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ホンダのロボティクス技術×楽天の商品配送ノウハウで無人配送サービスを実現へ

さまざまな地域課題や社会課題の解消や、ドローンやスマートシティなどとの組み合わせで期待されている自動走行ロボットを活用した配送サービス。日本でも各種実証実験が進んでいるが、いよいよ実装が見え始めている。2020年より実施されたNEDOによる実証実験で見えてきた動きを追いかける。

 コロナ禍の巣ごもり需要、非対面・非接触のニーズから自動配送ロボットへの期待が高まっている。本田技術研究所(以下、ホンダ)と楽天グループ株式会社は、「個人向け自動走行ロボットによる安全な配送サービスの実現」をテーマに、自動配送ロボットの実証実験に取り組んでいる。事業化には性能とコストとのバランスも重要。自動配送ロボットが安全かつ効率的に商品を運ぶための課題とは何なのか。

通販や小売店の商品を安全に届けるラストワンマイルの自動配送ロボットを開発

 ネット通販の拡大による宅配便の増加、配達員不足から、ラストワンマイルの配送にロボットの活用が期待されている。

 加えてコロナ禍では、通販に加え、スーパーなど小売店や飲食店からの配送ニーズも増加している。1980年代から約40年にわたってロボティクス技術を研究してきたホンダと商品配送ノウハウを持つ楽天が取り組むのは、「個人向け自動走行ロボットによる安全な配送サービスの実現」。ECサイトや小売店で販売される商品をユーザー宅やオフィスへ配送するロボットのサービス化へ向けて開発を進めている。

 自動走行ロボットによる無人配送を実用化するには、安全走行性能だけでなく、商品の運搬能力、荷物の積みやすさ、受け渡しまでのオペレーションのしやすさといった課題があり、実際の店舗や利用者を巻き込みながら検証を重ねていく必要がある。

 実証実験には、ホンダが開発した台車型の自動配送ロボットに、楽天が開発した商品配送用ボックスを搭載したものを使用。電力源にはホンダの交換式バッテリーHonda Mobile Power Packを搭載し、充電を待つことなく配送サービスの継続が可能だ。

商品を早く確実に届けられるか? 障害物センサーの感度、配達時間など配送能力を検証

 2021年7月19日~8月31日の期間、筑波大学構内で実施された実証実験では、大学構内のスーパーや飲食店から届け先の学生宿舎まで、一般公道を含む約500メートルのルートを実際に走行した。

 検証内容は大きく2つ。1つは、障害物として検知すべき対象や周囲の状況に合わせた減速停止など適切な自律行動を明確にし、安全に走行するための仕様スペックの検討が行われた。例えば、障害物を検知するにはLiDARとステレオカメラを組みわせたセンサーを搭載するが、感度が高すぎると落ち葉なども検知してしまいスムーズに動けなくなってしまう。人や車など安全性に影響する障害物は確実に検知し、検知しなくていいものは除外するような感度の調整が必要だ。

 同時に、人や自転車の通る場所で実証を行うことで、ロボットの挙動が社会的に受け入れられるかを確認し、社会受容性を高めるための課題を明確にすることも目的としている。

 2つ目は、ロボットの配送能力の検討。最高速度(時速4キロ)で走行した距離、減速が必要になった距離、配送や荷物の受け渡しにかかった時間などが計測された。

コストバランスに見合う現実的な安全性基準の制定が課題

 実証実験による技術課題は明確になったが、安全性の基準までは定量化できておらず、さらにシミュレーションを重ねてデータを収集する必要があるとのこと。例えば、障害物センサーの検知距離は何メートル先まで見えなければいけないのか、判別のために物体認識を組み込むべきか、といった検証課題がある。

 今回の実証環境には自動車などが通らない場所が選ばれたが、一方で自転車の走行が予想よりも多く、安全を確保するために自動配送ロボットの停止が必要なシーンも多々発生したという。自動車道のように交通ルールが明確に定まらない歩行者や自転車などが混在する環境で、ロボットが安全に共存することの難しさが明らかになっている。また遠隔操作で実証を行う場合、通信の遅延が起こらない5G回線の活用、カメラの見落としがないような監視体制を整えることも必要だ。

 業界全体としても配送ロボットの安全基準は統一されておらず、ホンダは自転車の事故データを参考にリスクアセスメントを行い、自転車事故による危害レベル・発生確率と同等以下になるようにシステムを設計し、運行ルールを定めて実証実験を行った。また社会受容性を高めるには、機体のHMI(Human Machine Interface)の規格統一が重要だ。

 2022年初頭の時点でまとめられている次世代モビリティに対応した新しい交通ルールでは、自動配送ロボットは歩道通行車に区分されるが、走行エリアをさらに拡大するためには狭い歩道や路側帯のない道路などを配送ロボットが走行しやすいように整備する必要もある。また速度制限は最大時速6キロからの引き上げなども検討されており、不確定な要素はまだ多い。

 またコストの問題もある。現状の配送にかかっているコストとロボットの導入・運用にかかるコストが見合わなければいけない。安全基準が高くなれば、それだけ機体コストも上がってしまうため、民間事業者側から安全性基準を定めるガイドラインを作成していくことも考えられる。

 2023年にはビジネス実証を進め、2025年度中の事業化を目指しているが、そこには安全性の確保が大きな壁になる。自動車の自動運転技術とは異なり、配送ロボットには過去の事故データがなく、リスクアセスメントが難しい。安全基準のしきい値やコンセンサスをどのように作っていくのかが課題となるようだ。

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