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長いトンネルから抜け出せない、ジャパンディスプレイ

2023年06月05日 08時00分更新

低収益事業からの撤退

 こうした独自技術にフォーカスする一方で、低収益事業からの撤退も推進している。

 キャロン会長兼CEOは、「大きな課題は、コモディティ化された商品が中心の事業モデルになっている点である。JDIの独自価値を示すことができない分野や、赤字商品、薄利商品からは撤退し、収益性を高めていく」とする。

 この対象となるのが、スマホ向けのモバイル分野である。2021年度には売上高の約4割を占めていたモバイル分野は、2022年度には前年比35.7%減の756億円と戦略的に縮小。28%の構成比とした。これを2023年度には192億円にまで縮小し、構成比は7%。そして、2024年度にはゼロにする。

JDI

 「数年間をかけたお客様との話し合いによって、作りだめや代替サプライヤーの提案などが受け入れられ、ようやく不採算事業を無くすことができる」

 その一方で、車載およびノンモバイル(スマートウォッチやVR向け)を成長領域としてリソースを集中。2027年度には、車載事業が1516億円(2022年度実績が1346億円)、ノンモバイル事業が1342億円(同605億円)とし、この2つの事業で2022年度全社実績を超えることになる。この2つの事業が成長戦略の核だ。

世界初、世界一の技術に基づいたエコシステム

 METAGROWTH 2026では、もうひとつの挑戦がある。

 それは、「独自技術に基づいたディスプレイ産業における新たなエコシステムの構築」である。言い換えれば、世界初、世界一の技術に基づいた安定的な技術関連収入基盤の構築とということになる。

 具体的にはどんなものか。

 これまでのように、自前の生産拠点に投資をするのではなく、他社資本による生産拠点での量産を行い、JDIは独自技術によって、収益性を高めるという構図だ。「CPUでいえば、Armのような構造」とたとえる。

 Armは工場を持たないファブレス企業として事業を展開。テクノロジーによって、着実な成長を遂げてきた。ディスプレイの世界にも、これと同じエコシステムを構築しようとしているのだ。

 「ディスプレイ産業では、各社が同じような事業戦略を打ち出し、同じようなタイミングで、同じような投資を行い、同じように大赤字になる。これではビジネスが継続しない。JDIはまったく異なる事業モデルによって、顧客価値を創出したい。それは、JDIが強い技術を持っているからこそ可能になる」とする。

JDI

 JDIは、世界第3位のディスプレイメーカーである中国HKCと戦略的提携を発表した。これも新たなエコシステムの構築につながる。この提携では、両社は共同で、中国国内にeLEAPの生産拠点を建設し、2025年から量産を開始する。

JDI

 また、インドでは、eLEAP向けの工場建設に関して、具体的な協議を行っていることも明らかにした。

 「インドでは、国策としてディスプレイ産業を育成する姿勢を見せており、インド政府やインドの有力企業から、技術支援や共同事業に向けた引き合いが数多くある。だが、その多くは、液晶パネルの生産や、テレビ用大画面パネルの生産に関するものであった。それではJDIの特徴が生かせず、JDIの基本戦略とも合致しない。現在、インドの企業と協議をしているのは、eLEAP向けの工場建設である。これであれば競争力が維持できる」とする。

生産拠点の再編も加速

 その一方で、自社の生産拠点の再編も加速している。

 2020年10月には石川県の白山工場を売却。2021年12月には台湾のKaohsiung Opto-Electronics、2023年1月には中国のSuzhou JDI Electronicsをそれぞれ売却したほか、2023年3月には愛知県の東浦工場の生産を停止し、2024年4月に売却する予定だ。また、千葉県の茂原工場の生産能力も半減している。すでに年間330億円の固定費削減を実現しているという。

JDI

 キャロン会長兼CEOは、生産拠点の再編を「攻めの経営」と位置づけ、「JDIは、重工長大の企業から、エンジニアリングカンパニーやテクノロジーカンパニーへとシフトすることを目指している」と語る。

 生産拠点の売却や再編は「守り」と捉えられることが多いが、JEDIが目指す新たなビジネスモデルの構築という観点から見れば、キャロン会長兼CEOがいうように「攻め」の一手となる。

2022年2月には、JDIが無借金化し、自己資本比率も55.8%に高まり、財務基盤は一気に強化された。2023年8月には、METAGROWTH 2026の財務目標をアップデートする考えも示している。

 JDIは2012年4月に、日立製作所と東芝、ソニーの3社の中小型液晶ディスプレイ事業を統合してスタートした。そして、東芝のディスプレイ事業にはパナソニックが、ソニーのディスプレイ事業にはセイコーエプソンや三洋電機の事業がそれぞれ統合されてきた経緯がある。また、JDIが支援を決定したJOLEDは、2015年にソニーとパナソニックの有機ELディスプレイ事業を統合したスタートしている。このように、JDIは、日本企業によるディスプレイ事業がたどり着いた日の丸連合の姿だ。

 「日本の技術を世界のデファクトスタンダードにしたい」と語るキャロン会長兼CEOの意気込みが、現実のものになるか。その取り組みはこれからが本番だ。

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