長年の海外経験が社長就任につながる
リコーの新社長に、2023年4月1日付で、取締役コーポレート専務執行役員の大山晃氏が就任する。
大山新社長は、「話を聞いたときには正直驚いたが、いまは使命感と緊張感でいっぱいである」としながら、「私の役割は、確実に実績をあげ、お客様に貢献し、それが収益になって返り、リコーの収益性を向上させることである。リコーをデジタルサービスの会社へと変革させる取り組みを加速し、リコーの強みを確実に価値に変え、収益力の向上を図りたい」と新社長としての抱負を語る。
大山新社長は、1961年1月、山形県出身。1984年3月、早稲田大学政治経済学部卒業後、同年7月にリコーに入社。海外経験が長く、2011年4月にRICOH EUROPE PLCの社長兼COOに就任。2012年8月にグループ執行役員に就任するとともに、欧州販売事業本部長およびRICOH EUROPE PLC のCEO、RICOH EUROPE B.V.会長を兼務。2014年4月に常務執行役員 コーポレート統括本部長を経て、2015年4月にRICOH AMERICAS HOLDINGS Incの社長に就任した。リコーが買収したGestetnerやIKONなどの海外企業を軌道に乗せた実績を持つ。
「買収した3社の欧米企業に関わりながら、文化や行動の違いであったり、同じものでも人によって解釈が異なったりという多様性を経験した。このとき、多様性を活かすことで、新たな可能性が作られることも学んだ」と語る。
2015 年6月には取締役に就任。2015年9月には新規事業開発本部長、2016年6月 に専務執行役員、2017年4月にCFO兼CEO室長、2018年4月に販売本部長、2019 年4月にCMO、2020年4月にワークプレイスソリューション事業本部長を歴任。2021年4月に現任のコーポレート専務執行役員、リコーデジタルサービスビジネスユニットプレジデントに就き、リコージャパンの取締役会長も兼務している。
「入社してから前半の20年間は海外事業の拡大、後半はグループの全体戦略とデジタルサービスの展開を担ってきた。キャリアの大半を成長事業の拡大に携わることができた。会社には感謝している」と、これまでのリコーでの経歴を振り返る。
その上で、長年の海外経験が、今回の社長就任につながったと自己分析する。
「リコーが目指しているデジタルサービスの会社は、メーカーのようなモノづくりによって付加価値をつけるのではなく、顧客接点で付加価値をつけていく必要があり、リコーは、グローバルの顧客接点で、経営を強化する必要がある。また、グローバルビジネスは、それぞれの地域で発展させる足し算の経営ではなく、地域間のシナジーや共通施策、共通サービス基盤によって、収益性を高め、お客様に付加価値や新たな価値を提供していく必要がある。グローバルをまとめるという能力を期待されたのではないだろうか」と推測する。
本社だけでなく、各地域の責任者から信頼される人格
一方、代表取締役会長に就く現社長の山下良則氏は、大山新社長を次のように評する。
「指名委員会では、グローバルでの経験と実績、リーダーとしての資質、結果を出す実務能力、本社だけでなく各地域の責任者からの信頼される人格を評価し、満場一致で決定した。次期中期経営計画を担う社長に最適な人材である。とくに、信頼関係をベースにしたリーダーシップと、経験に裏付けられた実務能力、オフィサービスの責任者として事業収益力を強化した実績が高く評価されている」
初めて一緒に仕事をしたときのエピソードも明かす。
「私は生産現場で、大山氏は販売現場でキャリアを積んできた。一緒に仕事をしたのは1996年。私が英国工場の管理部長、大山氏はリコーが買収したGestetnerを担当していた。欧州域内で、カートリッジをリサイクルして販売する計画を立てていたが、品質の問題や、コストメリットが生まれにくいという課題があり、販売現場からは反対の声ばかりが出ていた。だが、大山氏は、欧州は環境意識が強い場所であり、利益を追求するだけでなく、リコーにとってビジネスチャンスになると語り、生産と販売が一体となって、お客様にどう価値を届けるかを議論した。販売サイドからその言葉が出たのは、大山氏が初めてであった」
そして、こんなことも語る。
「最初のイメージは、懐の深い、ムーミンパパのような人だと思ったが、一緒に仕事をしてわかったのは、利他の心を持つ、仕事人であるということだった。欧州では、相手の立場を理解しようとする姿勢にほれ込んで、プロジェクトを一緒に進めた。その後、リコーがデジタルサービスの会社に転換を図るなかで、リコーデジタルサービスBUのプレジデントを務め、その功績も高く評価している。経営チームでは、CFOやCMOとして重責を担ってもらい、経営トップに必要な経験を積んでもらった。冷静かつ丁寧なコミュニケーションが大山氏の基本姿勢であり、人間味あふれる一面がある」とする。
リコー飛躍の経営改革
山下社長は、6年間の社長在任期間中、大胆な改革に挑んできた。
2017年4月1日に社長に就任してから、12日目に発表した中期経営計画の1枚目のスライドは、「過去のマネジメントとの決別」という強烈な言葉で始まるものであり、リコー社内に長く染みついていた「ものづくり自前主義」をはじめとした5つの暗黙の了解を打破することを宣言。「リコー再起動」を掲げ、プリンティング事業の再構築や、構造改革、グループ事業の再編など、大胆な改革に挑んできた。
また、就任2年目は「リコー挑戦」として、新たな収益基盤としてデジタルサービス事業の方向性を示し、それに向けた経営基盤の強化と投資を実行。現在の中期経営計画では、「リコー飛躍」を打ち出し、成長投資を加速しつつ、カンパニー制の導入やデジタル人材の強化、リコーならではのデジタルサービス基盤の整備に取り組んでいるところだ。
「厳しい経営環境での経営改革に邁進した6年であったが、環境変化が激しいなかでも、スピーディーに対応できる経営が行える会社になった。経営は駅伝と同じで、タスキを受け取った時よりも少しでも輝かせて、次の人に渡すことが大切。受け取った時よりは少々輝き出している。社長として、やり残した感覚はない」とする。
三愛精神が、リコー経営のよりどころ
長年、山下社長の右腕として活躍してきた大山新社長は、その経験を生かしながら、これまでの路線を継承することになる。
大山新社長は、「山下社長は、繰り返してメッセージを発信し、それが届いたかどうかを現場に行って確認する。強力な発信力によって、会社をまとめることに長けた経営者であり、見習うところは多い。だが真似はできない。私の持ち味は、磁石のような形で意見を吸収しながら回してくスタイル」としながら、「私のミッションは、山下社長が始動させたデジタルサービスの会社への変革を実現することにある。改革を引き継ぎ、メーカー機能による付加価値創造が多いこれまでの組織体制から、各地域の顧客接点によって、多くの付加価値を創出できる体制へと構造を抜本的に見直していく」とする。
大山新社長は、リコー創業者である市村清氏の言葉を引用し、「経営のよりどころは、三愛精神である」とも語る。
三愛精神は、「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」であり、「リコーの事業に関わる人たちの利益を考え、社会課題の解決に貢献し、『はたらくに歓び』を感じられる環境を作り上げる。こうした大義を持った経営を行うことが、中長期の企業価値向上に結びつくと考えている。ESGの認識の重要性が高まるなか、大儀なき経営は持続しないとの信念を持ち、経営にあたる」とする。
また、「創業者は新たな発想で数多くの事業を成功させてきた。私のモットーは『大胆かつ細心』である。大胆な発想によるジャンプは必要だが、それが裏打ちのない、無謀な試みであってはいけない。改めて『大胆かつ細心』を肝に銘じて、創業者の実行力を見習い、結果を出していく」と決意をみせる。
さらに、デジタルサービスの会社であるリコーとして、大山新社長が強みに掲げるのが、「リアルワールド×サイバーワールド」、「アナログとデジタルをつなぐエッジデバイス」、「グローバルでの強固な顧客接点」の3点だ。
「リアルワールドでのお客様の支援と、サイバー上でのソリューション提供をシームレスに行い、お客様のワークプレイスで、アナログとデジタルでつなぐエッジデバイスを使ったソリューションを提供する。これらは、はたらく人を中心に据えたサービスであり、サイバー上のプレイヤーに対して、リコーが持つ優位性にもなる。さらに、同業他社に対する強みは、強固なグローバルでの顧客接点を有し、グローバルでの共通サービスと、地域に根ざしたサービスの両軸でお客様に貢献する能力を持っている点」とする。
そして、「リコーは、いつの時代もお客様の『はたらく』に寄り添ってきた。デジタルによってもたらされる様々な変化を考えると、リコーの役割はますます重要になってくる。お客様に寄り添い、お客様の創造する力を支え続けていくことが、リコーのデジタルサービスになる」と語る。
現在の中期経営計画で打ち出している「リコー飛躍」の次の方針を聞かれた大山新社長は、「まだ決めてはいないが、飛躍の次は、さらに大きな飛躍になる」と笑いながら答えた。
2023年4月からスタートする次期中期経営計画では、どんな飛躍が描かれることになるのだろうか。
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