

 井田副社長は、「サードウェーブは、コンシューマ事業が中心であり、法人事業の比率は3割弱。国内PC市場全体の約7割が法人市場であることを考えれば、サードウェーブにとっては、大きな伸びしろがある」と語る。

 同社では、2025年には法人向け売上比率を、5割にまで高める考えであり、名実ともに法人事業がこれからの成長の原動力になる。

1000憶円を達成したその先を

 だが、課題は、1000億円を達成したその先である。

 というのも、2025年にはWindows 10のサポート終了に伴う買い替え需要と、教育分野における端末の更新需要となるNext GIGAの特需が重なり、多くのPC出荷が見込まれるが、2026年以降は、その反動によって、国内PC需要の長期的な低迷が想定されるからだ。

 サードウェーブにとっても、2026年以降も右肩上がりの成長戦略を維持するのは至難の業といえそうだ。

 だが、これまでにホワイトスペースであった法人市場での事業拡大や、ほとんど手つかずであった文教市場においても、家庭向けの学習用PCを訴求できれば話は別だ。また、成長市場となっているゲーミングPCにおいて、これまでのブランド力を生かした提案が継続的に行える強みもある。そして、法人事業でキーワードのひとつに掲げるAI分野において、存在感を発揮できるポジションを確立できれば、それも事業成長に向けた武器になる。

 加えて、売上高1000億円の規模になると、企業としての信頼性が高まり、法人需要においても同社製品の導入が検討される機会が増えたり、社員の採用にもプラス効果が生まれる。これは、その先の成長に向けた準備が整うことを意味する。

 井田副社長は、「PC市場の変化をいち早く捉え、どこにビジネス機会があるのかを把握する必要がある。法人事業に力を入れることは、その先の成長を維持することにもつながる」と、長期的な成長にも自信をみせる。

 サードウェーブのビジョンは、「100年先も世の中に求められる会社であるために」であり、ミッションには、「人々の創造活動の可能性を最大限にする」を掲げる。

 AIに力を注ぐことを明確に示すとともに、中長期的な成長に向けたドライバーとなる法人事業への注力は、まさにビジョンとミッションの実現に直結するものになる。

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