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IACの「Chiline TR-X」

MEMSスピーカーを採用した完全ワイヤレスイヤホンが2022年3月に登場

2021年10月18日 13時00分更新

 前回、Faunaオーディオグラスの発音体として紹介した新時代のドライバー「MEMSスピーカー」だが、完全ワイヤレスイヤホンの次世代ドライバーとしての可能性も模索されている。

 MEMSスピーカーは従来のダイナミック型ドライバー、バランスド・アーマチュア型ドライバーなどに次ぐ新しいドライバーとして捉えることができる。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とは、さまざまな機能をシリコンチップに集積したものだが、SoC(System on Chip)のようにデジタル回路だけではなく、物理的に動く部分を集積している点が特徴だ。MEMSスピーカーは圧電素子によって空気振動を起こす「シリコンドライバー」とも言える。

 Faunaオーディオグラスは中高域にMEMSスピーカーが使われ、低域は従来のダイナミック型ドライバーが採用する「ハイブリッド形式」で設計されていた。これは低域の出にくさをカバーするためのようだ。

 さて、超小型で省電力なMEMEスピーカーの特徴を生かせる分野は完全ワイヤレスイヤホンだ。ハウジングの容積に制限のある完全ワイヤレスイヤホンには福音となるだろう。

 FaunaのオーディオグラスにMEMSスピーカーを提供しているUSound社もこの点に着目して完全ワイヤレスイヤホンの応用例を示している。下図のように従来型ドライバーと比べた場合には比較にならないほど小型化できる。USound社は完全ワイヤレスイヤホンの製品化へ向けて提携先などを探しているようだ。

USoundによる従来ドライバーとMEMSスピーカーの比較。ドライバーの奥行きが大きく削減できる。

 一方で先週、世界初をうたう完全ワイヤレスイヤホンの製品化が発表された。スタートアップ企業のxMEMS社が台湾TSMCと共同で「Montara」というMEMSスピーカーを開発し、それがInventec Appliances Corp(IAC)社の「Chiline TR-X」という完全ワイヤレスイヤホンで採用されるのだ。Chiline TR-Xは2022年3月の発売を予定している。

xMEMSが開発したMEMSスピーカー「Montara」の写真(同社ウェブサイトより)

 Montaraは振動部も駆動回路もシリコンで出来ている。能率も高く再生周波数帯域は20Hzから20kHzということだ。チップ自体がIP58相当の防水仕様であるため、汗などにも強い。また、製造公差(精度などのバラツキ)が従来型ドライバーよりも大幅に小さいので、ドライバーのマッチングを取る際にも有利だ。左右の位相が揃った再生ができれば、立体感の向上といったメリットとして現れるのではないだろうか。低電力特性は再生可能時間を引き上げるだろう。こうしたMEMSスピーカーの特徴は、完全ワイヤレスイヤホンの設計を大きく変えるだろうし、完全ワイヤレスイヤホンを新たなステージに到達させるだろうと期待できる。

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