第26回
「数千万単位でのカメラ映像を簡単に処理するアリババクラウドのIoTプラットホーム」レポート
日本でまもなく提供、アリババクラウドの映像処理IoT基盤の強み
大規模イベントの緊急救護や会場警備、記録にも活躍
Link Visualを活用したソリューションの一例として薛氏は、都市やキャンパスの警備に当たる警備スタッフ用のネットワークボディカメラを紹介した。
着用型のこのデバイスには、映像/音声記録のクラウド送信だけでなく、警備本部とコミュニケーションできるトランシーバー機能、現在位置を知らせるGPSロケーター機能なども統合されている。これにより、中央の指揮センターでは現場の映像を見ながらスタッフに指示を出したり、何か事故が起きた場合にはGPSデータから最寄りのスタッフを見つけて現場急行を指示したりすることができる。
このデバイスが活用された一例として、薛氏は2020年に中国・杭州で開催されたマラソン大会を紹介した。多数のランナーが参加したこの大会では、無人の固定カメラを使って各地点におけるレースの進行状況を監視。沿道にスタンバイした救護医療スタッフがこのボディカメラを身につけ、負傷者や急病人が発生した場合は本部から最寄りのスタッフを探して指示を出し、遠隔救急医療を実現した。さらにカメラは会場警備やレースの映像記録にも用いられたという。
都市やキャンパスの警備を支援するAIソリューション「Gatekeeper」
さらに薛氏は、カメラ映像に高度なAI分析を適用した事例についても紹介した。
アリババクラウドではAIソリューション「Gatekeeper」を提供している。“門番”を意味するその名前のとおり、これは監視カメラ映像から不審者や不審な振る舞いの検出/警告/追跡に特化したAIモデルを備えた、物理セキュリティ向けソリューションである。
「その特徴は、クラウドを使わなくても(クラウドに映像データを送信しなくても)よいこと。エッジ環境に設置した産業用PC、あるいはサーバーをルーターの隣に接続し、カメラから映像を転送すれば、ローカル環境内でAIによるデータ分析ができる。既存システムに手を加えることなく、AIによる映像分析のシステムを追加することが可能だ。もちろんAPIを介してクラウドと接続することもできる」(薛氏)
中国ではこのシステムが、主に工場キャンパスや学校などにおける安全管理に使われているという。外部の大規模システムに接続することなく、エッジ環境に閉じたかたちで警備ソリューションを提供できる点が他社との違いだという。
物理セキュリティ管理用途でのユニークな機能の1つとして、薛氏は「動画濃縮」を紹介した。これは長時間の監視カメラ映像から動きのあるシーンだけを抽出し、さらにそのシーンを複数重ね合わせることで大幅に短縮した動画を生成する機能だ。「警備員が1日24時間ぶんの映像を見るのは不可能だが、それが24分間になれば確認も可能になる」(薛氏)。
さらに動画から不審者が見つかった場合は、多数のカメラ映像から同じ人物の映っているシーンを検索したり、その移動経路を地図上にマッピングしたりすることも可能だ。このとき、顔認識だけでなく着ている衣服や靴、帽子、持っているかばんといった“物体”を認識して検出することもできるという。
「アリババはECサイト『Taobao』を運営しており、ユーザーがタグ付けした大量の商品画像を持っているため、物体認識能力には優位性がある」(薛氏)
さらに薛氏は、この検索技術は人物に限らず物体そのものにも適用できると説明した。たとえばある段ボール箱が持ち去られた場合に、その箱をキーとして多数の映像を検索し、誰がどこに持ち去ったのかを調べられると説明した。
講演の最後に薛氏は、あらためて今年末から日本でLink Visualを提供開始することに触れ、日本のパートナーとともにソリューションを開発し、アリババが特に強みを持つアジア圏を中心とした海外展開を支援していきたいと強調した。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります