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わずか1msの低遅延、オーディオテクニカの楽器用ヘッドホンでゲームしてみた

2021年05月10日 13時00分更新

 ワイヤレスオーディオが取り組むべき課題のひとつに「低遅延化」がある。

 昔からあるキーワードのひとつではあるが、ゲーミング需要が増加したことで重要性が増してきた。遅延(レイテンシー)とは、本来ならすぐに応答しなければならないのに、計算処理や伝送処理によって結果の反映が実際より遅れてしまう状態を指す。オーディオにおける遅延では、再生指示を出してから音が実際に発せられるまでの時間などがある。

 遅延があると、映像と音声にズレが生じたり、ゲーム操作でボタンを押しても反応が遅れるといった問題が生じる。楽器演奏などもしにくい。ただし、映画においては、解決策がある。常に一定の遅延が発生し続けるため、映像と音声が0.2秒ずれることが分かっていれば、どちらかを0.2秒遅く再生すればいい。仮に出力が1秒後になったり、1分後になったりしても、映像と音声が同期していれば違和感はなくなる。だが、ゲームや楽器演奏ではそうはいかない。操作してすぐに反応を返さないといけないので、再生機器側の性能を上げて、なるべく遅延なく処理できるようにするといった対策を取らなければならない。

現在のBluetoothヘッドホンは楽器演奏にはちょっと使えないぐらいの遅延が発生する。

 このような課題に対して、Bluetoothでは低遅延モードやaptX LLなど処理時間が短いコーデック技術が開発され、遅延を減らす仕組みが普及しつつある。しかし、プラットフォームによるぱらつきなどもあり(複数の規格が存在し、対応する機器とそうでない機器が混在している)、まだまだ一般的とは言えない。

遅延はわずか1ms、ゲームの1フレームより短い

 オーディオテクニカが先日発表した楽器向けワイヤレスヘッドホンシステム「ATH-EP1000IR」は、赤外線通信によるユニークな方法で遅延の解決を目指した製品だ。

ATH-EP1000IR

 このシステムでは「0.001秒(1ms)以下」という驚異的な低遅延を謳っている。Bluetoothの場合、標準的なSBCコーデック使用時で「約0.2秒(220ms)」ほどの遅延あるとされ、低遅延をうたうaptX LLコーデックでも「約0.04秒(40ms)」である。つまり、EP1000IRはBluetoothとは比較できないほど遅延が少ないシステムなのだ。この値は、音楽制作のためのDAWシステムで要求される10~20ms、楽器で要求される数msよりも短い。ゲームでも、60fps=毎秒60コマとして計算すると、1フレームの書き換え時間は「約0.016秒(16ms)」ほどだ。1msという値は、それよりもずっと短い遅延時間である。

 興味を持ってオーディオテクニカに問い合わせたところ、低遅延の秘密は赤外線通信にあるという。電波を使わないことで、複雑な伝送処理によって発生する時差を最小限にしているとのこと。

 ただし、伝送処理をシンプルにすると、一般的にはデータが劣化しやすくなる。エラー訂正や再送の仕組みが省かれたり、複雑な圧縮/伸長の仕組みを採用できないので、限られた帯域で音切れなく信号をやり取りするために、情報自体を削る必要性が出てくるためだ。結果として、音質やS/N比といったオーディオ性能の悪化につながるが、ここはオーディオテクニカ独自の方式でカバーしているそうだ。

 つまり、伝送方式が電波か赤外線かはあまり問題ではない。それよりも赤外線を使いつつ、伝送が完了するまでのスループット(トータルの処理時間)を短く収めているのが、この方式の肝と言える。

 実機の貸出を受けられたので、この楽器向けのワイヤレスヘッドホンを実際に使ってみることにした。そもそも「iPadなどにも接続できるのか」「楽器向けのチューニングとはどういうものか」ということも含めて試してみた。

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