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「アスキー厳選ハードウェアスタートアップピッチ」レポート

渋滞をなくす都市型ロープウェイなど、新進気鋭のハードウェアピッチ

2021年10月04日 11時00分更新

 「IoT H/W BIZ DAY」とは、ASCII STARTUPが主催するハードウェアやIoT関連のビジネス支援・マッチングイベントだ。2016年の初開催以来、展示ブースと一日がかりのセッションを展開していたが、8回目の開催を迎える今回は、コロナ禍の状況で展示会は開催せず、SEMICON JAPANのオンラインイベントSEMICON Japan Virtual内で4つのセッションを配信した。

 本稿では、ASCII STARTUPが独自取材によって知りえた興味深いスタートアップ・ハードウェアベンチャー4社が自社製品をプレゼンする「アスキー厳選ハードウェアスタートアップピッチ」を紹介する。本セッションに登壇するのは、アルケリス株式会社 藤澤秀行 代表取締役 CEO、ストーリア株式会社 Penbeプロジェクトチーム 田谷圭司 ハードウェアエンジニア/代表、株式会社Pyrenee 三野龍太 代表取締役 CEO、Zip Infrastructure株式会社 須知高匡 代表取締役社長の4氏。自社で開発を進めるハードウェア製品に対する熱い思いを知ってほしい。

アルケリス株式会社 代表取締役 CEO 藤澤秀行氏

ストーリア株式会社 Penbeプロジェクトチーム ハードウェアエンジニア/代表 田谷圭司氏

株式会社Pyrenee 代表取締役 CEO 三野龍太氏

Zip Infrastructure株式会社 代表取締役社長 須知高匡氏

世界から立ち仕事のつらさをなくすアシストスーツ archelis

 深刻な人手不足や少子高齢化の進行により、歩行の支援や重労働の軽減などを担うアシストスーツ市場に期待が集まっている。その中で、アルケリス株式会社が開発・販売を行っているアシストスーツ archelisは、特に医療現場や工場などでの立ち仕事にフォーカスした製品だ。体重をスネとモモで支えることによって足腰の負担を軽減し、長時間の立ち仕事を容易にする。

 この製品には大きく3つの特徴がある。1つは装着したまま移動ができるという点。アシストスーツの中には、その重さや大きさのために、最初に装着した場所からの移動が困難または時間がかかる製品もある。しかしarchelisは装着したままでも通常の歩行とさほど変わらない移動が可能だ。

 2つ目の特徴は電源が不要であること。屋外では電源が容易に取れないことが少なくない。また大容量のバッテリーを搭載すると、それだけで自重が大きくなり、操作や移動に不都合が生じる場合がある。電源を必要としないarchelisならそのような心配は不要だ。

 3つ目の特徴には装着が容易で使用者1人による脱着が可能という点が挙げられている。これは重要な特徴で、装着に補助者が必要になると、それだけで使用にかかるコストが上がる。特に家庭での使用を考えると、できるかぎり使用者単独で脱着できることが望ましい。

 archelisの開発のきっかけは医療現場からの声だった。「医師の負担を軽減について研究している自治医大の川平 洋教授から、医師は5時間とか10時間立ったまま過酷な手術をしなくてはいけない、その負担を軽減できないかという話があった。」(藤澤氏)

 一方で、医療現場では機能にフォーカスが当たりすぎるきらいがあったが、archelisはデザイン性にもこだわった。藤澤氏によれば「人が身に着けるものなので、いかにかっこよく見えるか、着ける人が身に着けたいと思うデザインにしたかった。」とのことで、その結果、既に300以上の病院施設で実際の手術に使用されており、評判は上々のようだ。

 この製品の購入にあたっては試着体験が重要となるが、コロナ禍によって本イベントもオンライン化しているなど、展示会などで体験してもらうことが困難な状況となっている。そこでアルケリスではオンラインでの試着体験会を実施している。希望者は製品を送ってもらい、ウェブを通じたレクチャーを受けつつ装着体験ができる。購入を検討している方は是非問い合わせをして欲しい。

 また、立ち仕事のつらさを軽減することが目的となっているarchelisだが、一方で長時間の座り仕事も腰への負担が少なくない。それに対処するため、PC業務などを立った状態で行うスタンディングデスクなどが意外な人気となっている。そのような場合にもarchelisはマッチする。利用シーンはまだまだ拡がっていきそうだ。

勉強したくなる魔法のペン Penbe

 小学校などに通う子供たちは遊びたい盛りで、なかなか自発的・前向きに勉強するよう仕向けるのは難しいと頭を抱えている親御さんも少なくないだろう。子供たち自身、勉強の必要性におぼろげながら気が付いていても、それを実感するのは社会に出てからとなると、しかもスマホやゲーム機などの誘惑に負けてしまうのもやむを得ない。ストーリア株式会社が開発を進めているPenbeは、子供たちに前向きに学ぶ習慣をつけさせるために、学習過程を親が把握して褒める機会を作ることと、子供にとって勉強が必要な理由を作ることを目標としている。

 Penbeは、子供が使うシャープペンシルなどをIoT化するアタッチメントデバイスと、そこから得られたデータを可視化するスマホアプリの2つから構成されている。アタッチメントを取り付けたペンで文字を書くと、加速度センサーが検知してBluetoothでスマホにデータを送信する。自動的に学習記録が残り、親のスマホに通知が送られて褒めるきっかけになる。友達とも励ましあうことができる。

 スマホアプリにはゲーミフィケーションの機能を持たせ、例えば学習科目に応じたキャラクターを育成するゲームで勉強と同時に遊ぶことにより、勉強することへの意味付けを提供する。

 既に試作3号機が完成しており、学習過程のグラフ化や簡単な育成ゲームが実装済みである。将来的には友達同士で励ましあえるスタディSNSのようなものを提供していきたいとのことだ。

「家庭に送付して試用をしてもらったところ、かなり好評だった。一部ユーザービリティ的に改良の余地はあるが、7割程度の親子から欲しいとの回答を得た。アタッチメントから得たデータは、機械学習にかけて「集中して勉強できているか」「前向きに取り組めているか」「どこかで手が止まっていないか」「問題の難易度」あたりまでわからないかと実装の検討をしている。どういった時間にどういった環境で勉強するのが良いのかといったこともフィードバックできるようなものを作っていきたい。」(田谷氏)

 漢字の書き取りや計算ドリルなど、それにとりかかる第一歩が踏み出せない子供も少なくないような科目には、非常に有効なのではないかと感じた。2020年12月現在製品化に向けたクラウドファンディングの準備中とのこと。活動状況の報告もあるので、興味のある方は覗いてもらいたい(https://kibidango.com/1490)。

Pyrenee Driveは機械学習で交通事故の原因をなくす

 交通事故の原因のほとんどはドライバーに原因がある。そしてその70%以上が見落としや発見の遅れなどのヒューマンエラーによるものだ。つまり、これらの原因を取り除くことができれば、交通事故を減らすことができる。このコンセプトのもとに開発されているのがPyrenee Driveだ。

 Pyrenee Driveは自動車のダッシュボードの上に置いて使うデバイスで、道路や周辺環境を撮影するステレオカメラ、ドライバーの様子を撮影するカメラ、ユーザーに情報を伝えるタッチ機能付き液晶モニタが付いている。ステレオカメラで撮影した動画を解析して事故原因となる見落としや発見の遅れにつながる情報を得たと判断したとき、ドライバーにそれを知らせてブレーキやハンドル操作を促す。

 周囲の人や車の動き、ならびにドライバーの視線方向を観測し、危険と判断された場合は液晶画面および音声で警告を発する。危険な体験はすべてクラウドに送信され、集められたデータを解析して追加学習することにより、さらに危険察知の予測精度を上げていく。また、事故がどういうときにおこりやすいかというデータは、未来の自動運転技術の開発に活用したいとのことだ。

 既存の自動ブレーキとの対比では、自動ブレーキが事故になりかかったときにその直前で回避するために働くものであるのに対して、Pyrenee Driveは事故になる原因を排除して危ない状況を作らないことを目標にしている。「事故が起こった後にはエアバッグもシートベルトも重要で、どちらか片方で良いということはない。事故の前も同様で、異なる安全機能を2重に持っておくことは重要。共存できる。」と三野氏は語る。

 自動運転技術が確立し、街を行く車すべてが自動化された暁には、Pyrenee Driveは不要になるのかもしれない。しかし、そのような社会が訪れるのはまだまだかなり先の話となる。それまでの間、自分や家族の安全を守るために、Pyrenee Driveは非常に重要な働きをしてくれるデバイスになる。特にドライバーの疲労や時間的余裕のなさが事故を招く危険性の高い業務用車のドライバーにとって、心強いパートナーになってくれるのではないか、そんな印象を受けた。

都市型ロープウェイZipparが渋滞をなくす

 渋滞による経済損失は、世界で年間100兆円以上、日本国内でも13兆円と言われている。この原因は主に都市化にあり、これは今後も進行する一方なので、このままでは渋滞が解消されることはない。電車や地下鉄などの公共交通機関は完成までに時間がかかりすぎ、またコストも非常に大きく、それだけで渋滞を解消しようというには無理がある。

 そこで安価に建設可能な都市型交通機関として、Zipparという自走型ロープウェイを開発しているのがZip Infrastructureだ。現在、横浜桜木町で都市型ロープウェイの建築が進められているが、この建設には1キロメートル当たり80億円のコストがかかっていると言われており、「これだけコストがかかるとやはり細かな需要を吸い上げることができない。我々は安価で簡単に開発できる交通システムを作っていきたい」と須知氏は語る。

 Zipparは都市圏における路線バスのうち、運行頻度が高いものへの代替を狙っている。例えば鉄道の駅と大学との間、または駅と病院との間が第1ターゲットとなる。そのために、まず須知氏が在学中の慶応大学でキャンパス内の移動に使えないか議論をしているとのことだ。そこで実績を積んだうえで地方自治体に話を持ち込みたいというのが須知氏の戦略である。その後の目標としては2025年の関西万博での導入が掲げられている。小さなZipparの筐体が大阪の空を軽やかに走る姿を見たいと思う。

 以上、気鋭のハードウェアスタートアップ4社のプレゼンテーションを紹介した。ハードウェアベンチャーはスタートアップにかかる費用が大きくなりがちで、離陸に手間取ることが少なくない。しかし今回紹介した4社では、いずれも既にプロダクトまたはプロトタイプが完成していたり、最終形のイメージが固まっている。つまり資金や支援体制を獲得できれば、大きく化ける可能性があるということ。ハードウェアベンチャーの支援体制では中国・深センなどに大きく立ち遅れている日本ではあるが、今回のIoT H/W BIZ DAY 2020でのピッチで飛躍のきっかけをつかんで欲しい。

■お知らせ

ASCII STARTUPは2021年11月19日(金)、IoT、ハードウェア事業者に向けた、オンラインカンファレンス「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」を開催します。視聴は無料で、申し込み先着300名様に特典の送付を予定しています。下記チケットサイトよりお申込みください。
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