週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編

食文化創造都市「臼杵市」と湯布院を巡る大分県の“食トリップ”にハマる

 大分サステナブル・ガストロノミー推進協議会のモニター・ツアーで、国内2例目のユネスコ「食文化創造都市」に認定された臼杵市と、盆地のため、寒暖差が激しく魅力的な食材に恵まれた人気温泉地、湯布院を巡ってきた。

 観光の世界では、日本を代表するブランドの一つである湯布院の大きな魅力の一つは、数多くの個性的な宿の食事であり、思い切ったアプローチのレストランなど食のスポット。その食を支える農家の大きな工夫も見過ごせないポイントだ。1600年にオランダのリーフデ号が漂着した臼杵市は、日本とヨーロッパの大きな出会いの地であり、長い歴史を持つ発酵・醸造文化や有機農業の推進でも知られる。筆者は10月に、別府市、大分市、国東半島をアートという切り口で回ってきたが、今回は食を切り口に、二つのエリアを巡ってきた。

臼杵藩の料理番のもとで修業した2代目が本膳料理の伝承を許され、提供を始めたとされる歴史ある料亭「喜楽庵」(臼杵市)の本膳料理。右上のお猪口に入った調味料は「煎酒」といって、日本酒に梅干と花がつおを入れ、ことことと煮詰めた江戸時代の食卓には欠かせなかった調味料

九州でも有数のドライブコースである県道11号線(通称「やまなみハイウェイ」)を、由布市から別府市へ向かう途中に位置する「狭霧台(さぎりだい)」は、標高約680mから湯布院の町並みが一望できる展望スポット。展望台を囲む由布岳の四季折々の山景色も素晴らしく、筆者も由布岳をバックに

(公社)ツーリズムおおいた制作の「おんせん県おおいた たびまっぷ」。湯布院は別府を挟んで西側に位置し、臼杵市は南側に位置する

味噌・醤油などの醸造・発酵産業と本膳料理に出会える臼杵市とパワフルな農家と意欲的な料理人のマリアージュが味わえる湯布院

 臼杵市は2021年11月8日、「ユネスコ創造都市ネットワーク」の食文化分野で、ユネスコから加盟認定された。食文化分野でのネットワーク加盟は、日本では、山形県鶴岡市に次ぐ2都市目となり、世界に49都市あるユネスコ食文化創造都市の1都市となった。

 「ユネスコ創造都市ネットワーク」とは、ユネスコの事業として2004年に創設。創造性(creativity)を核とした都市間の国際的な連携によって、地域の創造産業の発展を図り、都市の持続可能な開発を目指すもの。各都市は同ネットワークを活用し、知識・経験の交流、人材育成、プログラム協力などを行なう。原則2年に1回、ユネスコが公募する。都市(自治体)が直接ユネスコへ申請する際に、日本ユネスコ国内委員会の承認状(Endorsement letter)が必要。

 臼杵市の食への取り組みは以下の二つ。

◎伝統的な和食を根底から支える味噌・醤油などの醸造・発酵産業に支えられた伝統的食文化を有する。

◎近年は、さらに完熟堆肥を用いた土づくりを基本とする有機農業や水源涵養の森づくり、地産地消を推進し、持続可能な食文化へとつなげるとともに、循環型社会の実現を図ろうとしている。

 また、湯布院は、全国的に知られる観光業を中心に、地域の産業が共生する形で文化と活力を実現している。県内の一人当たりの所得でも、県庁所在地の大分市や特定産業を有する市町村がある中で、中山間地域ながら県内上位に位置している。

 農業分野についても、農家と料理人のコミュニケーションが進み、旬の農産物の旅館等への供給により、農家の経営を安定させ、由布院という地域ブランドの強化にもつながっており、地産地消の一つの在り方を示している。

【臼杵市】

◎小手川酒造

 安政2年(1855年)創業。作家の故・野上弥生子の生家。当時のままの佇まいで昔ながらの重厚な店構え。江戸時代末期に分家したフンドーキン醬油株式会社は醬油や味噌の九州のトップブランドに成長している。甕で31年間熟成貯蔵した「小手川酒造 黒伝説 烝司 34度 麦焼酎」(写真1枚目)は入手困難の名酒。宇佐産裸麦を黒麹で仕込んで木樽蒸留しており、昔ながらの工程で厳選した裸麦を蒸し上げ、黒麹で試こんだ手造りのもろみを杉樽で蒸留している。旨み成分を残すために無濾過で製造している。

小手川酒造の公式サイト
https://kotegawa.fundokin.co.jp/

◎喜楽庵

 1878(明治11)年創業。2代目が、臼杵藩の料理番のもとで修業して本膳料理の伝承を許され、提供を始めたとされる。本膳料理(写真1枚目、2枚目)は、日本料理の原型ともいわれ、さまざまな流派があるが、藩主が冠婚葬祭の際に食べていた武家本膳を提供している店は、全国で喜楽庵しかない。古くからの本膳料理の献立も多く残され、一部は展示されている(写真3枚目)。建物は、豪商の別荘だったが、大正(写真6枚目の建物は大正元年築で最も古い)、昭和、平成に建造された3棟からなる。

喜楽庵の公式サイト
https://www.kirakuan.jp/

◎富士屋甚兵衛

 臼杵は明治に入り、醤油味噌製造が盛んになり、富士屋は、明治16年に創業した。創業者、渡邉甚七は自らも杜氏となって醤油味噌づくりに努力し、隠居してからは、名を甚兵衛と改め、富士屋甚兵衛の名を受け継いで、富士甚醤油となった。創業者の名前を取ったアンテナショップ「富士屋甚兵衛」があるのは、臼杵の昔ながらの城下町を再現した八町大路。臼杵は、城を中心に端の丁、西の丁、中の丁、本丁というように道路が整備され、中でも、町八丁と呼ばれる商業地区は、大分県でも一、二を争う繁栄ぶりだった。「富士屋甚兵衛」のロゴマークを使用したオリジナル商品の販売、国産原料を使用した定番の合わせみそ・豊後赤みその量り売りを行なっており、店舗限定にて、しょうゆソフトクリーム(写真1枚目)も人気。

富士甚醤油株式会社の公式サイト
https://www.fujijin.co.jp/page/jinbe.html

◎国宝臼杵石仏(摩崖仏)

 国宝である臼杵石仏(磨崖仏)は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて彫刻されたと言われている。誰がどのような目的で造営したのか、はっきりとしたことは分かっていない。その規模と数量、彫刻の質の高さで、国内を代表する石仏群。1995年6月15日に、磨崖仏としては全国初、59体が国宝に指定された。石仏群は4群に分かれ、地名によって、ホキ石仏第1群(堂ヶ迫石仏)、ホキ石仏第2群、山王山石仏、古園石仏と名づけられている。その後、2017年9月には、古園石仏群の入口にある2体の金剛力士立像が国宝に追加指定され、現在は61体すべての磨崖仏が国宝に指定されている。一般社団法人臼杵市観光協会の古谷美和さん(写真4枚目)の案内で、様々なエピソードを聞かせていただいた。

国宝臼杵石仏の公式サイト
https://sekibutsu.com/

【湯布院】

◎江藤農園

 江藤農園は湯布院町内で代々農業を営んでいて、現在は33棟の無加温ハウスで年間100種類以上の様々な旬の野菜を育てている。町内の旅館やレストランで米や野菜を販売するとともに、「ゆふいんマルシェ」として農家の仲間たちと一緒にスーパーのインショップにて野菜の販売も行なっている。供給する旅館などの料理長達と作付会議も行なっていて、栽培計画を立てて生産を行ない、京野菜、はなきゅうりなど、料理人の要望に沿う野菜も栽培している。このように、料理人と一体となった形での野菜生産を行なっていて、LINEを使って注文を受けていて、畑から直ぐに配達を行なうなど、料理人にとっては、高い鮮度で、自らの料理に沿った形での供給を受けることが可能になった。

江藤農園の公式サイト
https://www.etou-nouen.com/

◎レストラン 南の風

 イタリアン農家風のレストラン。イタリアで修行して、湯布院に戻り、「村の風景や生活に溶け込んで毎日食べても飽きない料理」を目指している。由布院チーズ工房のモッツァレラチーズや地鶏、季節の野菜や山菜にジビエ、大分の海の幸などを使用している。 山形県・庄内のイタリアン「アルケッチャーノ」の奥田政行氏と長い付き合いで、「師であり考えを共有できる仲間」。年に一度は由布院でコラボ企画も行なっている。

南の風の公式サイト
https://yufuinn-minaminokaze.com/

◎湯布院伊料理店 coji coji

 江藤農園の野菜を使っている料理店。一軒家で、シェフの松永幸治さんが一人で、すべての料理を作りサーブする。ソムリエも兼ねていて、的確なマリアージュを提供してくれる。メニューはなく、選び抜かれた食材をクリエイティブな調理法で組み合わせ、お皿の上に美しく盛る。湯布院の食材はもちろん、国内外の食材を選び抜き、得難い体験をさせてくれた。

湯布院伊料理店 coji cojiの公式サイト
https://www.cojicoji.jp/

◎金鱗湖

 大分川の源流の一つである池。池底から温泉と清水が湧き出ているとともに、5つの河川が流入していて、温泉水が流れる河川もある。秋から冬にかけて気温が下がると、温泉水などとの温度差のために、早朝には池面から朝霧が立ち上る。筆者は朝の6時半に訪れて写真を撮った。大分県の公式サイトによると、由布岳の下にある池ということで、大分なまりで「岳ん下ん池(=岳の下にある池)」と呼ばれていた、と言い、1884年(明治17年)に儒学者の毛利空桑(もうりくうそう)が、湖の魚の鱗(うろこ)が夕日に輝くのを見て「金鱗湖」と名付けたと伝えられている。

大分県観光情報公式サイト
https://www.visit-oita.jp/spots/detail/4362

金鱗湖
https://www.youtube.com/watch?v=dquw43dTVwg

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう