週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

コロナ渦での変化の機運を見逃さず、紙から一気にデジタルへ

ペーパーレス化の過程で内製化へ舵を切る 日清食品のDX戦略

2021年10月25日 09時00分更新

飢餓の時代から飽食の時代へ テクノロジーパートナーと手を組む新規事業

 こうした労働生産性の向上とともに、中長期成長戦略の一環として新規事業の推進にも取り組んでいる。

 昨今、食品メーカーを取り巻く市場環境や課題は大きく変化している。同社が創業した1958年は、終戦直後の飢餓の時代。食料品が不足していた中、誰もが手軽に手に入れられる食べ物として、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を開発した経緯がある。しかし、そこから半世紀以上を経た現在は、飽食の時代。オーバーカロリーや隠れ栄養失調といった健康問題、食料ロスや廃棄物といった環境問題が企業にとっての重要課題となっている。

 こうした課題の中でも、人への負荷、人の健康に関わる課題に対応すべくスタートしているのが、「好きなものを好きな時に好きなだけ食べても大丈夫な世界をつくりたい」というゴールに向けた「未来の食」だ。

 手がけているのは塩や油、カロリーを控えても美味しく、かつ、必要な栄養素をバランスよく摂取できる「おいしい完全栄養食」の開発。これまで即席麺の開発で培ってきた技術やノウハウを総動員しつつ、学術機関との連携も進めて、ウェルビーイングにつながる「完全栄養食」の開発を進めていく。また、完全栄養食のメニュー開発に加え、宅配事業や社員食堂、シニア向けプログラムの展開など、さまざまなタッチポイントでの事業展開も準備している。

 こうした新規事業ではテックパートナーとの連携も大きな役割を果たしている。たとえば、5月に発表されたのは、AIベンチャーとして名高いPreferred Networksとの提携で、食と健康状態の解析モデル、AIアルゴリズムに関する共同開発を進めている、また、両備ホールディングスとの提携では、「おいしい完全栄養食」を「未病対策の街づくり」に活かすべく、岡山で実証実験を始めるというもの。さらに、必要な量の盛り付けが重要になる完全栄養食の調理から提供までを自動化する「スマートキッチン」の実現を目指して、調理ロボットの開発を手がけるTechMagic社にも出資した。

 今後、営業利益の5~10%を投資して「おいしい完全栄養食」というコンセプトを世界に普及させ、2025年以降はパーソナルヘルスレコード(PHR)の分析やアルゴリズムの深化を進め、2030年にはパーソナライズされた完全栄養食の一般化を目指すという。「新しいビジネスを立ち上げる重要な時期だが、今後、IT部門としても貢献度を高めていきたい」と成田氏は語る。

未来の食の成長ロードマップと投資方針

経営陣・事業部門・IT部門の潤滑油に

 NBXにおける「効率化による労働生産性の向上」と「ビジネスモデル自体の変革」という両輪をドライブすべく、成田氏がこれから手がけるのはデータ連携基盤の構築だ。「紙とハンコとともに気になったのが、社内のシステム同士がつながっていないという点。各部門でExcelやBIツールをバラバラに使っているため、データが連携していませんでした」(成田氏)。

 今後は、組織・人事データなど各システムで共通して利用されるデータを自動かつリアルタイムで連携する仕組み、各システムのデータを一元的に集約しBIツール等による可視化・分析を可能にする基盤を構築し、将来的には機械学習でインサイトを得られるようにしていく。現在は、連携基盤を構築するためのプラットフォーム選定を進めつつ、各部門とどのように活用していくかをディスカッションしているところ。データやAIを積極的に用いることで、勘と経験に頼っていた営業活動や生産計画、生産現場をデータドリブンへシフトしていく予定だ。

 最後、IT部門としてDXにどう関わっていくべきかを聞いたところ、成田氏は、「DXは経営と事業部門、IT部門が連携して進めるべきで、どこかが主管するものでもない。でも、経営の確固たる意思は必要だし、課題設定と解決の主体は事業部門が担う必要がある。こうした中、CIOやIT部門は会社全体の潤滑油になるべきだと思う」と持論を述べる。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう