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第43回NEDOピッチ「医療・ヘルステック ver.」レポート

ワクチンだけじゃない 世界を救う医療技術を開発するスタートアップ4社

2022年03月30日 11時00分更新

重症患者診療の質改善と医療リソースの適正利用をAIの活用で実現する
株式会社CROSS SYNC

 コロナ禍では非常に多くの患者がICU(集中治療室)での治療を強いられた。その結果、ICU専門医の不足という課題が顕在化したが、現時点でも国内の約70%のICUが専門医の専従無しで運営されている。この課題はもはや従来の人海戦術では解決することができないと考え、IT技術を用いて解決しようというのが株式会社CROSS SYNCの重症患者管理アプリケーション「iBSEN」だ。

株式会社CROSSSYNC 最高戦略責任者 CSO 南部 雄磨氏

 ICUを取り巻く環境で解決すべき課題は多い。1つは情報共有で、ICU内ではスマホなどのIT機器を用いた医師や看護師間の情報共有は行われておらず、旧態依然の紙・ホワイトボードなどによる情報共有が一般的となっている。これは医療事故の主要な起因の1つとなっている。

 2つ目の課題は患者トリアージ(即時対応を必要とする患者の同定)の困難さが挙げられる。既存の医療機器はテクニカルアラートが多く、現場はその対応で疲弊している。さらにコロナ病棟では対面による患者観察が制限されているため、通常の3倍のインシデントが発生している。このようなレガシーかつ信頼性の低い患者トリアージシステムのために、ICUでの高品質で高密度な患者ケアができていないのが現状となっている。

 iBSENはこのような状況を解決すべく、遠隔地で複数患者の様々な情報をリアルタイムモニタリングできるシステムとしてCROSS SYNC社が開発を進めている。複数メーカーの生体情報モニターからリアルタイムに情報を収集し、今後は患者の重症度スコアの計測補助機能の提供を目指している。将来的には、現在研究開発を進めるAI技術を用いてバイタルサインや患者映像情報を時系列解析することで、患者の急変リスクを予測できるようにし、医療従事者の意思決定をアシストする世界を実現していく。

 iBSENの核となる技術はAIによる患者重症度判定技術にあり、これは横浜市立大学附属病院内のリアルデータを活用した研究開発によるものだ。また、医療現場にある様々な機器との連携を深めることにより、ICUだけでなく急性期の一般病棟や遠隔医療においてもiBSENによる重症患者管理の手が届くようにすることを目指している。

 すでに開発現場である横浜市立大学附属病院以外の病院においても、iBSENシステムの導入に向けた協議を進めており、来年以降さらに拡販を進めていく予定となっている。また、MicrosoftやNVIDIAなどのアクセラレータプログラムにも採択されるなど、海外進出に向けての戦略も着々と実現しつつある。CROSS SYNC社が掲げるICU Anywhereというビジョンの実現はもう手の届くところまで来ている、そんな印象を受けたピッチだった。

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