今回のひとこと
「ビジネスへの影響という意味では、新型コロナウイルスとの付き合い方はだいたい理解してきた。働き方改革も、新型コロナウイルスへの対策ではなく、中期的視点で、この仕組みをどう生かしていくのかというフェーズに入っている」
CEO直下の組織で進める、Smart Work 2.0
NECは、CEO直下の組織としてTransformation Officeを設置している。
「NECが、最先端のDXや、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)のリファレンスとなるためのプロジェクト」と位置づけ、約150にわたる全社プロジェクトを実行している。
そのなかのひとつの取り組みが、Smart Work 2.0である。
NECでは、カルチャー変革の一環として、2018年から「Smart Work」を打ち出して、働き方改革を推進してきた経緯がある。主要事業場のリノベーションや、全社員を対象とした在宅勤務、スーパーフレックス制度の導入、AIを活用した業務効率化や電子署名、電子契約の導入による印鑑レスの実現など、オフィス面、制度面、IT面で働きやすい環境を整備してきた。コロナ禍では、この取り組みを加速。現在でも、70%のテレワーク率を維持しているという。
2021年11月には、これを進化させたSmart Work 2.0を本格的にスタートすることを発表。ロケーションフリーを原則とし、社員に働く場所や時間などの自律的な選択を促すことになる。
コロナ禍が過ぎてもオフィス出社率は40%にとどまる予測
NECの森田隆之社長兼CEOは、「働き方改革は、2020年夏の時点から、新型コロナウイルスへの対策というよりも、すでに、中期的視点で、この仕組みをどう生かしていくのかというフェーズに入っている」と指摘し、「リアルなオフィスが果たす意味合いが変わってきている。それぞれがオフィスにいることを前提にせず、むしろ、オフィスにいないことを意識せずに、働けるデジタルワークプレイスの実現を進めていくことになる」とする。
現在、工場や試験設備がある拠点では80%の出社率となっており、都内の拠点では府中事業場などが高い出社率になっているという。だが、本社などのオフィスワーカーの部門であれば、10~20%の出社率で機能をしている。今後も全体の出社率は40%に留まることを想定して、働く環境を実現する考えを示す。
森田社長兼CEOは、「いまは、3つのオフィスの形態が考えられる」と述べ、「ひとつはコミュニケーションハブとしてのオフィス、2つめが従業員同士、顧客やパートナーによる共創の場としての共創空間型オフィス、3つめがカフェや公園などを含めたロケーションフリーで働けるオフィスである」とする。これらのコミュニケーションハブ、共創空間、リモートワークを組み合わせたハイブリッドワークに移行することが、Smart Work 2.0の基盤になる。
たとえば、東京・三田のNEC本社では、2018年からのSmart Work 1.0に基づいて、ほぼ全フロアのリニューアルが完了したが、その成果をもとに、コミュニケーションハブとしての実践に入ることになる。
コミュニケーションハブでは、オフィスを再定義し、社員がホームグランドとして集い、心理的安全性が確保されたなかで、チームのエネルギーを結集する場とし、完全フリーアドレスを導入。闊達なコミュニケーションに最適な空間へと進化させていくという。
また、共創空間は、社内外のメンバーが交流し、エコシステムを育てイノベーションを生み出す状態を日常化するための場所とし、会議室や食堂などのデザインを一新。共創を前提としたスペースを、現在の8倍に拡大するという。
そして、リモートワークでは、デジタルの力を活用。NECグループ12万人の従業員が、マイクロソフトのAzure Virtual Desktopを活用したシンクライアントPC環境で業務を推進する。「これは、米マイクロソフトとのグローバルアライアンスによる成果によるものになる」(NECの森田社長兼CEO)とする。
Azure Virtual Desktop
NECと米マイクロソフトは、2021年7月に、戦略的パートナーシップを拡大。そのなかで、Azure Virtual Desktop をはじめとするMicrosoft AzureやMicrosoft 365などを、従業員向けに導入することを明らかにしていた。
「このモダナイゼーションは、NECの既存のMicrosoft 365プラットフォームを活用して実現し、これまで以上にセキュアで、堅牢で、より持続的な環境を実現する。この取り組みをもとに、デジタルワークプレイスを、日本およびグローバルの企業、公共機関に向けて提供し、クラウドマイグレーションを加速させる」という。
こうした取り組みによって、本社エリアなどでは、部門単位でのオフィスを半減する計画も発表している。
また、Smart Work 2.0では、認証基盤の統一、先進技術を用いた情報の保護、クラウド基盤の監視や監査の強化、生体認証によるセキュリティを強化した次世代デバイスの導入などにより、多様な働き方を、セキュリティ面でも支援していくことになる。
さらに、Smart Work 2.0の活動を通じて、2024年度には、神奈川県の玉川事業場に、Smart Work 2.0コンセプトのフラグシップオフィスと最先端技術の実証の場を新設。また、営業やSE、開発、スタッフなどの多様な職種や、地域特性を踏まえた施策を実行する。府中、我孫子、相模原の各事業場や、全国約60拠点においては、コミュニケーションハブと共創空間の最適配置をはじめとするリニューアルを実施するとともに、グループ会社のオフィスを集約。その結果として、京浜地区のNECおよびNECグループ会社のオフィスの最適化により、「2025中期経営計画」の実施期間中に、フロア面積を4分の1となる約14万㎡の削減を予定している。
加えて、遠隔地居住勤務制度の導入と、ワーケーションの推進によって、勤務場所の選択肢を増やし、多様な人材のニーズに対応。2022年度からは週休3日選択制を導入し、働く時間の自由度を向上させるという。そのほか、新たに社内兼業ルールを導入することにより、業務時間の20%までを他部門業務や横断活動に充てることが認められ、2023年度からは、兼業および副業を拡充して、NEC以外の会社や組織に雇用されて働くことも認めるという。あわせて、多様な働き方をするメンバーを束ね、チームとしての成果を出すことを求められるマネージャーへの支援も強化する。
このように、Smart Work 2.0では「Digital Technology」「Workplace」による施策を展開。さらに、「Work Principles」の施策を相互に密連携させていくことになる。
Work Principlesでは、従業員を対象にしたアンケートやストレスチェックなどの主観データと、労働時間や人員数などの客観データを基に、NECのAIを用いて組織の状態を分析し、働き方に関するインサイトやアドバイスを提供する「チーム健康診断・生産性診断」を構築することを明らかにしている。
NECの森田社長兼CEOは、「今後は、社員の心身の不安などにも対応しながら、社員の生産性向上や、創造的な仕事へのシフトといった点が重要になる」と述べた。
ジョブ型人事制度を2023年度に全社員に拡大
森田社長兼CEOは、ジョブ型人事制度を、2023年度には全社員へと拡大する考えも示した。
2025中期経営計画のなかでは、トップマネジメントの結果責任を厳しく問うことを目的に、1年任期の委任契約をより厳格に運用することを発表している。ここでは、内規に定めていた定年を廃止し、年齢にとらわれない適所に適材を配置する仕組みも同時に導入している。
また、年間を通じて社員の職務経歴と各部門の募集ポジションを社内公開し、ジョブマッチングを図る人材公募制度「NEC Growth Careers」を2019年度から導入。新卒採用数とほぼ同規模となる500人のキャリア採用を2021年度から実施。新卒者に対しては、優秀な人材には学歴別初任給ではなく、本人が担う役割に応じた報酬水準で処遇する新卒ジョブ型採用も実施。さらに、管理職の役職定年廃止も2021年度からスタートし、柔軟な人事制度を整えている。
森田社長兼CEOは、「海外法人や子会社のアビームコンルティングではすでにジョブ型を採用しているが、メンバーシップ型からジョブ型への移行は、マインドセットの変化を伴うため、丁寧にやる必要がある。まずは、役員レベルを1年間の任期とし、2021年度はコミットメントによる評価手法を事業部長にまで広げた。2022年度は管理職全体に広げ、ジョブ型人事制度のベースを作っていくことになる」とする。そして、「2023年度には、NECとしてのジョブ型人事制度を、法律が許される範囲で実行することを考えている」とする。
森田社長兼CEOには、「ジョブ型を主流にしないと、競争力を持った形で事業が展開できない」という考えがある。そして、その一方で、パーパス経営の実現には、高いモチベーションを持つ社員の存在が必須であり、「NEC Wayのもとに多様な人材が集い、イノベーションを追求する会社を実現し、その結果、社員から選ばれる会社(Employer of Choice)に変革していかなくてはならない」とも語る。
「人とカルチャーの変革」、「ビジネスインフラの整備」、「顧客との未来の共感創り」という3点から社内の文化を醸成するのが、2025中期経営計画であげた重要な取り組みであり、ここには、現在25%のエンゲージメントスコアを、2025年度には50%を目指すといった非財務指標も含まれる。同スコアの50%という数値は、グローバル上位25パーセンタイルに該当し、Tier1レベルに入る。
「ビジネスへの影響という意味では、新型コロナウイルスとの付き合い方はだいたい理解できてきた」とする森田社長兼CEOは、働き方の改革と大胆な人事制度の導入により、次の時代に向けた新たな体質づくりに挑んでいる。
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