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スタートアップ起業家のための投資家メディア「バンドオブベンチャーズ」が運営する渋谷ベンチャーピッチ

お店到着即提供の次世代モバイルオーダーSmartDish

2021年02月12日 11時00分更新

 スタートアップ起業家のための投資家メディア「バンドオブベンチャーズ」を運営するカウンティア株式会社は2020年10月27日、Facebookのライブ配信で「渋谷ベンチャーピッチ」を開催した。

 スタートアップ企業が投資家などに向けてプレゼンを行い、質疑応答を受けるという内容だ。この日は2社のスタートアップと特許庁から、計3人が登壇した。各者につき、プレゼンが6分、質疑応答が6分となる。

コロナ禍で登壇の機会が減ったスタートアップのお披露目

 今回の渋谷ベンチャーピッチは12時10分配信スタートというランチタイムに行なわれ、視聴者はランチを取りながら視聴するというスタイルだ。MCはバンドオブベンチャーズでスタートアップの財務支援をしつつ、ビジネスタレントとしてイベントを運営する田原彩香氏。まずは、スポンサードしている富士通アクセラレーターのイノベーション鈴木氏からの挨拶があった。

「FUJITSU ACCELERATORは富士通とスタートアップの共創プログラムです。新型コロナウイルスの影響でスタートアップの皆さんが、登壇やお披露目の機会が減っています。そこで、渋谷ベンチャーピッチにスポンサードさせていただいて、スタートアップのお披露目の機会につなげています」(イノベーション鈴木氏)

登壇者、投資家、MC、スポンサーの面々

 トップバッターは株式会社CARCHの中村太一氏だ。新型コロナウィルスの影響で苦しむ外食産業に貢献するために立ち上げた次世代モバイルオーダーサービス「SmartDish(スマートディッシュ)」を紹介してくれた。

 「今、食事シーンでは時間がかからなく、かつ満足度が高いところにニーズが集っています。注文してから料理が運ばれてくるまでに10分経過すると48%の人が、15分になると73%の人がイライラするという調査結果があります。そのためデリバリーやテイクアウトが盛り上がっているのですが、僕たちはイートインに目を付けました」(中村氏)

株式会社CARCH CEO 中村太一氏

 最近、デリバリーが人気だが、手数料が高すぎるという問題がある。薄利の飲食店としてはそのコストが厳しいし、顧客側から見ても割高になる。作りたてではないため、味も落ちる。やはり、店に行って、空間を楽しみながら定価の料金で食べたいというニーズがあるという。

 とは言え、ランチに割ける時間はだいたい40~60分しかないので、ランチ自体は30分くらいで済ませる必要がある。そのため提供時間に10分かかる店には行きたくても行けないという課題がある。そこで「SmartDish」はこの現状を打破するために、できたての美味しい料理を店内で楽しめる仕組みを提供する。

 ユーザーは「SmartDish」のアプリで注文したいメニューと人数、時間を指定し、支払いも済ませる。すると飲食店に注文が入り、指定時間に合わせて調理する。ユーザーが来店するとすぐに料理を提供でき、そのまま食べられるという流れだ。

アプリで注文と決済を済ませてしまう仕組み

 予約の3分前から「SmartDish」のプレートをテーブルに置いて席は確保するので、来店時に並ぶ必要はなく、オーダーの手間もなく、調理の待ち時間もなく、会計も不要だ。検証時のデータでは、通常ランチの平均滞在時間が29分の店舗で「SmartDish」を使ったところ、約半分の14分になったそうだ。席の回転率は大幅に向上した。

 飲食業界の課題である、ノーショー問題も、事前に決済しているために、飲食店側のリスクは抑えられる。

「2020年9月1日から渋谷エリアでスタートし、現在、店舗数は20店舗、登録者数が1000名を突破したところです」と中村氏。

SmartDishを使うことで飲食店側もユーザー側も余計な時間を省ける

 2番手は株式会社Boot homeの代表取締役 宮地俊充氏だ。オンラインパーソナルコーチングサービス「Boot home」を手がけている。

 「実体験として、体を鍛えると気分や幸福度があがります。この会社でやりたいことは、『Well-being(幸福な状態)の世界をテクノロジーの力で作る』ということ。我々はトレーニング指導と食事アドバイス、習慣化支援の3つを行っています」(宮地氏)

オンラインで食事や運動を習慣化させるパーソナルコーチングサービスを提供する「Boot home」

 ダイエットや筋肉を付けることを目標とする場合、模範的な一日の流れというものがある。朝起きたら体重計に乗り、体重や体脂肪率などの各種データをアプリに記録する。朝食にはプロテインを飲み、昼食は和定食がオススメ。間食はデザートなどはNGで、ナッツなどをチョイス。仕事が終わったら夕食を食べ、1時間くらい時間を空けてから、ジムに行ったり自宅でトレーニングをして、プロテインを飲む、といった具合だ。

 「やることは明確で難しくなく、自分でもやろうと思えばできるのですが、我々はなまけものなのでなかなか自分でできません。つまりやり切らせる仕組みが必要なのです。そこを弊社ではオンラインコーチングで行っております」(宮地氏)

 コーチングはLINEを利用して行う。毎日の行動をトレーナーにLINEで報告してアドバイスをもらうのだ。例えば、ジムに入会はしたが行かなくなってしまった人が「Boot home」を利用したケースが紹介された。

 「Boot home」のトレーナーがジムに行かなかった理由を尋ねると、ユーザーは自発的にトレーニングの予定をスケジュールに組み込むようになった。「Boot home」のトレーナーがジョギングを勧めると、ユーザーはジョギングを実行した上で、お礼を言ってくる。最終的には、ユーザーは積極的に自分からジムに通うようになったという。

ユーザーはLINEでトレーナーとやりとりする

 「Boot home」は、トレーニングに関しては機能解剖学、食事アドバイスに関しては栄養学、習慣化支援に関しては行動分析学という科学的アプローチを行っており、パーソナルトレーナーと管理栄養士と、習慣化のコンサルタントがそれぞれコーチングしてくれるのだ。

 「この手の伴走するサービスは通常は2ヶ月で30~80万円するのですが、現在はデータと事例が欲しいのであえて安価で提供しています」と宮地氏は述べる。

 月4回のコーチング付ベーシックプランで月額5980円(税込)と激安だ。月1回のエントリープランなら月額2980円(税込)とさらに安い。

※2021年2月現在は徹底サポートプラン月額8800円(税込)となっている。

 「オンラインフィットネス・コーチング領域はこれからだと思っています。海外だとオンラインフィットネスが大注目分野です。この50年、日本のフィットネス業界はアメリカを後追いしてきました。ということは、日本でもこれからホームフィットネス分野で突き抜けるスタートアップが出てくると思っています。それが弊社でありたいと思っています」(宮地氏)

現時点では、伴走型サービスとしては格安でサービスを提供している

 ラストは、特許庁総務部企画調査課 課長補佐 (ベンチャー支援班長)の鎌田哲生氏が登壇した。こちらは投資家へのプレゼンではなく、特許庁が行っているスタートアップ支援施策を紹介してくれた。

 スタートアップの経営資源のうち、ヒトや、モノ、カネ、情報は足りていないことが多いが、革新的技術やアイディアという「知財」は持っているところがある。その場合はこの知財にフォーカスすべきだという。

「知財」はスタートアップが持つ重要な経営資源

 知財には大きく分けて3つある。まずは「特許権」。たとえば、スマホの筐体の加工や通信技術、アプリのサービスなどがある。特許を登録すると、20年間独占する権利が認められるようになる。

 「商標権」はブランドをずっと独占する権利。スマホのブランド名やアプリのサービス名などで、権利期間は10年だが、いつまででも更新が可能だ。100年以上前から商標権を持っている会社もあるそうだ。3つ目が「意匠権」。これはデザインを保護するもので、こちらも特許権と同様、25年間独占できる。

 「これらすべては出願の早いもの勝ちなので、思いついたらどんどん出した方がいいと思います。実際、皆さんが事業を考えるときに、最初の段階で他人の権利を調べておかないと、ローンチした後で警告書や訴状が来て、商品名を見直したり、プロダクトを再開発したり、損害賠償を要求されたりすることがあります。企業名は登記の段階で申請した方がいいと思います」(鎌田氏)

 知財は何も独占して、パクリを防止するだけが機能ではない、と鎌田氏は語る。他社に技術を売ってライセンス収入を得たり、技術を持って大企業などとオープンイノベーションするツールとして利用できる。技術があるなら、資金調達やM&Aの評価やブランドが高まり、競合の攻撃を抑えることにつながる。

知財は独占以外にもメリットがある

 特許庁はスタートアップを支援するために5つの施策を用意している。

 まずは、スタートアップ向けサイト「IP BASE」を立ち上げ、先輩スタートアップの知財戦略事例集として、国内10社、海外8社の事例を紹介する。さらに、特許情報プラットフォームサイト「J-PlatPat」では、特許や商標、実用新案等を簡単に検索できるようになっている。企業名やサービス名を思いついたら、まずは検索してみよう。

 スタートアップが特許を出願した場合は、通常およそ9.5ヵ月かかるところを平均0.6ヵ月(2019年度実績)で審査してくれるスーパー早期審査制度がある。商標に関しても最近、スピード感のある審査を開始したとのことだ。さらには、スタートアップは手数料が3分の1になり、手続きも簡単になるという大盤振る舞いだ。

 「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)として、創業期のスタートアップに対して、知財の専門家とビジネスの専門家を付けて、事業戦略に沿った知財戦略の構築支援を行なっています。過去2年間で25社支援していて、支援以降に出願された特許権件数は81件、資金調達した起業が10社、エグジットした企業も1社という成果を上げています。今年度のプログラムは終了したのですが、ぜひ来年度以降もやりたいと思っています」(鎌田氏)

特許庁はスタートアップに手厚い支援策を用意している

 ランチタイムの約1時間で濃厚なピッチを3つ見られるのは楽しいし、刺激になるし、最先端情報も得られるのでとてもいい体験だった。渋谷ベンチャーピッチは定期的に開催されるので、興味のある方は参加してみてはいかがだろうか。

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