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デジタル庁発足、デジタル敗戦の状況に取り組むが課題も山積

2021年09月06日 09時00分更新

今回のことば

「我々の存在理由は、誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化。いまこそ、デジタルを国民のために、社会に実装して、次の時代の新しい未来像を引き寄せていく仕事をしなくてはいけない」

(デジタル庁の平井卓也大臣)

デジタル庁が9月に発足

 2021年9月1日、デジタル庁がスタートした。

 トップに首相を置き、初代デジタル庁の大臣には、昨年9月にデジタル改革担当大臣に就任し、デジタル庁創設の準備を進めてきた平井卓也氏が就いた。また、デジタル監には、一橋大学名誉教授の石倉洋子氏が就任した。約600人体制でスタートし、そのうち約200人が民間からの採用だ。

発足式に参加した菅首相

 ミッションには、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を」を掲げ、一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造することを標榜。ビジョンには、国や地方公共団体、民間事業者、その他あらゆる関係者を巻き込みながら有機的に連携し、ユーザーの体験価値を最大化するサービスを提供する「Government as a Service」と、高い志を抱く官民の人材が、互いの信頼のもと協働し、多くの挑戦から学ぶことで、大胆かつスピーディーに社会全体のデジタル改革を主導する「Government as a Startup」を打ち出した。

 また、デジタル庁発足を前に、8月27日には、コンプライアンス委員会を設置。今後取り組んでいくデジタル化のプロセスを透明化する姿勢も示しているほか、民間からの採用者には、出向元や兼業先の企業に対する利益相反行為に関わらないことを記した誓約書にサインをしている。

日本の問題解決に取り組む

 9月1日に行われたデジタル庁発足式は、多くの職員がリモートで出席。菅首相は、「新型コロナ感染症への対応のなか、行政サービスや民間におけるデジタル化の遅れが浮き彫りになった。思い切ってデジタル化を進めなければ、日本を変えることはできない。そして、これを強力にリードする司令塔が必要である。こうした思いで、デジタル庁の創設を決断した」とし、「行政サービスの電子化の遅れ、バラバラな国と自治体のシステム、マイナンバーカードの利便性の問題など、長年、手がつけられず、先送りにされてきた課題が沢山ある。デジタル庁には、政府関係者に加え、民間で様々な経験をした人が数多くいる。立場を超えた自由な発想で、スピード感をもちながら、行政のみならず、我が国全体を作り変えるくらいの気持ちで、知恵を絞ってほしい」と述べ、「誰もがデジタル化の恩恵を受けることができる、世界に遜色ないデジタル社会を実現する」と宣言した。仮に、首相が代わってもこの姿勢は変わることがないといえよう。

 また、平井大臣は、「今日からいよいよデジタル庁がスタートする。責任の重さに、改めて身が引き締まる思いである。立ち上げるまでのスピード、スピード&スピードは、これからも続く。デジタル化によって、豊かで選択肢の多い、誰一人取り残さない社会を作っていかなくてはいけない」とする一方、「時代の変化のスピードが速いなかで、日本はデジタル面で相当遅れた。首相の『日本を変えるくらいのつもりで取り組め』という言葉の通り、いまこそ、デジタルを国民のために、社会に実装して、次の時代の新しい未来像を引き寄せていく仕事をしなくてはいけない」とした。

 さらに、「デジタル庁がこれから取り組む仕事は、お手本があるわけではない。自ら作らなくてはいけない。スタートアップ企業のように、失敗に学び、多くの人々と交流するなかで新しいやり方を探して、国民に素晴らしい品質のサービスを、スピード感とコスト意識を持って届けていくことになる。多くの皆さんの協力がなければ、デジタル庁の仕事は実現できない。皆さんの手でデジタル庁を育ててほしい」と、職員に呼び掛けた。

デジタル庁発足式での平井大臣と石倉デジタル監

 一方、デジタル監の石倉洋子氏は、「デジタルというのは、色々な境界を越えることがポイント。デジタルによって国境や距離、組織の境界、年代の境界を越えられると思っている。デジタル庁が、色々な意味での境界を越えていくように仕事をしていければと思う」とコメント。「問題があるというだけではなく、どうすれば解決できるかが重要。解決に向けたアイデアをいろいろ出して、どんどん実践して、スピード感をもって繰り返していくことが鍵になる。日本は、『デジタルではパッとしない』と言われてきたが、デジタル庁という新しい組織で、新しいやり方をしていくことを世界にアピールしたい」と、実行力を重視する姿勢を示した。

デジタル敗戦の状況をどう打開するか

 デジタル庁では、「行政のデジタル化」、「医療・教育・防災をはじめ、産業社会全体にわたるデジタル化」、「誰もが恩恵を享受できるデジタル化」を、3つの柱に掲げる。

 「行政のデジタル化」では、スマホひとつで、役所に行かずに、あらゆる手続きがオンラインでできる社会を作るため、システムの統一や標準化、デジタル化の基盤となるマイナンバーカードの普及などを推進する。

 「医療・教育・防災をはじめ、産業社会全体にわたるデジタル化」では、オンライン医療やオンライン教育を実現し、日々の暮らしを便利に変えるとともに、ベースレジストリを社会で広く共有。新しい雇用や投資を生み出すことで、豊かに成長する経済社会を作るという。

 そして、「誰もが恩恵を享受できるデジタル化」では、年齢や地域、経済状況などによらず、すべての国民が情報にアクセスでき、デジタル化の恩恵を享受できるようにすることを目指す。

デジタル庁の組織図

 平井大臣は、「デジタルによって人助けをする。それが我が国の進めるデジタルの本質であり、私は、その日本流のデジタル化を、武士道になぞらえ『デジ道』と呼んでいる。徹底的な国民目線でのサービス創出やデータ資源の利活用、社会全体のDXの推進を通じ、すべての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現する。職員一人ひとりが、デジタル庁のミッション、ビジョンを常に意識しながら、『デジ道』に忠実に、課題解決に取り組んでいく。デジタルが日本の成長戦略の柱になることを目指す」とする。

 だが、課題は山積だ。

 IT政策に深く関わってきた平井大臣は、日本が置かれた状況を「デジタル敗戦」と呼んできた。スタートポイントは、世界的に見てもかなり後方だ。

 平井大臣も、「世界のデジタルランキングでは、27位に低迷している。アジアでは9位であり、すぐ下がカザフスタンである。これでは国民が納得しない。巻き返す余地は大きいともいえるが、なんとしても脱していかないといけない」と語る。

緊急下で浮き彫りとなったデジタル化の遅れ

 日本では、この1年半の間にも、デジタルのお粗末ぶりが露呈している。

 国民1人あたりに10万円が給付された特別定額給付金や、各種給付金の手続きは、デジタルが整備されていないため遅れが生じたり、現場では用意されたシステムに頼らず、手作業で処理をしたりといったことがあちこちで発生した。

 新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」には不具合が発生し、しかもそれが放置されたままだった。「ワクチン接種記録システム(VRS)」への登録では、政府が配布したタブレットでは、ワクチン接種券のバーコードが読み取りにくく医療現場が混乱したり、ワクチン接種の予約では、デジタルに不慣れな高齢者にはスマホやPCを使わせ、スマホに慣れた若者には接種会場前に、紙の整理券を配布するために行列を作らせるというチグハグさも見られた。

 デジタル庁では、「未来志向のDXを大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを、今後5年で一気呵成に作り上げることを目指す」としている。5年という時限を設けたことは評価できるが、現時点では、そのゴールはなにかといったことが詳細にはなっていないのが現状だ。

 そして、政府の情報システム予算である8000億円のうち、5000億円が維持コスト、3000億円がシステム改修に伴う開発であり、現状維持が中心になっている体制も大きく変えなくてはならない。

 平井大臣は、「縦割りを前提とした、いままでのシステム投資では全体最適化が不可能であった。いざというときに情報連携ができず、国民サービスができないという状況が生まれていた。また、費用対コストという考え方から、投資対コストという考え方に変えなくてはならない。そのためにクラウド環境の採用、新たな技術の採用、使い勝手のいいUI/UXを作ることが、デジタル庁の挑戦である。新たな価値を作れる環境に早く持っていきたい」とし、「いままでの当たり前を当たり前にしない。いまのままでは駄目だと考え、現状を否定し、改革をしていく意識に変えていくことが必要である。ただ、この危機感が共有されていない。デジタルは手段であって、目的ではない。システムの話だけでなく、業務改革の目標を明確にし、あらゆる政策判断において、デジタルを意識してもらうことが大切である。いまは、デジタル化の話を除いて、政策を進めることはできない時代である。デジタルを前提にすべてを設計していく必要がある」とする。

 そして、「まずは、なぜデジタル庁が必要なのかを国民に理解してもらい、そこで、なにが必要なのかということを国民と共有したい」とする。

最後のタイミングという危機感

 平井大臣には「最後のタイミング」という危機感がある。

 「グローバルで活躍している人に共通した意見は、今回のタイミングは逃したら、日本はデジタル化で周回遅れのままになり、今後、日本のデジタル化は進められないと思っている点。民間から参加してくれた人たちは、そこに危機感を感じ、自分たちで日本をなんとかしなくてはならないと思っている。その点は頼もしい」とする。

 後方の位置からスタートした日本のデジタル政略は、5年後に先頭集団でゴールを切ることができるのか。待ったなしのレースの号砲が鳴った。

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