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ソフトバンクと東工大、衛星通信への5G基地局の電波干渉を無くすキャンセル装置の実験に成功

2023年10月09日 09時00分更新

 ソフトバンクと東京工業大学は、5G基地局と衛星通信地球局の電波干渉を抑圧する「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置を開発、室内での実験に成功したと発表。メディア向けにその装置を公開した。

システム間連携与干渉キャンセラー

5G基地局からの電波と衛星通信の干渉を避けるための実験装置をメディア向けに公開

5Gで高速通信を実現する3.7GHz帯は
衛星通信との干渉があるため基地局の場所や出力に制限がある

 今回の実験の前提として、5G向けにMNO4社に割り当てられている3.7GHz帯と呼ばれる周波数(Cバンド、ソフトバンクは3.9~4GHz)は、通信衛星などに用いられており(3.9GHzは衛星通信の下り通信)、その干渉を回避しつつ活用する必要がある。

 干渉を回避する手段としては、物理的な離隔距離を確保する、送信電力を低減する、指向性のあるアンテナを用いるなどがあるが、状況によっては50km以上の離隔距離が必要なケースがあり、特に地上局が集中して存在している関東圏では、高速な5Gエリアの拡大においての課題になっている。

システム間連携与干渉キャンセラー

干渉を回避するには距離を離したり、出力を弱くするといった対応がなされている

 今回の「システム間連携与干渉キャンセラー」はその干渉を低減させる手段として、5G基地局からの無線によって干渉を受けた状態の地球局の信号に、5G基地局から光ファイバー経由で送信された信号を用いて生成したキャンセル信号を混合。ノイズとなっている5G基地局の干渉信号を打ち消すことで、本来の衛星通信からの信号だけにするというものだ。イメージとしては、イヤホンのアクティブノイズキャンセリング機能に近いものと言えるだろう。

システム間連携与干渉キャンセラー

試験装置のイメージ。リアルタイムにキャンセル信号を生成して、衛星通信の地上波が受信した信号に合成する

システム間連携与干渉キャンセラー

実際に干渉信号がなくなっている様子

5G基地局の信号を光回線で伝送してキャンセル信号を生成する

 今回説明いただいた東京工業大学工学院 藤井輝也特任教授によると、開発された実験装置については、いくつかキモとなる部分があるとのこと。

 1つめはDAS(Distributed Antenna System、分散型アンテナシステム)。5G基地局で分岐された信号をDASで光信号に変換。今回のテストでは5km分の光ファイバーを通した先で、キャンセル信号を発生させる装置に入力する(この光ファイバーを経由する信号を「レプリカ信号」「カンニング信号」と呼んでいる)。

システム間連携与干渉キャンセラー

DASと呼ばれる装置で光信号に変換して、光ファイバー経由で5G基地局の信号をキャンセラーに入力する

 ただし、光ファイバー内の光信号は無線信号と比べて、約2/3の速度のため、そのままでは5G基地局からの干渉信号の方が先に届いてしまう。そこで5G基地局側に遅延装置を設け、レプリカ信号が先に着くよう調整。これで衛星通信の信号に調整を加えずとも、キャンセル信号を生成できる(この遅延による5G通信への影響はほとんどないとのこと)。

 もう1つは地球局側の設備。地球局で受信した(5G干渉信号を含む)信号を分岐して、片方を干渉キャンセラー装置に入力し、キャンセル信号を生成。元の信号に合成させるだけで、本来の衛星信号を復元する。そのため地球局側では分岐器と合成器の2つを追加するだけで、もともとの無線装置に手を加える必要がない。

システム間連携与干渉キャンセラー

衛星通信の事業者にとっては、分岐/合成の2つの装置を挟むだけで済む

 干渉キャンセラー装置は今回はFPGAで実装されていたが、もし実用化されるケースでも数メートルもあるような巨大な装置にはならないのではということだった。これらの要素から見えてくる狙いは、先行して周波数を利用している衛星通信の事業者側に大きな負担はなく、実現可能な技術という点だ。

 今回の実験では、建物に反射するなどして、わずかに遅れて到達した電波を想定して、3つの干渉信号を受信した状況だったが、より多くの信号、また複数キャリアの基地局からの信号を受信するような場面でも、実験の成果は活用できるのではないかとのこと。今後は無線局免許を申請した上で、屋外の実環境での有効性を実証する予定だ。

 

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