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新進ピアニスト、ヤン・リシエツキのショパン快演や竜とそばかすの姫など、麻倉怜士ハイレゾ推薦盤

2021年09月18日 18時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『Chopin: Complete Nocturnes』
Jan Lisiecki

特選

 ヤン・リシエツキ(JAN LISIECKI)は1995年、カナダのカルガリーでポーランド人の両親のもとに誕生、わずか9歳でオーケストラ・デビューしたという逸話の持ち主。以後、世界各地の有名オーケストラとの共演、室内楽、リサイタル活動にて、主要なコンクール入賞履歴なしに、いまや世界的なスターピアニストになった。

 本欄でも多くのハイレゾ作品を紹介している。そのひとつ、アントニオ・パッパーノ指揮のサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団と協演したシューマン:ピアノ協奏曲イ短調は軽妙、明瞭、歯切れが鮮鋭だった。感情と元気が横溢した若若しい表現であった。

 本ショパンも「あふれるリリシズム。 ショパンの孤高の魂を奏でる、リシエツキのノクターン!」とメーカー資料にあるように、刮目だ。これほど感情豊かで、ニュアンス豊か、心に突き刺さるようなノクターンが聴けるとは。悠然としたテンポにて、音符のひとつひとつ、些細なアーティキュレーションに魂が籠もり、ロマンの香りがリスニングルーム全体に拡散する。それは、ヤン・リシエツキのピアニズムに加え、響きの美しさを持つピアノ音も大きく効いている。かなりホールトーンを潤沢に取り込んでいる。直接音に比べると明らかに間接音が多いが、でも、トータルの美しさは格別だ。ショパンの世界観にふさわしい美的な響きといえよう。2020年10月、ベルリン、マイスターザールでセッション録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Deustche Grammophon(DG)、e-onkyo music

Somewhere Different EXPLICIT』
Brandee Younger

特選

 ドーシー・アシュビー、アリス・コルトレーンなどレアなジャズ・ハーピストの系譜につながるブランディー・ヤンガーのデビュー作だ。R&B、ロック、クラシック、ヒップホップ、そしてファンクをブレンドさせた独自の世界観が魅力だ。

 「1.Reclamation」は、ハープソロから始まり、サックスが加わり、リズム隊がハードな拍を繰り出す。でも、あらゆる場面にハープが鳴り、グリッサンドの時も、アルペジオの時も、また旋律の時も、その音色が加わるだけで、いくらリズムがハードでも、ハイテンションであっても、優しい雰囲気になるのが不思議。ハープにかなりの量のリバーブが与えられている(他の楽器は直接音主体)から、どんなフレーズでも、ファンタジックなフィーリングになる。収録曲のいくつかは、ルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオでセッション録音された。

FLAC:44.1kHz/24bit、MQA:44.1kHz/24bit
Impulse!、e-onkyo music

Elgar-Britten-Warlock-Jenkins: Very British』
Metamorphosen Berlin、Wolfgang Emanuel Schmidt

特選

 ベルリンの室内オーケストラ、メタモルフォーゼン・ベルリンがエルガー、ブリテン、ウォーロック、カール・ジェンキンスというイギリスの作曲家の弦楽作品に挑んだアルバム。タイトルが凄い。『Elgar-Britten-Warlock-Jenkins: Very British』---つまり「めちゃイギリス」だ。同タイトルのCDは12曲収録だから、23曲もあるハイレゾ版の方が断然、お得。

 素晴らしい演奏と録音だ。細部までクリヤーに照射され、感情の抑揚が大きい。エルガーの「2.弦楽のためのセレナード」第2楽章の振幅のダイナミックさ、感情の堆積感、第3楽章の語り口の上手さ、 「4.ヴァイオリンとピアノのためのロマンス」のロマンティックな抑揚感、歌いの深さ、「5.愛の挨拶」のチェロの歌いの愛情感……と、思いと気持ちを込めた歌い回しが感動的だ。

 エルガー作品は徹底的にロマンティックだが、一方、ブリテンの「13.シンプル・シンフォニー」第1楽章は古典的にすっきりと仕上げている。録音は極上。弦の質感がとてもリアルで、音場も深い。これほど音が良いのなら、なぜ96kHzや192kHzで出さないのか、不思議だ。2020年3月8日、4月12-14日、6月24日、ベルリンのテルデックス・スタジオでセッション録音。

FLAC:48kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

The Complete Live At The Lighthouse』
Lee Morgan

推薦

 「The Sidewinder」で有名な伝説のトランペッター、リー・モーガン ( Edward Lee Morgan, 1938年-1972年)が1970年7月10日~12日の3日間にカリフォルニアのライトハウスでのライヴ収録した『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』を、当日の全セットリストのコンプリート化が、50年の時を経てなった。オリジナルは2枚組LPで、1996年には追加曲を収録した3枚組CDでリリースされた。今回は4時間以上の未発表音源(18トラック)を加え、全47トラック。

 「1.Introduction By Lee Morgan」のリー・モーガンのMCから始まる。パーソネルの紹介、音場にはアンビエントノイズもあり、臨場感たっぷりだ。ハードバップのスターならではのハイテンションでファンキーなパワーが横溢する。「2、The Beehive」は、楽器の直接音がダイレクトに迫る。フューチャー楽器は、センターに大きな、そしてパワフルな音像を持つ。有名な「15.The Sidewinder」はブルースコードが疾走、リズムが躍動し、トランペットのハイスピードな直接音がスピーカーから炸裂する。50年以上前の録音だが、最新リマスタリングによって、生々しく甦った。トランペットの強烈な突き抜け感、ベニー・モウピン(ts, fl, bcl) のすばしっこさ、ねちっこさが生々しい。1970年7月10日~12日、カリフォルニア州ハモサビーチのザ・ライトハウスでライブ録音。

FLAC:192kHz/24bit、MQA:192kHz/24bit
CM BLUE NOTE(A92)、e-onkyo music

Bruckner: Symphony No. 4 "Romantic"』
Paavo Jarvi、Frankfurt Radio Symphony

推薦

 パーヴォ・ヤルヴィはブルックナー:第4交響曲について、こう語っている。「演奏にあたっては、いわゆる因習的なアプローチから距離を置くようしました。よくありがちな、重厚で物々しい、ことさらに宗教的を装ったような解釈は避けています。この録音でも実演の場でも、複数の版から細部を取捨選択する形で組み合わせています。私なりに第4交響曲の最良の形を追求する試みとして」。

 曖昧さを排し、ひじょうに明瞭に細部まで細かに照明を当て、パートごとに輪郭を明確に与えるのがヤルヴィの技。だから、決してマッシブな響きのままではなく、その中にも、複数のパートの存在を明確に示し、確実な進行感にて、時間軸をしっかりと立て、節目を付けて進行する。全曲は約63分という快速演奏。大時代的、巨匠的な重苦しいブルックナーを脱し構造的、微分的で、高解像な快速ブルックナーだ。ピリオドスタイルがいよいよ後期ロマン派まで及んできたかという印象だ。2009年9月3日&4日、フランクフルト、アルテ・オーパーでライヴ録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

Songs From My Father』
Gerry Gibbs

推薦

 アメリカのドラマー、ジェリー・ギブス13枚目のリーダー作。チック・コリア、ロン・カーター、クリスチャン・マクブライド、ケニー・バロンという名手との協演だ。本アルバムはビブラフォン奏者の父親、テリー・ギブスへ捧げられ、彼の楽曲18曲が演奏されている。チック・コリアが本作のために2020年に作曲したオリジナル楽曲「19.Tango for Terry」を、チック・コリア自身が参加して演奏しているのも話題。 

 ひじょうに明確なサウンドだ。ドラムス、ピアノ、ベースのトリオの3つの楽器の音が、いずれもたいへん明瞭に捉えられている。3つの楽器がセンターに定位し、おのおのエネルギー全開にて強く主張する様子は爽快だ。特にドラムスのスネア、タム、バスなどの構成要素のキレ味が鮮明で、輪郭に力が集中している。

FLAC:96kHz/24bit
Whaling City Sound、e-onkyo music

プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」組曲、ピアソラ:シンフォニア・ブエノスアイレス(日本初演) (96kHz/24bit)』
アンドレア・バッティストーニ、東京フィルハーモニー交響楽団

推薦

 アンドレア・バッティストーニ/東京フィルハーモニー交響楽団のオリジナル制作は、ここしばらくはセッション録音が続いていたが、今回は約4年ぶりのライヴ録音だ。ピアソラの日本初演「シンフォニア・ブエノスアイレス」とプロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』組曲という意欲的なカプリング。

 燃える演奏、燃える音。ライブならではの燃焼度の高さと、それを確実に定着させた録音も見事だ。バッティストーニの持つスコアへの徹底的な分析力と、その指示に見事に応える東フィルの演奏力も素晴らしい。ライブ的なソノリティの豊かさと、細部までの高解像度な目配りの確かさが両立している。「1.シンフォニア・ブエノスアイレス 」の猥雑さと音の重層感も聴きどころ。2021年5月16日 Bunkamuraオーチャードホールでのライヴ録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
DENON、e-onkyo music

新ウィーン楽派管弦楽作品集』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ヘルベルト・フォン・カラヤン

推薦

 カラヤンが私財を投入して録音した「新ウィーン楽派管弦楽作品集」は、1974年に発売され大ヒットを記録した歴史的名盤だ。今回、DSDマスタリングにて、ハイレゾ初登場。実に耽美的な新ウィーン楽派である。無機的、機械的、非自然的な楽曲であっても、そこに最大限の感情を込め、美を見出すのがカラヤン。つまらない、時間の無駄と形容されることの多い、この時期の音楽を、実にエンターテイメントに心地好く、感動的に聴かせるカラヤンの技に脱帽だ。

 「41.ウェーベルン:管弦楽のための6つの小品 作品6」の弦の高弦の歌い、ホルンの柔らかな響き、煌びやかなトランペット……カラヤンならではの耽美追究の成果が堪能できる。12音音楽の代表「48.ウェーベルン:交響曲 作品21」では、各楽器の単音の連続部の無機的な表情と合奏部分のコケティッシュな愉快さとの対照が印象的だ。音質も素晴らしい。イエス・キリスト教会の豊潤なソノリティに乗って、しなやかで質感の高い、いかにもDSDらしい艶艶とした音色が、まさにカラヤンの意図に沿う。1972~1974年、ベルリンのイエス・キリスト教会で録音。。オリジナル・マスターから独Emil Berliner Studiosで2021年に制作したDSDマスター。

DSF:2.8MHz/1bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

「竜とそばかすの姫」オリジナル・サウンドトラック』
Various Artists

推薦

 大ヒット映画「竜とそばかすの姫」のオリジナル・サウンドトラック。挾間美帆、坂東祐大、中村佳穂、細田守、森山良子、中尾幸世、坂本冬美、岩崎良美、清水ミチコ……など映画音楽の枠を超える多数の才能が結集している。30もの収録曲から2曲を聴く。編成が大きな曲が多いが、音調は素直だ。

 テーマ曲は中村佳穂が歌う「26. はなればなれの君へ」。幻想的な雰囲気を背景にしたフラットで伸びの良いヴォーカルが、心地好い。reprise30.の同曲は、しっとりとした味わい。「10.Fama Destinata」も中村佳穂の歌だ。快適なリズムに乗りジャズギターとサックス、そして合唱隊がファンタスティックなサウンドを醸し出している。

FLAC:48kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

チャイコフスキー:交響曲 第3番「ポーランド」&第6番「悲愴」』
小林研一郎、日本フィルハーモニー交響楽団

推薦

 「炎のコバケン」小林研一郎の傘寿記念&作曲家チャイコフスキーの生誕180年を記念した「交響曲全曲チクルス」第3回目のライヴを収録したアルバムだ。EXTON録音はホールのパースペクティブと直接音のバランスが絶妙。眼前の体験感として、ホール前方の席にて、実際に演奏を体感しているような臨場感が、2つのスピーカーからでも味わえるのが、その美質だ。

 コバケンの熱きチャイコフスキーはDSD録音にて、ダイレクトに聴き手に熱く伝わる。ホール収録でのアンビエント再生でDSDは抜群の表現力を聴かせるが、それは本録音も例外ではない。コバケンの熱さのハイエネルギーが空気を媒介して聴き手に伝わるのがDSDの力だ。演奏の生々しさがリアルに伝わる。2021年6月6日、東京芸術劇場にてライヴ録音。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music

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