週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

この2年で私が食べるようになった料理店についての備忘録的リスト

2022年02月07日 09時00分更新

 この連載が今回で記念すべき128回だそうだ。ということで、たまには食べ物の話を書かせてもらうことにする。

カレーや中国料理ばかり食べているのは自分だけだった

 ここ2年間に世の中の経済も社会も文化も恋愛事情も大きく変わったが、みんなが日々食べている食事に関することも変わった。コロナの初期、知人が都内の食堂やレストランを応援する「東京テイクアウト応援団」というフェイスブックグループを作った(私はそれを自動的にGoogle Mapに張り替えるソフトを書いた)。

 そのときに知ったのは、私の仕事上のつきあいのある人たちが想像以上にフランス料理やイタリア料理や寿司や天ぷらなどを好んで食べているということだった。私は、自分のまわりにいるような人たちもみんな自分と同じようにカレーや中国料理やいわゆるエスニック料理を常食しているのだと信じていたのだ。

 仕事の打ち上げで麹町のアジャンタにいけば、みんなマトンカレーやマサラドーサやコットウパロタなんかを旨い旨いと言ってたべてる(アジャンタはマサラカシューを復活させてほしい)。

 ところが、「東京テイクアウト応援団」でみんながポストするお気に入りのお店を見ていると、この私の考えが幻想であることが明らかになった。私は、フランス料理は5年に1回、イタリア料理は3年に1回、寿司、焼肉は1年に1回くらいしか食べない。それに対して、カレーは、ほぼ毎日食べている。中国料理も似たようなものだ。しかし、そんな私は少数派だったのだ。

 どのくらい少数派なのかと思って、その母数となるレストランの数を、食べログで検索してみることにした。食べログには、現在、全国で81万店、東京は12万8475店のレストランが登録されているらしい(2022年2月の記事執筆時)。トップ画面からキーワードと「東京(すべて)」を指定してやってみた。結果は「東京のインド料理のお店」などと出てくるのだが、各料理を提供するお店の数は次のとおりだ。

 中国料理が多いのは、日本に根付いてからの歴史も長い(いわゆる町中華もある)ので、まあ当たり前としてもイタリア料理店の多さは驚きではないか! フレンチの2倍、インド料理の4倍もある。「いやいや、エンドウさんが食べているのはインド料理じゃなくてカレーでしょう。スリランカやペトナムのカレーも食べますよね」と言われそうなので「カレー」で検索してみると、4908件あると出てきた(インド料理店も拾ってる)。しかし、イタリア料理店はそれよりも多い!

 ちなみに、インド料理については2000年代に入って激増しているのだそうだ。NTTタウンページの登録情報では、日本のインド料理店は2007年から2014年の間に約5.87倍増えたという記事がある。ターリー屋などの複数展開が理由の1つだと思われるわけだが、はなんとなく納得感はある。ということは、ほんの数年前はこれよりはるかに少なかったということか!

 フレンチやイタリアンを食べている私の同世代の人たちは、みんな1990年頃のバブルの時代にそんな食習慣が身に付いたのだろう。みんなお金持ちなんだなあとも思う。ちなみに、私はフランス料理は5年に1回くらいしか食べないと書いたが、グーグルフォトを駆使して調べてみると、本当に2018年にジャパンエキスポ取材でフランスに行って本場でフォアグラなんかを食べて以来だった。

本当に東京はおいしいお店が増えました(もちろん現地が恋しいけど!)

 さて、本題のこの2年間で変わった私の食べ物事情について書かせてもらうことにする。個人的に食べ物の情報は《口コミ》しか信用してこなかったのだが、いまやカレーもそうだしエスニック料理にかんする情報ページやブログはきわめて充実してきている。中国料理なら「80C」(ハオチー)なんかはお世話になっている人も多いはず。

 ということで、いまさらというお店もあるかもしれないのだが、今後、「何食べようか?」というときのための備忘にもなるので、おすすめのお店をあげてみることにする。

also/鶯嵝荘(白山)――台湾料理

 2021年2月にオープンした江戸川橋にあるフジコミュニケーションの姉妹店。私は、お昼のランチが中心だが、《鶏肉飯》(ジーローハン)のセットがワンタンもついてお得だ。台湾のストリートフードなので、《魯肉飯》(ルーローハン)や《排骨飯》(パイコーハン)もある。

 私は、かつて台北のマイベスト魯肉飯を求めて食べ歩いたことがある(台湾観光局発行の冊子にその内容が転載されている!)。その経験からすると魯肉飯は、できるだけご飯がぐちゃぐちゃで熱いスープが各種用意されているのをよしとしている。それに従うと日本で食べられる魯肉飯でいちばん納得感が高いのは、やはり、鬍鬚張魯肉飯(ひげちょうるうろうはん)金沢工大前店となる。

 しかし、魯肉飯というよりも料理というのはもっと自由なもので、alsoのコマ切れ肉でよりサッパリ系な魯肉飯もわるくはないというものだ。個人的には、鶏肉飯4、魯肉飯2、排骨飯1の回数比率で食べている。《炸醤麺》(ジャージャーメン)セット、《葱油麺》(ツォンヨウメン)セットもあり。なお、2月に中野新町に香港ストリートフードのお店もオープンとか。

also/鶯嵝荘、お店の雰囲気もいい。

排骨飯。ランチの雲吞セットがお勧め。

鴻福餃子酒場(鶯谷)――羊鍋にも強い中国料理

 3年ほど前に本郷に引っ越してからいままで気付いていなかったのだが、自宅が接している言問通りをまっすぐ行くと鶯谷にたどりつく(歩いても30分ほど)。いままでほとんど馴染みがなかったのだが、ほかのお店が目的でかけて偶然に見つけたこのお店にハマっている。

 ちなみに、同じ鶯谷では「龍一吟」という台湾料理店もなかなかよい(台湾ラーメンとジブリ飯の《肉圓》(バーワン)、魯肉飯もわるくない)。鴻福餃子酒場は、この龍一吟から旧・陸奥宗光邸への入口をはさんだ通り沿い。店頭ショウウィンドウに飾られた餃子類に目が行って入ったのだが、個人的には、《羊雑湯》(羊肉とホルモンの鍋)、《紅燜羊肉》(羊肉の四川風煮込み)、《酸菜魚》(文字の通りの鍋)、《醤背骨》(豚の背骨肉)あたりがお気に入りだ(基本的に粉モノも含めてどれも旨いのだが)。

 そんなふうに鶯谷に通うようになってTwitterにポストしていたら、元私の編集部で現在は某出版社社長のNさんが「Dorisの店長とご飯たべましょう」と言ってきて食べた。Doris(古書ドリス)は、以前からその噂を聞いていた耽美系幻想系の古書店。十代の頃読みまくっていた澁澤龍彦の本がいっぺんにあんなに揃っている古書店は初めてみた。羊肉料理と幻想系の本の話が交錯する。

これに見とれて入店したが個人的にむしろお勧めは羊肉ものなのだが。

これは醤背骨。記事冒頭の左上が紅燜羊肉、左下が羊雑湯。ホルモンは丁寧に洗ってあり絶品だ。

ラブホの印象があるといわれる鶯谷だが、食も文化もある。Doris店主によると上野の美術館からも客が流れてくるそうな。

JIMJUM/ジムジュム(浅草)――タイ料理

 タイ料理は、1990年前後のバブルの頃にお店も増えたて、私も、歌舞伎町のシャムなどご贔屓にしていた(当時連載してもらってたクーロン黒沢氏と行ったことも!)。しかし、いまはタイ料理というと信濃町のメーヤウに月1回くらいは行っている程度(もちろん「大辛」)。前出のN氏が、そんな私に「エンドウさん行くべきです」と案内してくれたこのお店は、たしかにタイ料理について私の認識を45度くらい変えてくれた。

 浅草といえば、会社の関係者の実家だというロシア料理店ストロバヤに行かなきゃと思っていたままなんとなく足を運んでなかった。たしかに、浅草は料理満足度を自宅からの距離で割った指数はかなり高い地域のはず。これは、鶯谷の件といい灯台下暗しというべきか。不覚。タイ料理JIMJUMは、つくばエキスプレス浅草駅の出口の前(15歩くらい?)にある。

 N氏によると「ソンポーンやイサーンなど、浅草には本格的なタイ料理の店がありますが、私はここがいちばんだと思っています。《パッキーマウ》という正体不明の料理がばつぐんです」とのこと。結局、N氏に誘われてコロナが一時的に収まった谷間の11月中旬に連れていってもらったのだが、すべて旨かった。店主によると使っているソースのベースがすべて自家製、そんなお店は都内ではめずらしいとのこと。私は、そういう話は信じるようにしているが、そうだと思った。

豚スペアリブの料理、とにかく旨い。

ムール貝のトムヤム。スープも旨い。

粤港美食(神保町)――香港料理

 台湾料理、中国料理、タイ料理ときたが、私が、いちばん出かけている香港(たぶん50回はいっている=ある13カ月は6回行った)の料理のお店も増えている。2015年にオープンしてその後もよく出かけているのが飯田橋の香港贊記茶餐廳(ほんこんちゃんきちゃちゃんてん)だ。《焼肉飯》(ローストポークのせご飯)、《粟米魚柳飯》(白身魚のコーンライス)、《水煮牛肉》(牛肉の四川風唐辛子煮込み)あたりがたまらない。

 ところで、そんな私が香港に出かける理由の1つが冬になると定番の土鍋飯こと《煲仔飯》 (ボウチャイファン)である。個人的に、魯肉飯、肉骨茶、煲仔飯をしてアジア三大屋台飯としているのだが、いままで日本で現地の煲仔飯の味を再現するお店に出合えたことはなかった。そこに、コロナまっさかりの2020年12月に突如として煲仔飯を食べさせるお店としてオープンしたのが、神田神保町の粵港美食(えつこうびしょく)である(煲仔飯がメインではないのだが)。

 2021年7月には、粤港美食二号店もオープン。こちら、パンチマハルやカーマやブラッセルズのある錦華通り。二号店のほうは、これまた私の大好きな《焼味》(ロースト)の専門店としてオープンしたのだが、こちらでも煲仔飯をだしている。本店と二号店で、煲仔飯のラインナップが少し違うので事前に調べておくとよいでしょう。本店のほうは、野菜とうぐいの豆うま煮の炒め物も旨い。

二号店の厨房には焼味(シュウメイ)がずらり。

鼓汁排骨煲仔飯ですな。

台湾豆乳大王(九段下)――台湾料理

 こちらもコロナがこれからくる2020年5月というタイミングでオープンしてくれた有り難いお店、九段下の台湾豆乳大王だ。台湾旅行をされた方ならご存じのとおり、台湾の朝食を象徴するメニューが、台湾風豆乳。コンピューター業界のみんなは、毎年、6月頃に開催されるCompuTex TAIPEIに通った人も多いからいやというほどご存じのはず。

 なんといっても《鹹豆漿》(シェントウジャン)という具入りの豆乳スープが推しだが、いわゆる豆乳の《豆漿》(トウジャン)、併せて食べる《油條》(ヨウティアオ)、やはり朝ごはんの定番の《蛋餅》(ダンピン)もある。ご飯ものの《魯肉飯》(ルーローハン)、《鶏肉飯》(ジーローハン)もお試しあれ。屋台おやつの《胡椒餅》(フージャオピン)なんかもある。

 お店があるのは九段下から少し神保町寄りに歩いた裏通り。ある日、例によって鹹豆漿+魯肉飯をセットで食べていたら、「こんにちは」と、ちょっと台湾訛りの声をかけられた。私の業界で知らない人がいたら完全にモグリなASUS日本法人のシンシア・テンさんが微笑みかけていた。なんとASUSの日本支社はこのお店の道路をはさんでほぼ正面。「ここはうちの社食よ~w」とのことでした。

台湾っぽいゆるくて癒しのある外壁や看板の文字。

小さいが店内の雰囲気もいい。写真は鹹豆漿。

丸政の「元気甲斐」や「醤油鶏弁当」が新宿でゲットできるようになったぞ!

 この2年間、要するにコロナがはじまってから行くようになったお店をあげていたらほぼ中国料理系(四川、台湾、香港)のお店になってしまった。実際のところ池袋を起点にしていまは本場感のきわめて高い中国系のお店が急増中。1カ月ほど前に連れていかれた《瓯味温州坊日暮里店》は、店名のとおり温州料理のお店なのだが、いままで食べたことのない味もありめちゃめちゃ刺激的な体験だった。銀座など一等地にも中国料理店は増えているのはたしかで、香港料理系でいうと《盛記》が2021年9月にオープンしている。落ち着いた食事向けだが焼味や点心に力を入れているのはいい。

 最後に、滅多に食べない日本食でやや変則ではあるのだが、小淵沢駅を拠点とする株式会社丸政の駅弁「元気甲斐」。もともとテレビ朝日「探検レストラン」の企画で生まれたものなのだが、京都と東京の人気料亭が知恵を絞った駅弁の味というのがたしかに唸らされる。料亭が任せようというレベルの仕上がり。個人的には、安西水丸氏によるパッケージもうれしい。

 これが、かつて新宿駅の駅弁屋でも入手できた時期があるのだが、その後は長らくあつかいがなかった。それが、2020年8月に伊勢丹地下に直販店をオープン。「元気甲斐」もさることながら、お店の人に聞くと「醤油鶏弁当」に熱心なファンがついていてお勧めだそうだ。たしかに、まる一晩醤油に漬けた鶏の唐揚げが絶品。個人的には、たぶん想像とは違う上品な味わいの醤油鯖もお勧め。

新宿伊勢丹の本館地下1階=旨の膳(惣菜・弁当)で売っている

 ということで、ここまで書いて気付いたのだが「カレーはどうしたんですか?」と言われそう。たしかに、この間にみつけて食べているカレーもある。なのだが、十分に長くなってしまったので次の機会にまた書かせてもらうことにする。

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。

Twitter:@hortense667

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事