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清水建設 東京木工場見学に行ってきた:

最近の木工職人はプログラ厶も書いている

2022年09月30日 11時00分更新

文● ASCII
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 いま木材が面白い。

 脱炭素社会の実現に向け、建設業界で再生可能素材としての木材が注目を集めているのだ。記憶に新しいのは、東京五輪関連競技施設としては最大の木材使用量となった有明体操競技場だ。都内にも木造高層ビル構想が続々登場。清水建設では東京・京橋に木造ハイブリッドの12階建て賃貸オフィスビルを建設予定だ。

 そんな中、家具や内装を手がける木工の現場も様変わりしている。

 清水建設は大手ゼネコンで唯一、自社の木工場を持ち、施工した建物における木の内装工事を自社で対応もできるようにしている。工場にいるのは作業着を身につけた昔ながらの木工職人。しかし現場に並んでいるのはCNC加工機に多軸ロボット、レーザー加工機など最先端の加工機械なのである。

※CNC:Computer Numerical Control、コンピューター数値制御

 令和の木工場は一体どんな形をしているものなのか。そしていま求められる新しい職人の姿とは。これまでも清水建設の取材を進めてきたアスキー総合研究所の遠藤諭が、清水建設 建築総本部 東京木工場の和田昌樹工場長に案内してもらった。

ロボットやレーザー加工機のある木工場

 まず連れてきてもらったのは大きな機械の稼働音が響き渡る機械加工フロア。最初に見えたのはCNC加工機。プログラムした通りに木材をカットするための機械だ。

和田工場長 この画面は加工している部材をシミュレーションしているところですね。

── ここに出されているのが指示どおり加工されたものってことですか。

和田工場長 そうですね。

── よく壊さないで作れますねえ。

和田工場長 CNCでここまではできるんですが、丸々作ることはできないんです。できたものを組み合わせ、手加工できれいにする。これはうちの社員がデザインしたもので。

── かなり気持ちよさそうですね。なんとなくサーフボードみたいな。

和田工場長 いろんなお尻に合わせて作ってますよ。

── (笑)こっちで動いているのがロボットですね。

和田工場長 そうですね。CNC加工機はいろんな工場に入っていますが、多軸ロボットを入れているところはまだ少ないと思います。

── 清水建設技術研究所では溶接ロボットを拝見しました。

和田工場長 これも川崎重工の産業用ロボットを木工用に転用したものです。CNCは作ったものを貼り合わせる必要がありますが、こっちは機械だけで一気に作れます。

和田工場長 ロボットが得意なのはこうした曲面の3D加工ですね。この曲率は手ではなかなかできません。今は曲面のベンチをロボットで作ろうとしていて、発泡スチロールで試験をたくさんしています。古い工場ですが、CADからデータを直接取り込み、いかに早く難しいものづくりをするかということにチャレンジをしているところです。

和田工場長 ただ、実際に需要があるのはどちらかというとこういうモノですね。

── 木製キャニスターのようなものですか。

和田工場長 そうです。こういうものは精度の良さが気持ちよさにつながるもので、基本の形は機械で作るんですが、最後は社員の手なんですよ。途中までは機械でできるが、最後は人の手。社員はこの中身をどう削ったら早くきれいにできるかが分かっているんです。機械に使う刃物の種類がたくさんある中、どれを先に使えばいいかということもわかる。そうなると新しいものづくりもできて、面白いアイデアも出てくるというわけです。

── なるほど、なるほど。

和田工場長 練りつけなどの内装工事もこういう機械を使いながらやっています。

(※練りつけ:下地に薄い化粧材を貼りつけること)

和田工場長 これは家具の扉の全体図をCNCでプログラムに変換して加工しているところです。今は扉の手かけを加工しているんですが、奥はアール(曲面)、手前はピン角(直線)で残すという手加工では難しい部分があり、それを機械で加工しているんですね。

── ほおー。

和田工場長 まだベニヤの層が見えているので、このあと天然木の単板を張って無垢に見えるように加工します。うちがこだわっているのは(化粧板の)木目をぴたっと合わせ、空間として内装を設えることですね。

和田工場長 続いて、こちらにあるのがレーザー加工機ですね。

── おお。読者も親しみがあると思います。レーザー加工機は何に使われるんですか?

和田工場長 竣工時に記念品を作って渡すことが多いですね。あとは内装。カウンターの正面に2メートルくらいの装飾をつけたということもありました。続いては東京木工場が手がけたものということで、これは小さい歌舞伎座のひのき舞台を工場内に作っちゃいました、というものです。

── おおっ、これはすごい。これも御社が手がけられたんですか。

和田工場長 そうなんです。内装もひのき舞台も木工場で仕事をしたものです。

和田工場長 ひのき舞台にはこだわりがあって。叩いてみると全然音が違うんですよ。

── 下の構造もそのままなんですね、これは。

和田工場長 廻り舞台という回転するところも忠実に作っています。

和田工場長 ひのきは乾燥と加工の時間もとって、工事をする2年前に伐採しています。伐採しているのは丹沢地方のとある場所だけ。富士山からの雨が地下水として流れてきて自然環境がいいんですね。それに森を所有している管理会社もいいんですよ。

── へえーっ。意外にもビス打ちなんですね。

和田工場長 そして、こちらにあるのは上野の西洋美術館。コンクリート打ちっぱなしの柱があるんですが、当時の木工場で作られたという木の型枠を再現したものがこちらです。きちんと型枠に微妙なアールをとって作られていて、ここまでの精度で出すのは今でも難しいと思います。そうやって作るのも図面化ができる社員がいればこそ、というところですね。

 最後は取材者一同で職人さんの指導によってかんながけ体験もさせてもらった。「意外ときれいにできるじゃん!」と喜んだ一同だが、職人さんがしっかりと手入れした道具を使わせてもらったからであることは言うまでもない。

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