2022年2月16日開催 イチロクカンファレンスvol.40@オンライン「特許庁ベンチャー支援班と考えるスタートアップの知財戦略」レポート
スタートアップのあるあるトラブルにも知財が役立つ
資金力のないスタートアップが知財活動を進めていくには?
後半は、秋山氏、今井氏、大森氏、横井氏の4名にASCII STARTUPのガチ鈴木が参加し、パネルディスカッションを行なった。
鈴木 まず、大森さんと横井さんから知財への取り組み状況をお聞かせいただけますか。
大森氏(以下、敬称略) 特許の優先順位は低くて、唯一取っているのが商標です。まだビジネスモデルもないときに、自分が踏み出すための一歩として15万円くらいかけて個人で商標を取りました。登録証が送られてきたときはうれしかったです。
今井氏(以下、敬称略) 社名やサービス名の商標は、まず事業を始める前に出願してください、といつも言っています。最初のうちは何も言われないのに、ビジネスが軌道に乗ると警告状が来たりするんです。最初に取るのはとても大事です。特許はやはりハードルが高いですか?
大森 お金と時間がかかるイメージがあります。創業期はまだビジネスモデルも定まらないし、半年、1年後はどうなっているのかわからないですし。でも、先ほどのピッチでスーパー早期審査や減免制度を知り、衝撃を受けました。そろそろ特許も考えるフェーズなので活用したいです。
秋山氏(以下、敬称略) うちの事務所ではスタートアップの2割から3割の出願がスーパー早期審査を使っていますよ。
今井 ただ、必ずしも早く審査したほうがいいとは限りません。あえて出願で止めておき、他社の動向を見ながら、審査するかどうかを判断する戦略もあります。
横井氏(以下、敬称略) 私は以前に勤めていた企業で出願した特許もあり、その差分をどのように出していくかが課題でした。会社の立ち上げるときにロードマップと仮想の部署を作ったのですが、当初から知財の部署も入れていました。とはいえ、全部で300万円くらいしか予算がないので、優先度はどうしても低くなってしまいます。最近ようやく売り上げが立ってきたので、この機会を機に知財戦略を考えたいと考えています。
今井 秋山先生、お金がない中でスタートアップはどのように戦略を立てていけばいいのでしょう?
秋山 特許権が成立し、活用するステージに進むまでは時間がかかります。商標ならモノを作り、宣伝し、売る段階から使えますから、商標を先に出して、ある程度収益が見込めるようになってから特許に進むのが基本。いい特許であれば数年後には役に立ちます。たくさん出さなくてもいいから費用をできるだけかけずに出しておくのが大事です。また特許は出願から1年半は公開されません。出願しても審査を通らないようであれば、いったん取り下げて、改良して出願し直せばアイデアが表に出ることはありません。また、優先権制度もあります。いろいろな手があるので戦略を組み合わせてやるといいでしょう。ただ、特許はどうしても費用がかかるのでまずは商標です。
鈴木 フェーズやタイミングによって優先順位が変わってくる。知財専門家に相談しながら進めていくのが大事なんですね。せっかくの機会なので、知財専門家へ聞いてみたいことはありますか?
大森 シード期のスタートアップにとって、お金がないのが共通の課題。秋山先生は、ベンチャーに出資した経験もあるとのことですが、ストックオプションや株主になる形で受けてもらえることもあるのでしょうか。
秋山 ベンチャー支援はリスクが高いですが、わくわく感から出資することはあります。ただし、私が出資した分は知財に使ってもらうことを条件にしています。例えば、私の手数料は利益が出てから返してもらうことにして、出願の印紙代や海外出願の代理人手数料は支払ってもらう、という形です。別のケースでは、30件くらい私の名義で出願して、ある程度軌道に乗ったら買い取ってもらった例もあります。
鈴木 そんな中で知財専門の役員を早期に入れているベンチャーさんもいますが、どういう狙いがあるのでしょうか。
今井 事業戦略に知財の要素を入れておきたいと考える企業は一定数あります。特に技術優位の会社は知財マインドが高く、ビジネスについての議論の場には必ず知財の専門家が同席しています。
横井 弊社はスポーツのあらゆるニーズを聞きながら開発をしており、その現場で特許につながるような技術開発が生まれることがあります。こうした実証実験のような形で開発をする場合の知財の取り扱いで気を付けることはありますか。PRの場でもあるので、情報を出し過ぎてしまわないか心配です。
今井 ほかの企業との提携では、必ず秘密保持契約を結んでいただきたい。PRでは情報のコントロールにも注意が必要です。スタートアップは、出願する前にTwitterやFacebookに技術のアイデアや今後の展望を発言しまうことが少なくありません。うっかり情報公開していたために、特許の権利範囲が狭まってしまうことがあるので、広い範囲で取りたければ情報公開には細心の注意を払ったほうがいいです。
秋山 飲み屋で話すときも気を付けてくださいね。商標などはすぐに出されてしまいますから。スタートアップは宣伝も大切だから、何を秘密にして、どこまで開示していくのか戦略的にやらなきゃいけません。
横井 自社の権利は守りたいけれど、一方で、類似のサービスが増えたほうが市場が広がってビジネスがやりやすいという考えもあるのですが、どうなんでしょうか?
秋山 その場合も権利を取ったうえでオープンにすることが大事です。例えば、トヨタはハイブリッド(HV)技術を無償公開していますが、権利自体は持っています。
大森 特許は発明者と会社のどちらに帰属するのが主流なんでしょうか。
秋山 昔は発明者個人に帰属していましたが、法改正があり、今は会社が対価を払うことで会社に帰属させることができるようになり、会社が持つことが増えてきています。
鈴木 最後に一言ずつメッセージを。
今井 特許庁のスタートアップ向け支援施策がまだまだ周知できていないことを実感しました。これからも施策周知に力を入れていこうと強く思います。ぜひ皆様にも口コミで広めていっていただければ。
秋山 アイデアが生まれたらまず知財戦略をつくること。きちんと秘匿さえしていれば後からでも特許出願できるので、まず戦略を持つことが大事です。
大森 金融機関から競合優位性についての質問で、ユーザーもいて技術力も金もある巨大企業が攻めてきたらどう対抗する?という問いに対して、答えを見つけにくいというのはスタートアップあるあるな気もしますが、その際に知財はいいカードになるように思いました。これからの事業戦略に知財戦略を意識していきたいです。
横井 ようやく我々の技術は世界で戦えるんじゃないかと思えるようになってきたので、2024年のパリオリンピックに向けて知財戦略を作ってグローバルに進出していきたいです。
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