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MP3を生み、LEAudioのLC3コーデックも開発したフラウンホーファーの豆知識

2023年08月06日 17時00分更新

フラウンホーファー IIS

フラウンホーファー IIS

安倍元首相も感銘を受けていた?

 安倍晋三元内閣総理大臣はかつて、フラウンホーファー研究機構にならうような組織が日本にもあった方がいいと述べたそうだ。結果、その名が一躍広まった経緯もある。日本にも産業技術総合研究所や理化学研究所があるが、フラウンホーファー研究機構は公務員ではなく、ビジネス分野に近い研究機関だ。

 フラウンホーファー IISで生まれた最初の有名なコーデックはMP3である。MP3はもともと研究者が音楽をコンピューターで扱えるファイルにできないかと考えて始まった基礎研究のテーマだった。当初はだれもそれに意義を見出せなかったという。しかし、インターネットによって、それが爆発的に広まった。その後もAAC, HE-AAC, xHE-AAC, AAC-LD, MPEG-Hなどさまざまな用途に使える、オーディオコーデックを世に出している。

名前こそ似ているが、MP3とLC3は別物?

 LC3はLE Audioの標準コーデックとして採用されて知られるようになった。名は似ているがLC3はMP3(やAAC)の延長上にある技術ではない。これは私も錯誤していたのだが、それを説明する。

 LC3はスウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソンと共同開発した技術で、端的に言うと低遅延・高音質・通信安定性を特徴としている。LC3とは"Low Complexity Communication Codec"(低複雑性)の略語である。シンプルで負荷が低いという意味だ。そして、"Communication(コミュニケーション)"という言葉も実は重要である。

 つまり、MP3やAACとは異なる送り手と受け手で相互にやり取りするためのコーデックであるということだ。リッピングのために作られたものでなければ、放送局や配信サービスからデータを一方的に送るための技術でもない。スマートフォンとイヤホンを相互に通信するための技術なのだ。そのためにキーとなるのが低遅延性である。

 通信には遅延がつきものだが、放送局のスタジオからAACで配信した音声が1秒遅れて家庭に届いても問題にはなりにくい。しかし、スタジオと現場のレポーターとのやり取りではどうか。1秒の遅延でもコミュニケーションが取りにくくなる。放送業界では、AAC-LD(Low Delay)という長距離で通話するための技術を用いているという。AAC-LDとLC3は直接の互換性はないが、考え方はその延長線上にある。

 LE Audioの低遅延性は、LC3コーデックとアイソクロナス転送の合わせ技で実現されている。Bluetooth 5.2で導入したアイソクロナス転送は常に同じ間隔でデータを送る方式であり、バッファーを最小限にできる。さらに、LC3はデータのフレーム長がとても短いので、バッファサイズが小さくて済む。コミュニケーション向けというLC3コーデックの設計意図がLE Audioの目的にうまくかみ合ったのである。

 LC3には、拡張規格のLC3plusも登場している。フラウンホーファーIISの活動については今後とも注目していきたい。

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