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ファーストインプレッション

さすがのサウンド! ゼンハイザーの新フラッグシップIE 600が登場

2022年03月03日 10時00分更新

高性能な自社開発ドライバーを採用、アコースティックにこだわり

 ゼンハイザーの有線イヤホンには現状、フラッグシップの「IE 900」と「IE 300」の2製品がある。IE 900は実売18万円近い超ハイエンド機。IE 300も実売4万円超の高級機ではあるが、価格にかなり開きがある。IE 600は両者の間を埋めつつ、IE 900にはない新機軸も取り込んでいる。なかなか力の入った製品なのだ。

 その特徴はやはりアコースティックだ。ゼンハイザーはドライバーの自社開発もできるメーカーで、IEシリーズではこれまでも自社工場で生産した直径7mmのドライバー(高性能TrueResponseトランスデューサー)を採用していたが、ここは本機も同様だ。メリットは歪みの少なさで、左右の位相差が耳で感じられないほど高精度に揃っているつくりの良さ、各周波数帯域のつながりの良さなどが特徴だ。

 また、IE 900に取り入れた振動板(メンブレンフォイル)が重くなることを嫌ってコーティングを敢えて施さなかったり、形状も非常にシンプルにするといったこだわりがある。様々な試行錯誤の結果、ノーコーティングでプレーンな形状が最も良いという共通思想を持って開発されたドライバーなのだ。

内部構造、ドライバーの後室の容積やドライバーから耳への伝達経路で共振などを利用して特性をよくしている

 ただ、イヤホンの音を決めるのはドライバーだけではない。ゼンハイザー独自の試みとして注力しているのが「アコースティックバックボリューム」機構と「デュアルレゾネーターチャンバー」機構の2つだ。

 アコースティックバックボリューム機構は、ハウジング内の空気量と風の方向を調整するためドライバーの後方に設けられたエアスペースだ。ドライバーをスムーズに動かすことによって、低域と中域の分離感をよくし、不要な共振を取り除く効果がある。ただ、ここのサイズをどのぐらいとるかが重要で、大きくすると量感が豊かになるが音圧は下がり、小さくすると量感は減るが音圧は上がるといった傾向あるという。このバランスを決め、最適なチューニングにするのがエンジニアの腕の見せ所となり。ゼンハイザー社内ではこの音決めの担当者を実際シェフと呼んでいるそうだが、文字通りシェフのレシピと言えるノウハウである。

 後述するように、IE 600はIE 900ともまた異なる音質傾向を狙っている。

 一方、デュアルレゾネーターチャンバーは、IE 800シリーズで過去搭載していたD2CA(Damped 2 chamber absorber)を採用したものとなる。IE 900では3R(3 Resonator chanber)として、高域の周波数特性を整えるために3つの部屋を用意していたのに対して、IE 600では2つになる。効果としては子音などに相当する5~10kHzの刺さりを低減。耳障りでなく、伸びのあるボーカルの再現に寄与するそうだ。

デュアルレゾネーターチャンバー

周波数特性、高域の盛り上がり(グレーの線)を共振によって低減し、ゼンハイザーが理想とする特性に近づけている。2つの山(谷?)ができているのが分かる。

 ゼンハイザーとしてはドライバーという部品単体ではなく、こうした一連の技術を組み合わせた結果(つまりこれら全体がドライバーである)と考えているようだ。さらに直径7mmのドライバーは、小型なハウジングに収めることができ、装着感にも貢献するとしている。

 IE 600のハウジングは非常に小さく重量も片側6gと軽量だ。さらに「アモルファスジルコニウム」(ドイツへレウス社のAMLOY-ZR01)という素材をラインアップを通じて初めて採用している。一般的な鉄に比べて3倍の強度があり、頑丈さと柔軟性を両立し、腐食しにくく、低温にも強いというメリットを持つ。医療や宇宙開発でも注目を浴びており、NASAの火星探査機のドリルにも使用されている素材だという。IE 600のハウジングは粉末の素材を用い、3Dプリンターで造形したものになっている。

アモルファスジルコニウムの筐体

 ケーブルはプレーヤー側が3.5mm(アンバランス)または4.4mm(バランス)の2種類を用意。パラアラミド繊維のシースで強化しており、8000回の折り曲げに耐える。コネクターはMMCX仕様だが、端子周辺部の形状が異なる独自仕様(Fidelity Plus MMCX)となっている。ここはIE 300やIE 900と同様だ。安定感と耐久性を維持するためのものだが、一部のケーブルが利用できない可能性がある。イヤーチップはシリコンタイプと低反発タイプをそれぞれ3サイズ同梱している。

接続はMMCX端子、ただし安定性を高めるため独自の構造を取り入れている。

安定性の高いコネクター部

忠実再現のIE 900とボーカルの近さを感じるIE 600

 IE 600に興味を持つ人はIE 900との違いが気になるかもしれない。ゼンハイザージャパンの説明によると、IE 900は全帯域で原音に忠実な再現を目指しているのに対して、IE 600はボーカルに臨場感が出てより近く聞こえる点を重視しているのだという。例えばバックボリューム機構に関しては、IE 900よりは小さくしているため、ボーカルなどの中域や低域に音圧感が出て、より臨場感を感じるサウンドになるという。このあたりは単純に価格で上位/下位を決めるのではなく、シリーズの中でキャラクターを出して差別化していく意図が入っているのが感じ取れる。

白い線がIE 600、グレーの線がIE 900。比較すると子音などが来る数千Hzの高域と低域が高くなっている。ややドンシャリ傾向というか、ボーカルなどの直接音が明瞭に聞える、はっきりとした再生音を狙っていると言えそう。

 レゾネーターチャンバーの数によってグラフ上、高域の特性に差が出ているが、補正がかかる帯域はともに広く取られており、伸びに関しては差がないとする。IE 600はIE 900と同じ基本思想で作られているが、中域が前に出てきらびやかなボーカルだったり、安定感のある低域だったりを感じられる音作りなのだという。ボーカル曲やポップスなどを楽しむ際にはよりよい面もあるので、個性の違いで選びたいところだ。

 周波数帯域は4Hz~46kHzと非常に広く、感度は118dB、インピーダンスは18Ω、THD(歪み)は0.06%以下(94dB@1kHz)と低く抑えられている。なお、ゼンハイザーのフラッグシップモデルはこれまでドイツの自社工場での生産が基本だったが、SONOVAへの事業譲渡後、今後はアイルランドの自社工場に集約していく方針だそうで、本機もアイルランド製の製品となっている。ただし製造方法などは同様で、品質に差は出ないという。

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