AI画像の急増で、著作権者側の訴訟コストは重く
そんな中、文化庁は6月19日に、「AIと著作権」をテーマにしたセミナーをオンラインで開催(YouTubeでアーカイブ配信中)。同時視聴者数が9100人に達するなど、このテーマが社会的に高い関心を集めていることをあらためて印象づけました。内容は日本政府の現在の見解をていねいに説明するもので、AI開発・学習段階での著作物の利用が日本では著作権法によりかなり広範囲に認められていることもあらためて説明されました。
著作権法違反かどうかの判断は、AI生成画像であるかどうかにかかわらないという点についてもあらためて説明されました。
著作権法上は、「他人の著作物と同一・類似」しているかどうかを示す「類似性」、他人の著作物に依拠するかどうかという「依拠性」の2つの条件を満たすことで、著作権の侵害行為となりえます。そのため、「AI画像を生成して、SNSにアップロードしたり、イラスト集などを販売したりすることは合法である場合が多いと考えられる」ともしました。
それではAIグラビアで考えられるケースとして、特定人物の画像を学習させてLoRAを生成し、画像を生成して、それを公開または販売した場合はどうなるのでしょうか。
文化庁は「『依拠性』の有無は、最終的に裁判所により、個別作品ごとに判断される」としながらも、依拠性に関する今後の検討事項の例の1つとして、「特定のクリエイターの作品を集中的に学習させたAIを用いた場合と、そのような集中的な学習を行っていないAIを用いた場合とで、依拠性の考え方に違いは生じるか」という内容を示していました。
この「集中的に学習させたAI」こそが、LoRAを指すものと見えます。つまり最終的には裁判所の判例が出ないとはっきりしたことは言えないものの、国としても考え方をまとめ、今後提示していくという方針が示されたといえます。
なお、画像から画像を生成するi2i(image-to-image)については依拠性が高いと考えられる説が優勢です。3月29日に自民党の山田太郎参議院議員のYouTubeチャンネルでもその可能性が指摘されたため、LoRAも同様に判断される可能性は高いと思います。ただし、これも裁判所による判例が出ているわけではないため、確定事項ではありません。
著作権侵害を受けた権利者は、裁判所に差止請求や損害賠償請求を求めることができて、刑事罰の対象にもなります。とはいえ、権利者による告訴が必要な「親告罪」であるため、著作権者側の負担が重いという実情もあります。これは生成AIでなくとも同様ですが、生成AIを通じて、より簡単に著作権侵害の可能性のあるAI生成画像を作り、ネットを通じて簡単に配布できるようになったため、現状の仕組みでの対策に限界があるという別の課題も生まれています。一方で、著作権法の規定や解釈の変更には慎重さが求められるため、短期的な解決が難しいジレンマも生じているのも実情です。
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