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ピアニストのヤン・リシエツキ氏も登壇、日本からの初配信は東京文化会館から

ドイツ・グラモフォンの映像&音楽配信サービス「ステージプラス」の日本語版開始

2023年04月04日 19時50分更新

戦前から日本のクラシック文化を育んできたレーベル

 記者会見は、東京・春・音楽祭 2023の会場である東京文化会館の小ホールで開催。

 ユニバーサル ミュージックの藤倉尚社長は「1927年にドイツ・グラモフォンと日本ポリドール蓄音機商会が提携して以来、クラシック音楽という文化を日本に根付かせる役割を果たしてきた」と、戦前から同レーベルと日本との間には深い関係があった点を紹介。「熱心なクラシックリスナーに向けたプレミアムサービスの提供はかねてからの願い」だったとした。また、作曲家の久石譲氏が最近グラモフォンと契約した点にも触れ、「久石譲とウィーン交響楽団のコンサートも近々提供できるだろう」と語った。

2023年はドイツ・グラモフォン創立125周年を迎える年

 ドイツ・グラモフォン社長のクレメンス・トラウトマン氏は冒頭で「2023年はドイツ・グラモフォンにとって特別な年になる」と述べ、ステージプラスの提供と12月の創立125周年について説明した。グラモフォン(円筒型蓄音機)の発明から5年後の1898年に始まった同社は、音楽産業を成立させ、テクノロジーと音楽が結びつくきっかけになったと自負を語った。

 1902年には、ミラノで絶賛されていたテノールのエンリコ・カルーソーが10曲のアリアを録音。また、当時もっとも有名だったロシアのオペラ歌手、ヒョードル・シャリアピンもドイツ・グラモフォンと契約を結んだ。その後も、アーティストとの密接な連携のもと数々の名録音を残しており、ヘルベルト・フォン・カラヤンのように最新のデジタル録音技術や映像技術を積極的に取り入れるアーティストとともに歩んで発展してきた。

 こうした伝統に立脚した取り組みは、ステージプラスでも同様だ。「お客様に最高のサービスを提供するだけでなく、アーティストとの素晴らしい関係も育んでいきたい」とする。「音源だけでなく、そのアーティスト周辺のコンテンツも丸ごと紹介できる。アーティストの音楽人生、音楽的な営みに触れられるのがステージプラスだ」とした。

アーティストとともに計画し、ストーリーテリングにつながるライブを

 こうしたステージプラスとの取り組みをアーティストの視点で語ったのが、ピアニストのヤン・リシエツキ氏だ。会見では「伝説的なイエローレーベルの一員になれていることを誇らしく思う」としたうえで、「(音楽家にとって)録音は重要だが、本当の場所はコンサートホールであり、そのライブ配信を自宅で堪能できることに意義がある」とした。

 カメラとマイクを用意すれば、誰もがインターネットで配信できる時代、ほかのサービスにないステージプラスのメリットとして語ったのは高品質であること。そして、「高品質が決まるのはやはり音だ」とし、細かなニュアンスまで伝え、聞けることが大事だとした。

 「オーディエンスとしてサービスにアクセスしただけで、聞きたい公演が探せ、ハイレベルな配信であるという保証がある。アーティストとしてグラモフォンと一緒に契約する意義は協業できる点である」と同氏は話す。トラウトマン氏によると、ステージプラスで配信するライブはアーティストと手を取り合い、アーティストにとって重要なものを選んでいるという。これを同氏は「ストーリーテリング」と呼んでいた・

 リシエツキ氏の活動を例にとると、ノルウェー室内管弦楽団との暗譜弾きぶりによるショパンの協奏曲を皮切りに、イタリアのナポリや明日の東京など、長期的な計画のもと、アーティストらしさが前面に押し出されている。

 「ときには室内楽、リサイタル、そして歌手であればオペラで新しいレパートリーを披露する、重要な公演に参加するなど。アーティストを紹介するのにふさわしいかどうかがひとつの基準である」とトラウトマン氏は説明する。

 日本でのサービス開始直後に国内から生配信することになった東京・春・音楽祭実行委員会事務局長の芦田尚子氏は、主催者の視点からライブ配信に参加する意義について、「日本のアーティストが世界とつながるきっかけになる。日本と世界がつながる懸け橋になるというのが主催者にとって重要なポイント」だとコメントした。 ステージプラスは、英語版、ドイツ語版に続いてわずか数ヵ月後にリリースできた。「これは日本の聴衆を重視しているため」だとする。そのうえでトラウトマン氏は日本における自身のコンサート体験についても語り、「日本には年に2回ほど訪れるが、東京文化会館でもサントリーホールでも、ステージ上のアーティストと観客の内なるつながりや愛情をよく感じ取れる」とした。「この素晴らしい音楽体験をより遠い場所に届け、広がりを持たせたいという想いをテクノロジーを使って実現し、世界に届けるのがステージプラスである」とした。

ライブを楽しむために求められるノウハウが詰まったアプリ

 ドイツ・グラモフォンの副社長でダイレクトコンシューマービジネスを担当しているローベルト・ツィンマーマン氏は、既存のサービスとの差別化ポイントとして「コンサートホールでも、アーティストでもない、レーベルとして全く違う製品を開発しなければならない」とする。「数多くのアーティスト、協力関係を結んだホールや歌劇場、音楽祭を一つにまとめること、音楽体験の多彩さをどう楽しんでもらうかが解決課題だった」という。

 会見では、iPadとApple TVを使ったデモも披露。

 サービスの開発においては3つの視点を重視したという。第1にライブ配信だ。未来の開催となるため、いつどんなコンサートがあるか、近づいたらリマインドするといった機能が大事だという。第2にユーザーが使いやすいタイミングでの配信だ。時差に配慮し、再配信はヨーロッパや米国に合わせて2回実施。ライブ配信後はすぐにアーカイブは楽しめないが、ポストプロダクションとクオリティをチェックし、おおむね1週間後に提供するという。

 最後がUIだ。作曲家、枠組み(演奏情報)、協演した別の演奏家の情報、それらの演奏家が関わっている別の作品などにシームレスにアクセスできるようになっている。すべてのコンサート・録音に詳細なメタデータを付与しており、クラシック音楽特有の楽章なども手掛かりにしながら聴きたい曲を探せる。すでに述べたように単純な楽曲の配信だけでなく、背景情報の提供にも力を入れている。アーティストの音楽活動を多角的に知ることができるのも特徴だ。 Apple TV版ではリモコンを使い、一覧性の高いテレビ画面を見ながらの操作が可能。オーディオ品質やトラックの移動なども簡単だ。現在、ビデオアーカイブには300本弱のビデオ、音源についてはすでに述べたように約1200タイトルある。ストリーミングとは異なり、専門家のキュレーションしたコンテンツを届ける点にこだわっている。今後はAirPlayやChromecastへの対応も検討しているという。

 なお、ツィンマーマン氏は過去にベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールの担当としても来日していたが、記者からの質問に答える形で、両サービスの違いについてもコメントしていた。大きな違いとしては、デジタル・コンサートホールはベルリン・フィルのみのコンテンツということで、会場から録音環境まで1~10まで掌握し、品質を100%コントロールできる。

 一方、ステージプラスでは多彩なアーティストの演奏が聴ける半面、放送局との共同制作になる場合も多く、テレビ局によっては4K対応が進んでいないなど映像については制約が出る場合があるという。ただし、その中でも最高の水準を目指すことは常に心がけており、特にオーディオについてのハイクオリティは妥協せず、追究していくという。

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