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【後編】西田宗千佳×まつもとあつし対談~物理からサブスク配信に直行した特異な国

Netflixが日本アニメに大金を出すフェーズは終わった

日本はPCディスプレーが異常に売れる国

まつもと そのYouTubeの位置づけとも絡むのですが、西田さんのお話で重要だと思ったのが、動画配信サービスに登録した人が、結局テレビで見るようになるという点です。

 数年前にあった議論としては、「若い世代を中心に、これからはスマホで動画を見るようになる、アニメや映画もスマホで見るようになるんだ」という話でしたが、実際はテレビで見るようになった、と。

西田 正確に言うと、「大きな画面で見る傾向が強い」と言ったほうが良いと思います。たとえば、正確な数字が出てこないのでなかなかわかりづらいんですけれど、Amazonにおいて日本でパソコン用のディスプレーが売れる量って、世界的に見ると異常なくらい多いんですよ。

 これがどういうことかというと、ほとんどの人が若い世代で、個室で使うためなんですね。

日本の若者たちは、Amazonで15インチ程度のPCディスプレーを個室用に購入している

 一方、日本のテレビメーカーは、小さなテレビは安価で売らざるを得ないし、差別化もできないので、あんまり作りたがらない。そして一番強いニーズはリビングに1台置くテレビなので、各社大きいほうに行ったわけです。実際、テレビ放送を見ることに魅力がなくなってきているので、わざわざ個室でテレビ放送を見る需要も少ないため、小さなテレビは売れませんでした。

 一方で、スマホで映像を見たりゲームをしたりすることに慣れてきて『自分の部屋に少し大きな画面が欲しいなあ』と思った人たちは、PC向けの外付けディスプレーを買うんです。

 これは世界的な傾向で、リビング向けやキッチン向けのテレビは売れますが、15インチのテレビは売れないのです。では、15インチディスプレーの需要がないかというとそんなことはなく、PCディスプレーとしてたくさん売られているわけです。

 先ほどチラッと言いましたけれど、ゲームもPCディスプレーでプレイされるようになっていて、リビングの大きなテレビではプレイしなくなってきている、という傾向があります。他方、映像配信をどこで見るかというと、もちろんリビングのテレビで見る場合も多いわけですし、スマホで見ている例も多いんだけれども、同時に、AmazonでPCディスプレーとFireStickを買って見るという例が結構増えてきているわけです。

 テレビメーカー側も、昔は動画配信サービスの機能を安いテレビに入れていませんでしたが、入れたら突然、販売数量が増えたりしているので、いわゆるテレビと言われるものが、若い世代では「放送を見る」ではなく、「大きな画面で映像を見る」という意味合いに変わってきていると思うんですね。

まつもと 結局、映像視聴についてはみんな大画面に向かっている、ということですよね。ネット上でときどき話題になる「NHKだけ見られなくしたテレビが販売されて即完売」という記事がありますけれど、あれはその傾向の中の一現象に過ぎなくて、実はPCモニター、特に若年層におけるPCモニター購入の動向を見たほうが、むしろより本質的ではないかという感じがしますね。

西田 そうですね。さらにはテレビメーカーもそのへんの状況が見えてきているので、テレビが売れたとしてもそれは放送受信媒体としてではないということはわかっているかと。また、生活時間を見ると、移動中や寝っ転がったときに何を見ているかといえばスマホで見ているので、スマホで見る量がないわけではない。ただ、「スマホだけ」でも「テレビだけ」でもない。

まつもと 先ほどのNHKの調査も「ダブルウィンドウで見ている」ということですよね。

飛ばし見・倍速視聴する率は、視聴デバイスによって変わるのか?

西田 そうです。あとは寝っ転がって、テレビを音で聞きながらユーチューバーの番組をスマホで見ていたりとか、そういうこともあり得るわけです。いろんな視聴形態というのが存在している中で、スマホに集約していくのではなくて、結局は生活空間の中にある、要は適所に合わせた大きさのウィンドウで見るというかたちになってきているのだと。

 そうすると、もう1つポイントになってくるのは、「比較的大きい画面で映像配信を見始めると、番組を飛ばしながら視聴するんだろうか?」です。

 スマホでユーチューバーの動画を見ているときには、つまらない箇所をパッと飛ばしていたかもしれないし、ドラマも電車の中で見ているときは面白くないシーンを飛ばしているのかもしれない。それがテレビで見ているときには飛ばしていないのかもしれない、飛ばしていない可能性が高い、という行動結果も考えられるわけですよね。

まつもと デバイスとしての特性を鑑みるに、テレビにせよパソコンにせよ、倍速視聴といった見方とはあまり相性は良くないのではと、この段階では思いました。

西田 そうですね。おそらく同じユーチューバーの番組であっても、単純に喋っているだけの番組と、料理ユーチューバーの番組とでは、見方は当然違うと思うんですよ。

 もしかすると、料理ユーチューバーの番組は、レシピの部分だけ戻したり進めたりしているかもしれないし。VTuberがお話しているバラエティーに近い番組だと、ながら聞きで逆に飛ばしてなかったりするかもしれない。コンテンツによって、飛ばす飛ばさないの種別もかなり違うんじゃないのかなという気はしています。

 では、コンテンツをどういうふうに見るかによって、テレビで見るかPCで見るかもしくはスマホで見るのか、という特性も変わってくるんじゃないのかなと思うんです。1つの仮説としては、物語性が高ければゆっくりじっくり見るほうに傾くんだろうな、という気はしています。

まつもと そこは私もYahoo!個人の記事とかでもかなり書いたところで、学生に話を聞いても、ストーリー性のあるものについては「無理、飛ばせない」という意見が大半でしたね。

まつもとあつしのYahoo!個人の記事「若者は映画を早送りで「見ていない」――倍速再生議論の本質」より

 まあ、それでもストーリーものを飛ばして――スキップと●倍速再生では意味合いが違いますが――見る理由は何なのか? そして、飛ばして見ているにも関わらず、「飛ばして見ても内容わかりますよ」となぜ言い張るのか、というところですね。

 飛ばしながら見て内容を理解しているのかどうかをテストしてみると、あまり理解できてないよねということが割と一目瞭然にわかるはずなんですけれど、でも本人は理解していると思いたい、みたいなところがあると思うんですよね。

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