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自動運転の基礎 その31

ホンダと楽天による 自動配送ロボットの実証実験はなぜ行なわれたのか

2021年08月20日 10時00分更新

 この夏(2021年)の7月19日~8月31日の期間、ホンダと楽天は、国立筑波大学の構内および一部公道において、自動配送ロボットの走行実証実験を行なっている。

 実証実験内の役割分担は、ホンダが自動配送ロボット、楽天が商品配達用ボックスと配送サービスというもの。ちなみに楽天は、2021年3月にパナソニック製の自動配送ロボットを使った実証実験を神奈川県横須賀市において実施している。そのときのサービスは「スマートフォンで注文」「自動配送ロボットが顧客の家の前まで走行」「自動音声による電話で通知」「顧客が暗証番号を入力して、自動配送ロボットのボックスを開けて、荷を受け取る」という流れになっていた。

 今回は車両がホンダ製で、場所を筑波大学に変えての実施と言える。また、今回のサービスの具体的な流れが発表されていないところから、その手法も実証実験のひとつになっているのだろう。

ホンダと楽天の自動配送ロボット

 では、これまで他社製の自動配送ロボットを使っていた楽天が、なぜホンダと組んだのだろうか。その経緯や、ホンダが自動配送ロボットの開発を行う狙いなどを広報経由でホンダの開発担当者にたずねてみた。

なぜホンダと楽天が手を組んだのか?

 まず、ホンダと楽天が組んだ経緯について質問すると、以下の回答が戻ってきた。

 「2018年のCESで本田技術研究所が発表した自動配送ロボットの構想に対して、楽天様から問い合わせをいただいたのが議論のきっかけになっています。また、両社は経産省が主催する“自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会”に参加しており、ロボットの社会実装に向けた規制緩和、法規の整備に貢献していく、というスタンスも一致しています。両社の強みを活かして実証実験を進めることが、このスタンスに合致するとの共通認識となり、2020年9月にNEDOの“自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業”に共同で提案をしました」

CESでのデモンストレーションの様子

 説明にある通り、今回の実証実験はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による支援を受けたものでもある。また、説明にある「2018年のCES」で、ホンダはいくつかのロボットを発表しており、その中に、走行機能を備えるプラットフォーム型ロボットがあった。そして着脱可能な可搬式バッテリー「ホンダ・モバイル・パワー・パック」も、同じCESで発表されており、その技術も、今回の楽天との共同実証実験のロボットに採用されている。つまり今回、ホンダの自動配送ロボットは、2018年のCESで発表された技術の延長にあるものと言える。

CESで発表されたロボット(撮影:筆者)

 ホンダのロボットは、全体のサイズが全長1240×全幅700×全高1140㎜。車輪を備えた車体の上に、高さ408×幅614×奥行650㎜の配送ボックスを載せている。配送ボックスは約20リットルの部屋が4つあり、容量は合計約80リットル。今回の実証実験では4㎞/hで走行するという。バッテリーは交換式の「ホンダ・モバイル・パワーパック」だ。

 自動走行に関しては、カメラ、LiDAR、GNSS(全球測位衛星システム)などのセンサーを活用し、自己位置推定、経路生成、障害物検知、行動を処理しているという。どうやら路面にルートを教えるセンサーを埋め込むような簡単な方法ではなく、車両が考えて走行する、いわゆる自動運転レベル4のロボットカーと呼べる内容のようだ。

今回の実証実験における狙い

 続いて、今回の実証実験での課題は何かと聞いてみた。

 「実際のフィールドでの安全性と利便性(事業性)の検証が、今回の大きな目的です。自律作業ロボットに求められる価値のひとつに、労働力不足へのソリューションがあります。今回、フィジビリティスタディ(実行可能性の調査)を行なっているフィールドは搬送としていますが、現時点では安全性を担保する手段として、1台のロボット作業(走行)に対して複数人での監視をしています。将来的には、一人の操作者が複数台のロボットを監視し、必要に応じて操作することを目指しています。そのための知見の獲得も今回のフィジビリティスタディの目的のひとつとなります。いかにして自律作業するロボットの安全性を担保するか、は今後も含めた課題となります」

実証実験の様子

 走行速度が4㎞/hと遅いとはいえ、高さが1mもある機械がぶつかれば、人もケガをしてしまう。壁やガラスに当たれば、器物を壊してしまう可能性もあるだろう。そうした危険を回避するために、実証実験では、複数人による監視が行なわれているという。しかし、監視をなくすことができないほど危なっかしくては、ビジネスに利用することは難しい。つまり、何よりも十分な安全性の確認が必要ということだ。

 では、こうした自動配送ロボットのビジネスに、ホンダはこれから邁進していくのだろうか? その将来への考えを聞いてみた。

 「今回の実証実験は、日本におけるロボティクスデバイスの社会実装に向けた第一歩になります。今後は、国や地域、業種を限定することなく、社会ニーズに応えるための取り組み(実証実験は、その一例)を進めていきたいと考えています。取り組みを通して得られる知見をもとに、社会受容性の醸成、法律・規制の整備などに協力することで、暮らしにおける新しいスタイル(様式)の提案と、新しい“役立ち”と“喜び”の形を提供していきたいと考えています」

 つまりは、自走配送ロボットに限定せずに、社会へ向けて新たな価値提案をしてゆきたいというわけだ。生活に役立つ、これまでにない新たなホンダのプロダクトが登場することを期待しよう。

■関連サイト

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
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