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新幹線の「ワゴン販売」は消えゆく運命だった

2023年08月10日 17時25分更新

ワゴン販売は効率的とは言いがたい

 新幹線でのワゴン販売は、お世辞にも効率のいい売り方とは言いがたい。問題は2つある。1つはワゴンを乗客自身が呼び止める必要があること。もう1つは、ワゴンは一度通過すると、しばらく同じ車両に戻ってこないということだ。

 ワゴン販売の基本は、編成の中間部にある基地スペースを出発し、ワゴンを押して車内を歩きながら商品を販売するというもの。周り方にもある程度決まりがあって、筆者の勤務先では列車の始発駅から終着駅までの間に、最低1回はすべての担当号車を通過するよう指導されていた。

 実際には、通路が立ち客であふれる繁忙期でもない限り、複数回は往復できる。売上もおおむね往復回数に比例して上がっていくが、調子に乗ってやりすぎると、逆に売上が減ってしまう。ワゴン販売では乗客が販売員を呼び止める必要があるので、呼び止めやすい移動速度にとどめないと、販売機会を逃してしまうためだ。

新幹線は速さが売りだが、車内販売は速すぎてはいけない

新幹線は速さが売りだが、車内販売は速すぎてはいけない(画像出典:PAKUTASO

 では、理想的な移動速度を身につければ鬼に金棒かというと、そう単純ではない。次に立ちはだかる壁は新幹線の長さだ。

 一般的な新幹線は1両およそ25m、16両編成なら端から端までおよそ400mある。筆者の勤務先では1列車辺り販売員2名が基本だったので、1人あたり8両、距離にして200m分を受け持つ計算だ。

 筆者の記憶が正しければ、8両分を1回往復するだけで早くても15〜20分、実際は30分くらいの時間を要する(繁忙期にはさらに時間がかかる)。乗客の視点で言い換えれば、一度ワゴンを逃すと、次にワゴンが来るまで最大30分待たされるということだ。待っている間に下車駅に着いてしまえば、乗客は当然降りてしまう。降りてしまった乗客を追いかけて売ることはできないから、こうしたケースは販売機会のロスとなる。

一般的な新幹線の長さは1両約25mで在来線(約20m)よりも長い(画像出典:東海旅客鉄道ホームページ

 さらに、ワゴンを待っていても買うができなかった乗客は「次からは車内販売をアテにせず、コンビニで必要な物を買ってから乗ろう」と考えるはず。こうして、1回の販売機会のロスが、未来の販売機会まで奪ってしまうことになる。

 もちろん、販売員の数を増やせば販売機会のロスを減らせるが、増えるコストに対して十分な利益を生み出せなければ意味がない。仮に利益を出せたとしても、少子高齢化が進み、若い働き手が減れば、満載時は200kg近くに達するワゴンを相棒とした販売手法はいずれ立ちゆかなくなる。その先に待っているのは、販売員のロボット化か、ワゴン販売自体の終焉のどちらかだ。

 いずれにしても、人間によるワゴン販売は消えゆく運命にあったと言えるだろう。

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