写真:編集部撮影 「ミスチルを目指して終わるな──坂本龍一かく語りき」(2009)より
坂本龍一さんの自伝『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(坂本龍一 著、新潮社)を読み終えたとき、もう20年近く前、たった一度だけお会いしたときの記憶が蘇ってきた。本書の行間から染み出てくる温かな人柄は、テーブル越しに向き合って話をしたそのときの印象とまったく同じだったからだ。
お会いしたのはとある雑誌の、たしかオーディオ関連特集の取材のためだった。相手が相手だけに私はやや緊張気味だったが、気持ちを解きほぐしたのはほかならぬ坂本さんだった。
とはいえもちろん、初対面の取材者をリラックスさせるためになにか特別なことをしてくれたわけではない。ただ、柔らかな笑顔を浮かべながらこちらを見ながら、穏やかに話し続けてくださっただけだ。
でも、そんなさりげなさに助けられたのだ。とても自然な振る舞いだったものだから、その姿を目にしているだけで、固まっていたものがすっと溶解していくように楽な気持ちになれたのである。
だから、そのときのほんの数十分の時間は、あまりに心地よく鮮烈なものだった。だからこそ私は本書を、まるで20年近く前のあの日の“話の続き”のように感じたのである。
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ぼくはあと何回、満月を見るだろう |
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