日本のイラストで世界を席巻すべき
── アダルト領域ではすでにAIの生成画像をビジネスにする動きも出てきていますが、問題点も指摘されています。
img2imgの画像ロンダリングでしょう。これまでも無断トレスとか全く同じ問題があって、ツールが変わっただけなんですよ。なので普通に訴訟になるだけです。AIの危険性というよりは、同じことが繰り返されているだけ。そこで第2弾の動画ではAI賛成派とAI反対派に分かれて、そうしたことを延々と議論していこうかと思っています。満足のいくまで議論をする動画を作りたい。朝生(朝まで生テレビ!)みたいな感じで。
── いま問題になっているところは、技術自体ではなく、使われ方が悪いところがあるという。
(漫画や映像配信サイトの)米クランチロールは、登場した2006年からしばらくは「ナルト」などを違法転載している海賊版サイトでしたよね。それが今ではクリエイターに還元するホワイトサイトになりました。img2imgでも、商用利用をされたときにちゃんと還元されるというサイトが出てくれば、「俺の絵を使ってよ!」と言う人が続出してくるだろうし。今は(使われ方が)ブラックであったとしても、手続きを踏んでいずれホワイトになるんだとしたらそれは歓迎ですよね。
── 技術は成立してしまったわけで、事態がなかったことにはならないですしね。
1998年、週刊少年マガジンでは初だと思うんですが、カラーCGで「ラブひな」の表紙を描きました。当時は(画像編集ツールでは当たり前の)「ctrl+z」で一歩戻れるということに対して、「それでは魂が入らない」という意見もあったんですよ。確かに少女漫画のカラーインクは一期一会の美しい表現ができます。命がけですよ。ポタッとインクが落ちたらおしまいですから。でも今はみんなCGです。カラーインクで原稿を描いてる人はあまり見かけません。それは時代によって変わるものなので、10年後にはAIを使ってさらに素晴らしい原稿を作るクリエイターが続出して、市場規模は伸びてくると考えます。その中で新しい雇用とか新しい表現方法も出てくると思いますよ。カメラが出たとき絵描きが危機感を抱いたと思うんですけど、新たな雇用、新たな表現方法が出てきた。そうして創作業界が一段上の段階へと進化することを期待して、そうなるように誘導するのが自分の役目であると思っています。
★新連載『ラブひな』カラー部分 (1998/10/21)
— 赤松 健 ⋈(参議院議員・全国比例) (@KenAkamatsu) January 21, 2021
もう23年前とはw。順にマガジン表紙・車内吊り広告・カラーp1~3。PCのギャルゲー的要素を一般少年誌に持ち込んだ作品で、当時最先端の萌え要素(メイドや妹など)をふんだんに採用。恐らくマガジン初のCGによるカラー表紙でPhotoShopは4.0。 pic.twitter.com/BgxcCLducI
── 不安という意味では、アメリカの大手企業などが独占的な状況を作ってしまうのではないかということもあると思います。
そうですね。ただ日本のアニメ的なイラストや萌え絵は世界的に人気があります。だったらそういう人気コンテンツを持っている日本がイニシアチブを持って開発を進めて、寡占状態に持っていき、利益もどんどん還元して……ということができればいいんじゃないですか。
── 我々はむしろ競争力を発揮すべきだと。
既に人気コンテンツを持っているわけだから、使う方向を考えていけば相当有利な分野です。逆に最悪のパターンは、日本で率先して規制してしまい、中国なりアメリカが日本っぽい絵柄を自由自在に作れるようになって、それがあまりにも萌える、素晴らしいという状況になったとき。その時は日本っぽい良さを海外がすべて持っていってしまいます。日本っぽい漫画も絵柄もアニメもイラストも。実は今、韓国やアメリカではもうなかなか2Dのアニメが作れないんですよ。いわゆるアニメ塗りの2Dアニメはほぼ日本が最強。AIは動画も作れるようになりますから、そういった2D動画さえも海外に持っていかれてしまったら最悪ですね。
── 一方で、中国が研究を進めているという話もあります。
中国はいきなり「こういう創作物はダメだ」とか規制してしまうことがあるので、がっちり組んで商売をするのはリスキーかもしれません。その点、日本は表現の自由が守られていることもあって世界のあこがれとなっています。NFTアートなどでも人気なのはイラスト。そういうもので世界を席巻すべきです。もう科学技術や家電製品では相当苦戦してしまう状況ですし。
── 今から画像生成AIには様々な方向性が出てくると思いますが、議員としてはどんどん発言をしていくことによって、おかしな方向にならないようにコントロールしていくということでしょうか。
絵師の気持ちを必ず汲んでイニシアチブをとっていくということですね。AIがすべてダメというのはおかしい気がしますが、それでもその気持ちはわかりますから、なるべく絵描きが喜ぶような方向になってほしいです。
取材を終えて
赤松氏の意見は、単純な規制の方向に縛っていくものではありません。新しく登場した画像生成AIという技術を的確に利用し、管理していくことで、現状の権利者も将来のクリエイターもうまく収益を生み出せる環境を整える必要性を考えていました。
「今の状況が日本にとっては有利」ということは、アニメ・イラスト風の画像を出力する画像生成AIが、日本の作品を学習モデルにしたり、出力の目標としていることからも感じられます。これをチャンスととらえ、適切な手を打ち、どのように日本のクリエイターが有利な立場を作れるかが今後重要になるだろうと考えさせられました。
筆者紹介:新清士(しんきよし)
1970年生まれ。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。
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