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JAPAN INNOVATION DAY 2022「プレシードVC・アクセラが語る、地方エコシステム、ESG、Web3によるスタートアップのゲームチェンジ」レポート

地方で活動するVC、アクセラレーターが見るスタートアップの可能性

2022年05月12日 07時00分更新

地方都市エコシステムの可能性

 JID全体のイベントテーマは“Decentrize”。セッションもこれを軸に進行された。最初のテーマは「東京一極集中からの脱却」、換言すれば「地方での活動」だ。ライフタイムベンチャーズ木村氏が口火を切る。

 国内スタートアップの資金調達額のうち83%は本社を東京に置く企業によって為されており、あまりにも偏った分布になっている。地方都市でこの話をすると「うちは小さな街ですから」「東京みたいに大きくないから」と言われることもあるが、都市人口の観点では東京の10分の1以下の経済規模であるストックホルムやアムステルダム、シアトルはスタートアップ都市として存在感を発揮している。日本の地方都市にも十分可能性はある。(木村氏)

 人口が決して多くなくても事業を進めやすいヘルスケアやライフサイエンス分野は、地方都市で発展させられる可能性が特にあるのではないかと、木村氏は続ける。アクセラレーションプログラムの大家Y Combinatorは「オタクと金持ち(起業家と投資家の意)が両方集まらないとエコシステムはできない」と語っているが、それに倣いライフタイムベンチャーズは地方のエコシステムを作るべく、2022年から東京に加え、神奈川・沖縄・京都の3拠点に投資決済者を常駐させるそうだ。

 この動きについてはOnlab松田氏も「Onlabも福岡と札幌に拠点を置き、人も常駐しているが、何かアクションを起こしたいときにやりやすさが全然違う。人がいて拠点があるから情報が入って、ネットワークができるということを実感している」と呼応した。

 先述したようにOnlabは、福岡および北海道でアクセラレーションプログラムを開催している。地方のスタートアップに投資するケースもあれば、国内外のスタートアップが福岡・北海道で活躍するために活動することもあるとのことだ。スタートアップが増えれば地域の大企業が協賛し、またスタートアップが増えるという好循環となっている。

 東京からは出て来ないであろう事業が出てくるのも、地方エコシステムの面白さだ。例えばコムハムという会社は、北海道の実家で保有していた菌とコンポストの相性のよさが発覚し、事業化に至っている。

 地方は業種ではなくその地域でネットワークされており「電力、新聞・メディア・電鉄企業が横の繋がりをもっているので、実証実験をする時にコンソーシアムが組みやすいという利点がある」(松田氏)のも特徴といえるだろう。

 では、地方都市の弱点は何か。松田氏が続ける。

 エクイティストーリーの描き方やビジネス的な観点は、まだ東京だけにノウハウが溜まっていて、地方のスタートアップは今知識をつけている最中という印象がある。だからこそ我々のような投資家やエコシステムビルダーが、地方のスタートアップを支援する価値がある。(松田氏)

SDGsでも大事なのは「ニーズ」

 話題はSDGsに移る。Onlabは2021年、ESG関連のスタートアップに投資する「Earthshotファンド」を立ち上げた。ESGに関する問題を直接解決するようなサービスや、ESGの観点を経営に取りこんでいる(男女比率や外国人比率等)スタートアップに投資している。

 「大企業もESGには予算をつけているものの 『何をしていいかわからない』という会社も現時点では多い。つまり市場にお金はあるけどソリューションが足りていないという状況で、スタートアップにはチャンスな市場環境」だと松田氏は語る。

 一方でプレシードの資金調達支援をするライフタイムベンチャーズの元にも「若い方を中心に、ESG関連の事業を相談するスタートアップは増えている」(木村さん)という。「ここ2年程で出資者であるLPからESGの要請も高まりを感じている」そうだ。

 Onlab松田氏はESGファンドでの投資経験も踏まえ、ESGスタートアップにとって大事な視点について語る。

 ESGは社会課題と関連が深いので、ニーズは非常に大きい。ではなぜ2022年の段階で解決できていないかというと、ビジネスとして成立しにくかったり、技術的に難しかったり、なんらかの障壁があるから。これらは今まで、普通の方法では解決できなかったもの。だからこそスタートアップがなんらかのハックをして、解決しなければならない領域となっている。

 スタートアップにとって最も大事なのはニーズ。ESGについてもそれは変わらない。その解決の難易度が高いという話なので、そこを見失わないことが重要だ。(松田氏)

 日本においてまだESGは黎明期で、強力なプレイヤーがいる領域は多くない。そのため比較的どの領域でもスタートアップが戦える余地はある。では、世界のスタートアップがESG・サステナブルな領域に注力する中、日本のスタートアップが世界で戦おうとしたらどこにチャンスがあるか。

 この点について木村氏は「例えば海・海洋といった分野」に注目していると語る。海洋ゴミや乱獲、養殖等、島国である日本は海の課題には特に敏感にならざるを得ない。「水産業、もっと広く海洋環境・海洋経済は、産業という意味でも課題解決という意味でも大きな可能性がある」と木村氏は続ける。もちろん、海洋に限らず日本独特の視点をもち、かつ世界に展開できるようなサービスは、グローバルで戦える余地があると言えるだろう。

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