シリコンバレー気質のスタートアップから重厚長大な日本企業へ
スタートアップであるソラコムの開発組織はまだまだ小規模だが、エンタープライズ組織でありながら、優れたエンジニアリング体制を構築したのがクレディセゾンになる。基調講演の後半は、同社の取締役 専務執行役員 CTO兼CIOの小野和俊氏がクレディセゾンの組織改革やDXについて説明する。
小野氏の経歴は、スタートアップのようなモード2と重厚長大なモード1の組織をまたいだまさに「バイモーダル」なもの。新卒で入ったサン・マイクロシステムズではSEとして入ったが、研修後にシリコンバレーの本社で仕事を経験。その後、アプレッソというベンチャーを立ち上げ、クラウド型データ連携サービス「DataSpider」のビジネスを成功に導く。
その後、DataSpiderの連携の可能性を高めるべく、アプレッソは会社ごとセゾン情報システムズ入り。小野氏自身もシリコンバレー的なベンチャーから、メインフレームやUNIXのシステムを前提としたSIやプロダクト(HULFT)を手がけるインテグレーターに飛び込み、同社のCTOとして社内組織の変革を担うことに。これが小野氏の大きな転機となった。「スピードと柔軟性と技術力重視のスタートアップの私が、歴史のあるカッチリした会社の経営に携わることになり、ものの見方が大きく変わった」と小野氏は語る。
在籍した6年で、セゾン情報システムズはトラディショナルなSI案件に加え、クラウドやIoTといった新しい技術にも適用できるバイモーダルなインテグレーターへ成長。2019年からはセゾン情報システムズの大株主であるクレディセゾンの専務CTO兼CIOとなり、事業会社のDX化を推進する立場になっている。
クレディセゾンはクレジットカード事業を中心に、ファイナンス、不動産、リースなどを手がけるいわゆるノンバンク。顧客数は3500万人で、クレジットカードの連結取扱額は7兆円を超える。こうした巨大な事業会社のDX化を、シリコンバレー的気風を持つベンチャー出身の小野氏がどのように進めていくか? 小野氏は前提となるDX戦略から説明する。
事業部門出身のデジタル人材を既存の社員とのコミュニケーションパイプに
クレディセゾンが発表したDX戦略「CSDX」は、「デジタルが前に出すぎ」という小野氏の思考から導き出されたもので、大きく顧客の感動体験を創出するCX(Customer Experience)とともに、社員の体験を転換するEX(Employee Experience)を重視する。「社員に心地よく仕事できる、より間違えない、手間が簡略化できたという体験をしてもらうことで、CSに寄与できることも大きい」と小野氏は指摘する。
そんなクレディセゾンのCSDXでは、このCXとEXを実現すべく、事業創出、事業共創、デジタル開発プロセス、デジタル基盤強化、デジタル人材という5つの施策を相互に連携させる。このうちユニークなのが内製化を前提としたデジタル開発プロセスで、事業部門のニーズを汲んでIT部門が作るのではなく、事業部門とIT部門が共同開発していく。「仲間として業務で使うシステムをいっしょに考えるという独特なやり方をやっています」(小野氏)。
注力しているのはデジタル人材の育成で、エンジニアの育成や採用のみならず、事業部の人材育成も強化しているのが特徴だ。「72年の社歴がある中で、今までの事業を作り上げてくれた社員たちがいます。そんな人たちに、『最近デジタル、デジタルって言う人がウェイウェイやっているよね』と言われるのはよくない」と小野氏は指摘する。
そこで同社ではデジタル人材をレイヤー化。アプリ開発やサーバー構築が可能なエンジニア、サイバーセキュリティ専門家、デザイナー、データサイエンティストなどの人材を「コアデジタル人材」として育成・採用するだけでなく、社内公募で事業に精通したメンバーを募集し、ゼロからデジタルスキルを磨くビジネスデジタル人材を育成している。
「この人たちはいろいろな事業部のリアルを知っている。この人たちがデジタルスキルを得ることで、本当にお客さまに喜ばれるシステムを作れるし、既存の社員とのコミュニケーションパイプにもなってくれる」と小野氏は指摘する。4500人規模のクレディセゾンで、現在デジタル人材は150人程度だが、これを2024年度には1000人まで増やしていくという。
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