2021年11月19日、IoT/ハードウェアビジネスのカンファレンス「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」が開催された。「空飛ぶクルマ、核融合炉~エクストリームなモノづくりスタートアップに迫る~」では、テトラ・アビエーション株式会社 代表取締役の中井 佑氏、京都フュージョニアリング株式会社 代表取締役の長尾 昂氏、合同会社OXTLab 代表の牛尾 隆一氏による特別セッションを配信。前例のないモノづくりはどのように進められているのか、両代表にその裏側を直撃した。
100kmを30分で移動する空飛ぶクルマを開発するテトラ・アビエーション株式会社
まずは空飛ぶクルマを開発しているテトラ・アビエーション株式会社の事業内容紹介から。「早く移動したい」という思いをモチベーションに、都市周辺にある町々を結ぶようなモビリティを作りたいと中井氏は考えており、2025年、2030年に実現できることを目指している。
東京大学博士課程在学中に一人乗りの「空飛ぶクルマ」の国際開発コンテストGoFlyに応募し、2018年6月に1次審査のデザインで上位10名に選ばれ賞金を獲得したのちに起業。実際に開発しているのは、垂直に離着陸して、水平にプロペラを使って飛行する飛行機とヘリコプターが合体した1人乗りの空飛ぶクルマだ。米国カリフォルニアでの実験当日は風が強く運航が難しい状況下でありながら、FAA(アメリカ連邦航空局)からの許可を取得して成功した。いよいよ顧客向けの機体を開発する段階に入ったという。
最初のターゲットは、地域にあるモールの立体駐車場などの屋上に空飛ぶクルマで乗り降りできる場所があり、目的の街まで最短で移動できる中距離帯のマーケット。2021年7月26日から予約を開始しており、将来的には個人用市場にて組み立てキットの販売を想定している。2026年には、完全自動で飛ばすことを目標に、2022年中に実験航空機を発売し、国からの許可を得たいという考えを紹介した。
日本発の核融合テックで人類の環境問題を解決する
続いて、京都フュージョニアリング株式会社 代表取締役 長尾 昂氏から、事業内容についての紹介へ。同社は、京都大学の技術を使って、核融合炉の中でもキーとなるコンポーネントを開発設計することを考えている。
核融合では、中性子を作るために約2億度の温度が必要となる。方法は複数あるが、例えばフランスで製作されているトカマク型核融合炉は、高温超電導のマグネットを使った磁場閉じ込め式の核融合炉である。同社は核融合炉を作り発電するだけでなく、空気中の二酸化炭素を固形化することまでをビジョンとしている。
開発しているキーコンポーネントは、2億度のプラズマ核融合反応から熱を取り出すブランケットシステムなど3種類のモジュールだ。核融合炉の炉工学分野で競合の少ない商品提供を目指す。
日本の場合、国の研究機関による研究開発は世界でも進んでいるが、スタートアップという部分では世界に後れをとっているという。同社は、日本の技術力を培って核融合反応を起こす本体を作成する競争に参加するわけではなく、熱を取り出す炉工学・炉建設の担い手となるビジネスモデルを設計している。
世界の状況と両社の立ち位置
パネルディスカッションでは、モデレーターの牛尾氏からまず「世界との現状比較」について両社へ質問が飛んだ。
中井氏は、「854ものスタートアップが参加した大会の中で、最終的に形にできたのは我が社だけ。人・物・資金力を含めて完成まで持って行くのはとても難しい。そんな中ですでに実機サイズのプロトタイプが完成しており、実験を海外で行えているという意味では進んでいると思う。できる範囲に限って、そこだけはマーケットを取れるようにがんばっている状況」と返答。スウェーデンのスタートアップJetsonは1人乗りのeVTOL「Jetson One」を発表し、2022年から販売を開始しているなど、海外の状況についても説明があった。
長尾氏からは、実展開としての核融合炉における世界の状況が述べられた。「核融合の領域では、国のプロジェクトといかに協力していくかが重要な指標となる。日本には国の研究機関に優秀な人材が集まっており、そろそろ民間企業も立ち上がってきている状況。どの国が一番先に核融合炉を実際に完成させるかは分からないが、日本は少なくとも良い立ち位置にある」
両者ともに、「スピード感を持って事業展開できている」ことがわかるが、その理由はどこにあるのか。
中井氏は「まずはタイミング。そして、いい人材が集まってくれたこと。人とタイミングがここまで持ってこられた理由。ビジョンが明確でやりたいことがはっきりしていたので、必要な人材を探しやすかった。自分がやりたいと思っていることができない環境に身を置くよりは、できる環境に移って能力を身に付け、世界で活躍したいと思う方が増えたように思う」と回答。
長尾氏からは「核融合炉の完成には少なくとも15年以上は必要。開発のマイルストーンとしては技術成熟度(Technology readiness levels)で整理する方がわかりやすいが、少なくとも我々の中ではマイルストーンは持っている。2年間を1つのサイクルとしてここまでやろうと決めて、そこに必要な人材や投資金額を整理している。創業当時から優秀なエンジニアが入ってくれた。それを見てまた優秀な人材が入ってきてくれている。こういった好循環がスピードの原動力となっている」という回答があった。
社会実装する際の障壁とアプローチ、ビジネスモデルのポイント
2社ともに、社会実装する際の障壁がまだまだあり、そこへのアプローチが必要となる。前へ進むためのカギはどこにあるのか。
中井氏は「技術がいかに身近にあるかが大事」と回答。まずは個人のユーザーに販売して、そのコミュニティーの中で評価してもらうことを第一目標に掲げているという。
「身近に技術がある環境をどうやって作るかが重要。例えばスカイダイビングが怖いかどうかは人による。経験がある人は(レジャーや競技として)楽しめるものと認識している。たくさんの失敗を繰り返しながら、より安全性の高いものを作り実績を積み上げていく必要がある」(中井氏)
さらに規制という面では、日本ではまずルールを作ることから始まるが、米国ではおもしろいからやってみようという入口が異なる。それを許容するだけの広い土地と資本があるので、日本と同列に語るのは難しいと付け加えた。
長尾氏からは「(核融合炉は)逆輸入で進めるしかないと思っている。マーケットをグローバルに考えると、日本の規制が厳しいのであればグローバルにビジネスを拡大すべき。理解してもらう時間はどうしてもかかるが、そのあとに日本へ持ってくればいい。規制への提言や認知の拡大に向けた努力を続けていくが、日本の国民性を考えるとそういったグローバル展開という手段をとらざるをえない」と回答た。
パネリスト間の質問も交わされ、「核融合に関わる人材をどのように増やそうと思っているのか」という中井氏からの質問に対し、長尾氏は「今、トップエンジニアは60歳くらい。この方が技術も持っているし、失敗事例も多いため知っていることも多い。一方で、(研究に携わる)今の20代、30代は核融合を仕事にしたくも就職先がない。僕がこの会社を立ち上げたもう一つのミッションは技術の継承。ぜひ、うちの会社の門をたたいてほしい」と回答。
また、長尾氏からは「海外の人材のカルチャーやマネージメントの違いに関して工夫していること」が質問された。中井氏は「マネージメントしようとするとこじれるので、成果物単位で区切るしかない。それぞれの文化を尊重しつつ、どんな方法でもいいからゴールラインを切ってくださいと渡すようにしている」と戻した。
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