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〈前編〉アニメの門DUO TRIGGER取締役・舛本和也さんと語る

アニメの放送延期が続出した原因は「海外依存8割の動仕」にあるが解決は困難

「AI中割」は人材育成の代替策になるか?

まつもと 一方、AI技術による「動画の中割りの自動生成」も一部で実施されています。たとえばNetflixの「配信作品を学習させて背景を自動生成」する取り組みですね。こういった自動化は、海外依存率を下げつつ、人手不足を解消する解決策の方向性の1つになり得ますか?

舛本 はい、確実になり得ると思います。そもそも今は「仕事の供給量が多い状態を日本国内で消費できていない」という状況が慢性的に起きているので、自動生成技術が本当に使えるものになるようであれば、その分を国内対応とすることで、結果的に生産性が高まる可能性もあると思います。

まつもと 実際、現場で中割りの自動生成を試されたことはありますか?

舛本 はい。これまでにもいろいろなソフトをトライアルしていますが、通常営業に乗せられる技術かというと……。

まつもと まだ解決しないといけない点は多い、と。舛本さんは特にどのあたりが弱点・課題だと感じていますか?

舛本 日本国内ですと、AIの研究者がまず足りません。そして研究するための材料も不足しています。

まつもと AIに学習させるための素材。

舛本 完成した映像はいくらでもありますけれど、途中工程の素材は世に出るものではありませんから、学習させようとしても研究素材が足りないでしょう。

まつもと じつは、TRIGGERさんは国立情報学研究所と提携して、研究目的であればTRIGGERさんが制作したアニメの素材データ――『リトルウィッチアカデミア』の絵コンテやレイアウト、原画など――を利用できるという取り組みも始めていらっしゃいますよね。

 AIにそういった素材を学習させるといったことも始まっていますか?

舛本 そうですね。研究は業界の一部で頻繁にされているみたいです。

まつもと しかし動画の中割りは、まず読み解ける能力がないと……。私はホントにAIが学習できるのかな? と思っちゃったり。

舛本 いやー、こればっかりは僕も想像がついていないところなのでなんとも申し上げられないですけれど、確かにアニメは3Dに比べると動き方が独特というか、マンガの文化という言い方が正しいかどうかわかりませんが、誇張した表現になっていますので。

アニメ『リトルウィッチアカデミア』の素材は、AI中割も含む学術的研究の促進に使用されている(画像はニュースリリースより)

まつもと デフォルメされているのですね。

舛本 とは言え、ある程度の法則はあるのです。動画マンが最初に受ける研修も13項目くらいに分割されていて、それぞれ基礎的な動かし方を習います。その特徴・作法をある程度抽出――という言い方で正しいのかな――したうえで自動学習にかければ、法則に則った動画ができるかもしれないなぁ……と思いました。

まつもと もし実用化されれば、「国内での動画・仕上げ」「海外に出している動画・仕上げ」のほかにもう1本、「自動化した動画・仕上げ」というラインが増えます。これによって、アニメーター不足が原因の海外依存から脱却できる“可能性がある”と。

舛本 “可能性がある”ですね(笑)

まつもと この問題って、アニメ業界だけでは解決しなくて、AI研究者や研究機関との連携がめちゃくちゃ重要ということになりますよね。

ゲームエンジンがアニメを救う?

まつもと 人手不足の解消方法として、AI以外の選択肢を1つ挙げてみます。具体的には、無料で使えるUnityのAnime Toolboxを使うと、リアルタイムの3Dレンダリングのなかで動画ができるし、色も着けて仕上げもできる。

 さらにコンポジットにも撮影の機能を持たせていて、謳い文句としては「After Effects同様の作業結果が得られる」。

舛本 ああー、なるほど。

まつもと ただ、ゲームエンジンなので、セルルックではありますが、フル3DCGなわけです。ここが、もう1本のラインとして成立しうるのかどうかというところも、舛本さんにお話をうかがってみたかったんです。

舛本 たぶん普通にあり得ることかな。今でも3DCGが2Dのアニメに貼り込まれることはたくさんありますので、そこに違和感がないのであれば、3Dを使った自動中割りがあったとしてもおかしくないなと思いますね。

3dx MaxとUnityでそれぞれレンダリングした場合の比較映像。アニメ『Hello World』の各場面を使用している

まつもと ゲームエンジンを使った場合、動画・仕上げの工程には通さずに、いきなり撮影に持っていけるものなのでしょうか?

舛本 作り方にもよりますが、うちの作品ですと、出来上がったコンテからカット単位で3Dに流れていって、最後に素材として撮影に入る、という流れになります。

まつもと 現状ではリアルタイムレンダリングではなく、モデリングしてレンダリングしてという、3Dのお作法に沿って作ったものを撮影に流しているわけですが、リアルタイムレンダリングができるゲームエンジンを導入すれば、レイアウト、プリビズの段階から一貫して使えるのでは、という話も出ています。

 工程が大幅に圧縮というか、1つの工程でほとんどのことが終わっている、というアニメの作り方も可能にはなりそうですよね。

 このように、技術的には解決方法がいくつか提案されています。おそらく、共通する問題は、現場にノウハウがあまりないので、ゲームエンジンを作っている会社や、AIを研究している研究機関などとの連携が欠かせないことです。

舛本 そうですね。ちょっと自分たちの業界では、なんとも前に進まない案件で。

まつもと 系統が違いますからね。ありがとうございます。相次いだ延期の問題を今後どのように解決していけばいいのか、お話を広げておうかがいしました。

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