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自動運転の基礎 その37

緊急回避性能を飛躍的に向上させた日産の新しい自動運転技術

2022年06月04日 12時00分更新

緊急回避性能を高めた日産の自動運転技術
向上の理由と、それが果たす役割とは

 日産が4月25日に「緊急回避性能の飛躍的な向上につながる運転支援技術」を発表した。これは「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」と呼ぶもので、次世代高性能ライダーとカメラ、レーダーを組み合わせてクルマの周囲の空間と物体、正確かつ瞬時に把握する。この技術を使うことで、自動運転車の危機的状況からの回避能力が飛躍的に高まるというのだ。

グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術

 同日に日産がYouTubeなどで公開した日産技術セミナー「事故ゼロを目指した最新の運転支援技術」(https://www.youtube.com/watch?v=PHJRMkugRyk)では、「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」を使うことで、以下のような驚くべき緊急回避のシナリオを可能にすると説明する。

  • トレーラーを牽引するピックアップトラックが、自車の目前でスピンして3車線中の2車線をふさいだとき、とっさに空いている残り1レーンに車線変更して切り抜ける。
  • 先行するセダンが、並走するトラックに接触してスピン。自車の走る走行レーンをふさいだときに、空いた車線に車線変更して切り抜ける。
  • 反対車線から空を飛んで向かってきたドラム缶を、とっさに車線変更して避ける。

 また、「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」を搭載した試作車「ProPILOT-コンセプトゼロ」による実車を使った、以下のような自動運転のデモ走行動画も公開された。

  • 走行中に脇からバックで出てきた他車両を車線変更で避け、さらに避けた先の車線に飛び出てきた人形の前で急停車する。
  • 外れたタイヤが正面から転がってくるのを避けて、その先に脇から出てきた他車両にぶつかる前に急停車する(これは合成画像)。
  • 走行する車線の先にある渋滞末尾を検知して、車線変更して衝突を避ける。
  • 道路上に落ちているパレットを避ける。
  • 地図情報のない敷地内で自動運転を行い、目的地(建物のエントランス)で停車する。

 実験車両は、1つの次世代高性能ライダー、1つのフロントカメラと9つのサラウンドカメラ、1つのフロントレーダーに4つのサイドレーダー、2つのリアレーダーを搭載。これに高精度地図と、ステアリングとブレーキ制御システム、そして日産が開発したセンシング・車両制御アルゴリズムを組み合わせている。

 今回の日産の説明で、個人的に驚いたことはふたつある。ひとつは、走行中の車両の目前で発生した危機的状況に対して、瞬時に対応しているところ。そして、もうひとつは大きなクルマや人物だけでなく、空中を飛んでくるドラム缶や、路上に落ちている背の低いパレットなど、非常に小さなものを認識できることだ。

 その驚くべき性能を実現できた理由は、認識技術(パーセプション:perception)の革新だと日産は説明する。そして、キーとなったのが、次世代高性能ライダーの存在だ。

 ライダーは赤外線を飛ばして、周囲にあるモノや道路・施設の形状を計測するセンサーだ。精密に、しかも瞬時に計測できるのが特徴だ。そのため、高度な自動運転技術には欠かせないと考えられている。しかし、これまでのライダーでは、最長で150mほど先までしか検知することができなかった。駐車場内などをゆっくり走るなら対応できるけれど、高速道路を走行するには、いささか厳しい。また、パレットのような背の低いものを認識するのも難しかったのだ。

 ところが、開発中である次世代高性能ライダーでは、検知距離と範囲、分解能を大幅に向上。検知距離は、従来の2倍以上となる300mを目指すという。検知距離300mの根拠は、130km/h(世界の高速道路の平均速度)で走行中に渋滞末尾を検知して、通常の車線変更で回避するのに必要な距離だ。そして、具体的にはルミナー社が開発中のライダーを利用するという。同社のライダーが、もっとも求める性能が近く、開発が進んでいるとか。

 そして、日産のAD/ADAS先行技術開発部部長の飯島徹也氏は「日産は、安心して使える自動運転の実現に向けて、緊急回避性能の自動化は、まず解決すべき課題であると考えています。今回紹介した技術開発を加速進化させ、自動運転技術の次のステップを確実に高めていきます」と言う。

 実際のところ、リアルワールドでレベル3以上の自動運転技術が実用化されない大きな理由のひとつは、こうした緊急回避技術が熟成されていないことにある。これまでの自動運転技術では、高速道路に落ちているパレットやタイヤなどを検知して、自動で避けることができなかったのだ。また、突発的かつ複雑な状況への対応も難しかった。なんのトラブルも発生しないテストコースのような場所では、レベル3以上の自動運転状態で走れても、突発的かつ複雑な危機的状況に対応できないというのでは、自動運転の実用化はできない。

 そういう意味では、今回の日産の発表のような、緊急回避能力の向上は、レベル3以上の自動運転技術の実用化に必須のもの。この技術の完成は、夢の自動運転技術の実現への大いなる前進と言えるだろう。

 日産は、今回の技術を2020年代半ばまでに完了させ、順次新型車へ搭載し、2030年までにほぼすべての新型車に搭載することを目指すという。それが実現するのであれば「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」搭載の日産の新型車が登場するまで、あと3~4年。リアルなレベル3以上の自動運転技術を搭載するクルマが登場するまで、あと少し待つとしよう。

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
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