週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

3D V-Cache搭載「Ryzen 7 5800X3D」はCPUのゲームチェンジャーになれたのか?

2022年04月14日 22時00分更新

 2022年4月22日午前11時、AMDは「Ryzen 7 5800X3D」の国内販売を解禁する。北米予想価格は449ドル、日本国内での予想価格は6万5300円となる。

お詫びと訂正:掲載当初、発売日を4月20日と記載しておりましたが、正しくは4月22日です。該当部分を訂正すると共にお詫び申し上げます。(2022年4月15 日)

 Ryzen 7 5800X3Dはこれまで使われてきたSocket AM4とZen 3アーキテクチャーを継承しつつ、そこに2021年6月のCOMPUTEXで公開された積層キャッシュメモリー「3D V-Cache」を加えたCPUである。

 3D V-Cacheについては大原氏が技術的背景を詳しく解説(https://ascii.jp/elem/000/004/057/4057940/またはhttps://ascii.jp/elem/000/004/086/4086751/3/)しているのでそちらを参照して頂きたいが、AMDはRyzen 7 5800X3Dを「ゲーミングPC向け」のCPUとして強く推している。

 Ryzen 5000シリーズは昨年秋まではインテル製CPUをあらゆる面で凌駕する存在であったが、インテルが第12世代Core(Alder Lake-S)を投入すると、ライバルに性能で抜かれるシーンも出てきた。Ryzen 7 5800X3Dはコア数こそRyzen 7 5800Xと同じものの、ゲーミング最強CPUの座を奪還するためのSocket AM4最後の反撃となるだろう(反撃の主軸はZen 4のRyzenになるはずだ)。

 今回筆者はRyzen 7 5800X3Dを検証する機会に恵まれた。今回はいつも以上にスケジュールと機材確保が厳しい状況であった。そこで今回はRyzen 7 5800X3DのCPUとしてのパフォーマンスの概略を把握することに注力し、Ryzen 7 5800X3Dの本懐である“Game Kingの奪還”については、後日改めて行うこととしたい。

Ryzen 7 5800X3Dのリテールパッケージ。正面右肩部分に「AMD 3D V-Cache」と印刷されている点に注目したい。Ryzen 7 5800Xと同様にCPUクーラーは別売となる

CPUそのもののパッケージングは既存のRyzenと全く同じ。外見だけで見分けるには表面の刻印だけが頼りである

裏面のピン数も既存のRyzenと同じだ


L3キャッシュは通常の3倍、しかしOCには非対応

 Ryzen 7 5800X3Dのスペックは以下の通りだ。既存モデルと最も異なる点は、L3キャッシュの容量であり、Ryzen 7 5800X3Dは実に96MBに到達している。Ryzen 7 5800Xに元々あった32MBのL3キャッシュの上に、さらに64MBを積み重ねて一体化したもの、と考えればよいだろう。L3キャッシュを平面構造のまま増量すればダイ(CCD:Core Compex Die)のみならず、ダイとその下の基板とのインターフェースも再設計する必要がある。

 しかし、AMDはダイ設計と基板の互換性を維持し、キャッシュメモリーを積層するというアプローチを採用した。手持ちの成果を上手く利用しつつ、そこに最新技術を乗せてもう一段性能をブーストするというコンセプトであるといえる。

Ryzen 7 5800X3Dと5800Xのスペック比較

「CPU-Z」を使ってRyzen 7 5800X3Dの情報をチェック。L3キャッシュが96MBとなっている点に注目。つまり上積みされた64MB分のL3キャッシュは元々の32MB分と分離されておらず、透過的に扱われていることを示している

 CPUのコア数や対応メモリーといったスペックはRyzen 7 5800X3DとRyzen 7 5800Xで共通だが、動作クロックはRyzen 7 5800X3Dの方がやや低く、かつ倍率アンロックによるOCが不可となっている。この理由はいくつか考えられるが、一番大きいのは発熱の問題だと推測している。

 Ryzen 7 5800Xは既に検証結果(廉価版Ryzenレビュー記事:https://ascii.jp/elem/000/004/088/4088293/4/)にある通り、8コアCPUとしては非常に熱密度と発熱量が大きい(むしろコア数の多いRyzen 9 5900Xや5950Xの方が扱いやすい)。

 Ryzen 7 5800X3DのTDPはRyzen 7 5800Xと同じTDP 105W設計なので、発熱量も相応に高く、CCDの上に増築された構造物の分だけ冷却に制限があると考えるのが自然だ。

 そしてCCDと64MBの追加L3キャッシュの接続に使われる配線技術(ハイブリッドボンディングと呼ばれる)は密度が極めて高く、端子間の間隔はわずか9µmとなっている。最下部のCCDと増築されたL3キャッシュの間で温度差が発生すると熱膨張率も差異が出てくるが、9µという極小間隔の配線ではこの膨張率の違いが構造的に良くないため、Ryzen 7 5800X3Dではクロックを下げ、さらにはOCも封じたのではないかと推測している。

 ちなみに、Ryzen 7 5800X3DではOCが封じられているのでPBO(Precision Boost Overdrive)/PBO2のOCもできない。ただしメモリーのOCやそれにともなるInfinity FabricのOCはできるため、高クロックメモリーでさらに上の性能を狙うことは可能だ。

AMDの資料から抜粋。Zen 3のCCDの中央に64MBのL3キャッシュを増築し、両端のCPUコアにあたる部分には高さ合わせのためのシム(ゲタ)を載せている。CCDは従来よりも薄く製造される

Zen 3世代のCCDの面積は81平方ミリメートルで、その上に41平方ミリメートルのL3キャッシュを増築する。コアと増築されたL3キャッシュの高さを合わせるためのシム(ゲタ)はヒートスプレッダーへ熱を伝える役目も担っている

CCDとL3キャッシュダイを連結するためのハイブリッドボンディングのための電極は広帯域でありながら省電力でなければならない。電極間の間隔を9µmとすることで、インテルのマイクロバンプを使った積層技術(中央)と比べ15倍の密度、信号当たりの消費電力を3分の1に抑えることに成功した、とAMDは謳っている

3D V-Cacheを利用したCCDは従来のCCDとインターフェースが共通であるため、製品の展開がしやすい。図はCCDが8つあるのでEPYCのダイ配置を示していると思われるが、同じことがRyzenにも適用できる

 最後にこのRyzen 7 5800X3Dを使うための条件だが、既存のSocket AM4用マザーにAGESA 1206B以降のBIOSへ更新する必要がある。X370等の旧世代チップセット搭載マザーでも最新のRyzen 7 5800X3Dを利用できるのがSocket AM4エコシステムの強みだが、対応BIOSの存在を確認してから導入するようにしたい。

Ryzen 7 5800X3Dを使うにはAGESA 1206B以降のBIOSへの更新が必要になる


検証環境は?

 Ryzen 7 5800X3Dの検証を行うにあたり用意した環境は以下の通りだ。コア数やTDPが等しいRyzen 7 5800Xと、コア数が勝るRyzen 9 5900Xのほかに、ライバルであるCore i9-12900KS/12900K、さらにCore i7-12700Kと比較する。価格で考えるとRyzen 7 5800X3DはCore i9-12900Kより数千円安く、1万5000円ほど下にCore i7-12700Kが控えている。

 6万円台中盤のRyzen 7 5800X3Dが価格的にライバルなCore i9-12900Kや、10万円オーバーのCore i9-12900KSに対しどういったポイントで優勢に、あるいは劣勢になるかチェックしてみよう。

 今回試したどの環境もWindows 11であり、メモリー分離やセキュアブート、Resizable BARなどの要素は全て有効としている。AMDのチップセットドライバーは先日リリースされた「4.03.03.431」を、GPUドライバーは「22.4.1」を使用している。

 ちなみにRyzen 7 5800X3DのメモリーはDDR4-3600を勧めていたが、筆者のファーストレビュー時の決まりとして強制でない限りは定格を使うというものがあるため、DDR4-3200を使用している。

【検証環境:AMD】
CPU AMD「Ryzen 9 5900X」(12コア/24スレッド、最大4.8GHz)、
AMD「Ryzen 7 5800X3D」(8コア/16スレッド、最大4.5GHz)、
AMD「Ryzen 7 5800X」(8コア/16スレッド、最大4.7GHz)
CPUクーラー ASUS「ROG RYUJIN 360」
(AIO水冷、360mmラジエーター)
ビデオカード AMD「Radeon RX 6800リファレンスカード」
マザーボード GIGABYTE「B550 Vision D」
(AMD B550、BIOS F15a)
メモリー G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」
(DDR4-3200、16GB×2)
ストレージ Corsair「CSSD-F1000GBMP600」(NVMe M.2 SSD、1TB、システム用)
+Silicon Power「SP002TBP34A80M28」(NVMe M.2 SSD、2TB、ゲーム用)
電源ユニット Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」(80PLUS Platinum、1000W)
OS Microsoft「Windows 11 Pro」
【検証環境:インテル】
CPU インテル「Core i9-12900KS」(16コア/24スレッド、最大5.5GHz)、
インテル「Core i9-12900K」(16コア/24スレッド、最大5.2GHz)、
インテル「Core i7-12700K」(12コア/20スレッド、最大5GHz)
CPUクーラー ASUS「ROG RYUJIN 360」
(AIO水冷、360mmラジエーター)
ビデオカード AMD「Radeon RX 6800リファレンスカード」
マザーボード ASRock「Z690 PG Velocita」
(Intel Z690、BIOS 7.03)
メモリー Kingston「KF552C60BBK2-32」
(DDR5-4800動作、16GB×2)
ストレージ Corsair「CSSD-F1000GBMP600」(NVMe M.2 SSD、1TB、システム用)
+Silicon Power「SP002TBP34A80M28」(NVMe M.2 SSD、2TB、ゲーム用)
電源ユニット Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」(1000W、80PLUS Platinum)
OS Microsoft「Windows 11 Pro」

L3の多さは関係なかった「CINEBENCH R23」

 いつも通り「CINEBENCH R23」のスコアー比べから検証を始める。Ryzen 7 5800X3Dはコア数的にはRyzen 7 5800Xと変わりなく、さらにクロックも低めに設定されている。L3キャッシュを増築することで得られるメリットはあるのか否かを見てみたい。

「CINEBENCH R23」のスコアー

 この結果からほぼコア数とクロックなりのスコアーであり、L3キャッシュの量はCINEBENCH R23のスコアーに影響していないことが示されている。そしてRyzen 7 5800Xとのスコアー差は非常に小さい。Ryzen 9 5900Xや第12世代Coreプロセッサーなどと比較するとマルチスレッドのスコアーが低いのは、単純にコア数の問題だ。

「V-Ray Benchmark」ではRyzen 7 5800Xに辛勝するも……

「V-Ray Benchmark」でも試してみよう。GPU(CUDAおよびRTX)を使ったテストもあるが、今回はCPUだけを使うテストを使用する。

「V-Ray Benchmark」の結果。値が大きいほど高速

 CINEBENCH R23とは逆にRyzen 7 5800X3Dの方がRyzen 7 5800Xを上回っているが、誤差の範囲といってよい。こちらもコア数の多い上位モデルやライバルには大きな差を付けられている。

「Blender」でも同傾向

 CG系ラストの検証は「Blender」の公式ベンチマーク「Blender Benchmark」だ。「Blender-Open Data(https://opendata.blender.org)」で配布されている専用ツールを使い、デフォルトの3シーン(Monster/Junkshop/Classroom)におけるCPUの計算力を比較する。

「Blender Benchmark」のスコアー

 ここでも超大容量L3キャッシュを活かせなかったRyzen 7 5800X3Dは、Ryzen 7 5800Xのやや下というポジションで終わっている。つまりL3キャッシュの量が効かないシチュエーションでは、Ryzen 7 5800X3Dではなく普通のRyzen 7 5800Xを選んだ方が断然お得であることを示している。


「PCMark10」でも強さは見えず

 CG系で良いところが見えなかったので総合ベンチマーク「PCMark10」で検証してみたい。さまざまな実アプリを動かすので、もしかしたらL3が活きるシチュエーションが見つかるかもしれない。テストはゲーミング以外の処理で比較する“Standard”テストを実施した。

「PCMark10」Standardテストのスコアー。総合(Standard)の他にテストグループのスコアーも比較している

 総合スコアー(青)ではRyzen 7 5800X3DはRyzen 7 5800Xの微妙に下。このパターンはここまで何回も目撃したものだ。ただテストグループ別のスコアーに注目すると、DCC(Digital Content Creation)ではRyzen 7 5800X3DがRyzen 7 5800Xを上回っている。ただそれでもRyzen 9 5900Xを上回るほどではない。

 それではそれぞれのテストグループ別にスコアーの根拠となったテスト別スコアーも見ていこう。

「PCMark10」Standardテストで実施されるEssentialテストグループのスコアー

 EssentialテストグループではRyzen 7 5800X3DとRyzen 7 5800Xに大差がついているシチュエーションはほぼない。強いていえばFireFoxを使うWeb Browsingテスト(黄)においてRyzen 7 5800X3Dがやや低い値を示しているが、Ryzen 9 5900XのスコアーもRyzen 7 5800Xに負けている点から、ほぼ誤差といってよいだろう。

「PCMark10」Standardテストで実施されるProductivityテストグループのスコアー

 LibreOfficeを実際に動かすProductivityテストグループでは、Ryzen 7 5800X3Dの方が明らかにスコアーが出ていない。L3キャッシュの量が効いてないことはもちろんだが、クロックの設定も強く影響しているようだ。

「PCMark10」Standardテストで実施されるDCC(Digital Content Creation)テストグループのスコアー

 Ryzen 7 5800X3Dの強みが見えたのはDCCテストグループだが、DCCの総合スコアーはCGレンダリング(Rendering and Visualization)が引き上げていると考えてよいだろう。それ以外のテストではRyzen 7 5800X3DはRyzen 7 5800Xより低いか、ほぼ並んでいるかのどちらかである。

Photoshop系で強いことが示唆された「UL Procyon」

 続いては著名な実務系アプリを実際に動す「UL Procyon」を使う。ここでは「Lightroom Classic」と「Photoshop 2022」を動かす“Photo Editing Benchmark”を実施する。

「UL Procyon」Photo Editing Benchmarkのスコアー

 ここでも総合スコアーではRyzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xの中間に位置しているが、ポイントになるのはPhotoshopとLightroom Classicを連携させるImage Retouchingテスト(オレンジ)のスコアーだ。

 Lightroom Classicだけで構成されるBatch Processing(グレー)では今ひとつなことから考えると、Photoshopのパフォーマンス、もしくは複数のアプリを連携させるような使い方でキャッシュが効いている可能性が考えられる。

 続いてはWord/Excel/Powerpointを動かす“Office Productivity Benchmark”だ。ここではOffice 365を実機にセットアップして検証している。

「UL Procyon」Office Productivity Benchmarkのスコアー

 Ryzen 9 5900X〜5800までほぼダンゴ状態だが、PowerPointではRyzen 7 5800X3Dがトップ、ExcelでもRyzen 7 5800X3Dがよりコア数の多いRyzen 9 5900Xに肉迫している。ただ全体としては凡庸というか、第12世代Coreを大きく下回っている。コアのアーキテクチャーがZen 3のままなので当然だが、一般的な利用においてRyzen 7 5800X3Dが特に強いとは言えないようだ。

大容量L3が明確に効いた「Lightroom Classic」の現像作業

 UL ProcyonでLightroom Classicメインのテスト結果が芳しくなかったが、「Lightroom Classic」で別の角度からの性能を検証してみよう。61メガピクセルのDNG画像(調整付き)を100枚準備し、それを最高画質のJPEGに書き出す時間を比較した。書き出し時にシャープネス処理(スクリーン用、適用量は標準)も付与している。

「Lightroom Classic」によるDNG→JPEG出力時間

 第12世代CoreプロセッサーとDDR5メモリーとの組み合わせが特に強く、現行のRyzenは処理性能において大きく引きはされてしまう。この傾向は変わっていないが、今回Ryzen 7 5800X3DのRyzen 7 5800Xに対する明確なパフォーマンス向上を確認できた。さすがにコア数の壁は越えることができなかったが、L3キャッシュの大容量化がはっきりと確認できた一例といえる。しかし、価格的ライバルであるCore i9-12900Kには遠く及ばない。


超大容量L3もエンコードでは効果なしだった「Media Encoder 2022」

 ここでは「Media Encoder 2022」を使った動画エンコード時間を比較する。再生時間約3分の4K動画を「Premiere Pro」で編集し、それをMedia Encoder 2022にキュー出しして4KのMP4形式にソフトウェア(CPU)エンコードした。ビットレートは50MbpsのVBR 1パスとし、フレーム補完はオプティカルフローを選択した。コーデックはH.264とH.265を使用している。

「Media Encoder 2022」によるエンコード時間

 このエンコードテストのセットアップはCore i9-12900KSレビュー(https://ascii.jp/elem/000/004/088/4088402/)と同じだが、かなり傾向が異なっている。全般的に処理時間が長めなのは、デコーダーにCUDAではなくOpenCL(Mercury Playback Engine)を使っているためだ。

 Ryzen 7 5800X3Dのエンコード時間はRyzen 7 5800Xとほぼ同じ、もしくはやや遅い程度と、これまでの検証結果をほぼ継承したものとなった。

「After Effects」では微妙に速い

「After Effects」における動画の「3Dトラッキング」も検証してみよう。再生時間10秒の4K@59.95fps動画をAfter Effectsにインポートし解析する時間を計測した。

「After Effects」3Dトラッキングの処理時間

 ここでも傾向は同じ。同世代Ryzenのコア数差や第12世代Coreプロセッサーのパワーを跳ね返すほどの力は3D V-Cacheにはないようだ。

L3大増量しても時間は変わらない「HandBrake」

 クリエイティブ系最後は「HandBrake」のエンコード時間比較だ。再生時間約3分の4K@60fps動画をプリセットの「Super HQ 1080p Surround」と「H.265 MKV 1080p30」を使いフルHD動画にエンコードする時間を計測する。

「HandBrake」によるエンコード時間

 Media Encoder 2021やAfterEffectsと傾向は同じだ。コア数の同じRyzen 7 5800XとRyzen 7 5800X3Dは性能差を見いだすことが難しいといえる。

「3DMark」でも影響はなし

 3Dグラフィックの描画パフォーマンス「3DMark」で検証してからゲーム検証に入るとしよう。今回は“Fire Strike”“Time Spy”の2本を実施した。

「3DMark」Fire Strikeのスコアー

「3DMark」Time Spyのスコアー

 注目に値するのはFire StrikeのCombinedの結果(黄)だろう。元々このテストはCPUで物理演算を全力で回しつつ、重めのグラフィック描画をするというテストだが、ここではRyzen 7 5800X3DがややRyzen 9 5900Xを上回った。

 第12世代Coreプロセッサーと比べて現行のRyzenはCombinedのスコアーが伸びない傾向を確認しているが、L3の増大で少しは改善することが示されている。ただライバルであるCore i9-12900KどころかCore i7-12700Kを射程に捉えることが精一杯の印象もある。


「Rainbow Six Siege」ではジャイアントキリングを成し遂げたものの……

 ここから先は実ゲームの検証だ。まず「Rainbow Six Siege」ではAPIでVulkanを選択。画質“最高”にレンダースケール100%を追加した。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。解像度はフルHDのみとした(以降同様)。

「Rainbow Six Siege」Vulkan API、1920×1080ドット時のフレームレート

 GeForce環境だとRyzenよりも圧倒的に第12世代Coreプロセッサーの方がフレームレートが出る印象だが、今回の検証では実力伯仲どころか、Ryzen勢の方がやや高いフレームレートを示している。肝心のRyzen 7 5800X3Dは一応平均フレームレートにおいてトップに立ちCore i9-12900KSを上回る結果をみせたが、Ryzen 7 5800Xと大きな差があるとは言いがたい。

 Zen 3+Radeonのタッグは元々良く、そこにRyzen 7 5800X3Dの3D V-Cacheが最後の一押しを加えただけ、ともいえる。3D V-Cacheの価格差を考えると、Ryzen 7 5800X3Dが今ひとつ伸びていない、という印象すらある。

効果が確認できなかった「Apex Legends」

 次に試すのは「Apex Legends」だ。画質は最高設定とし、射撃訓練場における一定の行動をとった時のフレームレートを「CapFrameX」で計測する。計測にあたっては144fps制限を起動オプションで解除(+fps_max unlimited)している。

「Apex Legends」1920×1080ドット時のフレームレート

 144fps制限を解除してもゲームの設計的に300fpsで頭打ちになってしまうため、平均フレームレートはどのCPUでも全く差がない。ただ最低フレームレートにおいては、数fpsではあるが全体的にRyzenの方が高い値を示している。Ryzen 7 5800X3DのパフォーマンスはRyzen 7 5800Xよりは気持ち良い程度だが、この程度の差は誤差の範囲である。3D V-Cacheが特別な働きを示したと言うことは難しい。

3D V-Cacheの絶大な効果を確認できた「Far Cry 6」

 続いては「Far Cry 6」だ。このゲームはAMDが製品購入特典として配布していたゲームだが、一番フレームレートが出るのは第12世代Coreプロセッサーということが知られている。

 今回は画質“最高”をベースに高解像度テクスチャーとVRS(Variable Rate Shading)を追加。レイトレーシングは全てオフとした。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。

「Far Cry 6」1920×1080ドット時のフレームレート

 Radeon環境においてもFar Cry 6のフレームレートはRyzenよりも第12世代Coreプロセッサーであることが再確認できた訳だが、Ryzen 7 5800XとRyzen 7 5800X3Dの差が極めて大きく、平均フレームレートで考えると20%伸びているのは素晴らしい。

最低fpsの落ち込みを回避した「Tiny Tina's Wonderlands」

 続いては「Tiny Tina's Wonderlands」だ。APIはDirectX 12、画質は“バッドアス”とし、ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測した。最低フレームレートの1パーセンタイル点は出力されたcsvから算出している。

「Tiny Tina's Wonderlands」DirectX 12、1920×1080ドット時のフレームレート

 今回のテストでの平均フレームレートはどれも差があると言いがたい。GPU側のボトルネックが出てしまったようだ。ただRyzen勢は最低フレームレートが第12世代Coreに比べ落ちやすい傾向であったが、Ryzen 7 5800X3Dの増量されたL3キャッシュがそれを解消していることが示唆されている。

「Halo Infinite」も最低フレームレートの底上げ効果が

「Halo Infinite」でも検証してみよう。画質は“ウルトラ”をベースに非同期演算も追加。対戦マップ「Fragmentation」において一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。

「Halo Infinite」1920×1080ドット時のフレームレート

 手動計測なので誤差もあるが、ここでも最低フレームレートの落ち込みをRyzen 7 5800X3Dの3D V-Cacheが緩和している様子が窺える。ただ平均フレームレート自体はさほど伸びておらず、わずかだが第12世代Coreプロセッサー勢に負けている。

「Forza Horizon 5」ではCPU処理時間が短縮

「Forza Horizon 5」でも検証してみよう。画質は“エクストリーム”とし、ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。リザルト画面で表示される数値のうち、CPU側のレンダリング処理のフレームレート(CPU MinおよびCPU Avg)と、GPU側のレンダリング処理のフレームレート(GPU MinおよびGPU Avg)をそれぞれ比較する。

「Forza Horizon 5」1920×1080ドット時のフレームレート

 大前提としてGPU Avgが127〜128fpsで頭打ちになっているため、画面に出てくるフレームレート自体はどのCPUも大きな差はない。ただCPU Avg、即ちCPUで1フレームの処理をするためにかかった時間から割り出したフレームレートでは、Ryzen 7 5800X3DはCore i9-12900Kをわずかに上回るパフォーマンスをみせている。

巨人を倒した「F1 2021」

 ゲームの最後は「F1 2021」での検証だ。画質は“超高”としたが、レイトレーシングは全て無効、アンチエイリアスはTAAとした。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測するが、ベンチの条件はモナコ+ウエットとした。

「F1 2021」1920×1080ドット時のフレームレート

 F1 2021はメモリー帯域(DDR5が有利)が効くゲームであることが分かっていたが、さらに今回はキャッシュの搭載量がモノを言うことも分かった。Ryzen 9 5900XやRyzen 7 5800Xだと第12世代Coreプロセッサーを大きく下回るフレームレートしか出ないが、Ryzen 7 5800X3DではCore i9-12900KSを凌ぐフレームレートを出している。

 Ryzen 7 5800XからRyzen 7 5800X3Dへは平均フレームレートは約18%伸びているが、これはFar Cry 6における平均フレームレートの伸び率とほぼ一致している。


消費電力はむしろ下がっている

 さてパフォーマンスにおいて現行Ryzenを凌ぐ第12世代Coreプロセッサーの最大の欠点は高負荷時における消費電力の高さである。そして現行Ryzenの強みはその逆、ワットパフォーマンスの高さにある。

 そこでシステム全体の消費電力を比較しよう。ここでは「RS-WFWATTCH1」を使用し、システム起動後10分後の安定値(アイドル時)と、HandBrakeで動画をエンコードした時のピーク値(高負荷時)を比較した。HandBrakeのエンコード条件は前述のテストと同じである。

システム全体の消費電力

 第12世代Coreプロセッサー、特にCore i9-12900KSの消費電力の高さに圧倒されるが、Ryzen勢の消費電力はせいぜい260Wと低い。今回も第12世代CoreプロセッサーはPower Limitを無制限(マザーの初期設定)としているためでもある。改めてRyzenは電力消費に一定の縛りをかけつつも、その中で最大のパフォーマンスが期待できるCPUであると再認識できるだろう。

 そしてRyzen 7 5800X3DはRyzen 7 5800Xよりも25W程度ピーク消費電力が低い。両者のTDPは同じ105W設定だが、どうやらクロックが低め&OC不可という設計が消費電力抑制の原因と考えられる。

 これを確かめるために「HWiNFO Pro」を使い、HandBrakeでエンコード開始から約10分間のCPUクロックの推移を調べてみた。

エンコード中のCPUクロックの推移。分かりやすいようにRyzenだけに絞っている

 CPUクロックが最も高かったのはRyzen 7 5800Xであり、4.52GHzあたりで安定している。その一方でRyzen 7 5800X3Dは4.35GHz前後に抑え込まれており、消費電力が相対的に下がっていることが裏付けられている。

 クロックが下がれば当然CPU温度も下がるはずである。特にRyzen 7 5800Xはそのまま使うとCPU温度が高くなりやすいという欠点があった。ではRyzen 7 5800X3Dはどうだろうか? RyzenはTctl/Tdieの値を、第12世代CoreプロセッサーはCPUパッケージ(Tcase)を追跡している。

エンコード中のCPU温度の推移。ここでは第12世代Coreも比較に加えた

 まず最も温度が高いのはCore i9-12900KSで93℃前後で安定しているが、処理の終盤で一瞬だけ100℃に到達することもあった。2番手〜3番手までは接戦でCore i9-12900K、Ryzen 7 5800X3D、そしてRyzen 7 5800Xが激しく競り合っている。

 Ryzen 7 5800X3Dはどちらも同程度の温度を示しており、今回の検証におけるCPU温度はどちらも85℃前後。1℃にも満たないレベルだがRyzen 7 5800X3Dの方が高いという結果になった。クロックが下がってもCCDの上に増築したL3キャッシュやシムが放熱の妨げになっていると考えて良さそうだ。この温度上昇を考慮にいれたうえでクロック抑制やOC不可というRyzen 7 5800X3Dの仕様に収れんしていったのではないだろうか。

 CPUの消費電力についてElmorlabs製「PMD(Power Measurement Device)」と「EVC2SX」を利用し、 HandBrakeで処理中のEPS12Vに流れる電力も追跡してみた。データの追跡にはHWiNFO Proを使用している。

HandBrakeでエンコード中にEPS12Vを流れた電力の合計値

 EPS12Vの消費電力はシステム全体の消費電力の順位に完全にリンクしている。即ちCore i9-12900KSが最も高く、Ryzen 7 5800X3Dが最も低い。EPS12Vの消費電力が低いということは、CPUの電源回路の設計が古めな旧世代マザーでも使いやすい(少なくとも、Ryzen 7 5800Xよりは)ことを示している。

 上のグラフで採取されたデータを集計し、EPS12Vの消費電力の平均値等をまとめたのが下のグラフだ。

HandBrakeエンコード中にEPS12Vを流れた電力のまとめ

 このデータからでもRyzen 7 5800X3DはRyzen 7 5800Xよりも電源ユニットにより優しいチョイスであることが分かる

ハマるゲームならCore i9-12900KSをも倒せるが、総合的にはRyzen 7 5800Xとの性能差は極めて小さい

 以上でRyzen 7 5800X3Dの検証は終了だ。一般的なCPUとして見た限りでは、96MBという超大容量L3キャッシュのメリットを感じられる点はほとんどなかった。Ryzen 7 5800Xより確かに速いシーンもあるが、コア数の多いRyzen 9 5900Xに負けることも多い。

 一方ゲームではF1 2021のようにCore i9-12900KSを打ち倒す例も見られたものの、3D V-Cacheの効果が見られないゲームもそれなりに観測された。ゲームの設計とRyzen 7 5800X3Dが上手く噛み合えばコア数で上回る上位Ryzenをも超えられるというのは非常に面白い。

 ただZen 4(Ryzen 7000シリーズ)発売を今年後半に控え、現行Ryzenは急激に値が下がってきている。発熱面ではRyzen 7 5800X3Dと同様にCPU温度が高止まりしやすいため、むしろコア数の多いRyzen 9 5900Xを選んだ方が扱いやすいかもしれない。

 以上のことから、今回のRyzen 7 5800X3Dはライバルに反撃するための製品というよりは、AMDの技術の高さを知らしめるショーケース的な側面の強い製品だなという感触を受けた。3D V-Cacheという要素は非常に面白いものの、それを十分に活かせるアプリはなかなか存在せず、さらに8コアなのでメガタスクな状況での活用にも制限がある。

 Ryzen 9 5900X3Dのような12コアモデルもあればまた評価も違ってきたと思うが、今のRyzenユーザー(特に5000シリーズ)が買い換えるターゲットになるとも考えにくいのだ。

 Ryzen 7 5800X3Dを買い換えるべきユーザーとは、既にRyzen 1000〜3000シリーズを使っていて、クリエイティブ系アプリにおける尖った性能は必要としないが、ゲーミングPCとして強化しておきたい人ではないだろうか。Socket AM4で安く組みたいのであれば、メモリー付きで特価になったRyzen 7 5800XやRyzen 5 5600Xを選び、浮いた金でビデオカードやストレージを回した方がお得感がある。

●関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

カテゴリートップへ
この連載の記事