TCK東京シティ競馬の挑戦〜ピンチをチャンスに!オンライン で売上アップ~
2020年に開場70周年を迎えた大井競馬場。コロナ禍で「無観客」での競馬開催を強いられるなど苦戦中かと思いきや、実際は前年比で売上アップ、ファン層も拡大という快挙を 成し遂げていた。インターネット投票の急増で大きく変わったビジネスモデル。広報担当課長の渡邊明雄氏に、全国展開も見えたTCKの現状と未来図を、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。
デジタル化と生観戦の魅力の両立を目指して
――ウィズコロナに入ってきた今、TCKではどのような新しい施策を?
「TCK 東京シティ競馬(大井競馬場)では、今年2月から無観客競馬を開催していました。これまではどちらかというと、場内にお越し下さった方に楽しんで頂ける企画が中心だったのですが、現在はオンライン、ウェブプロモーションに注力していますね。
帝王賞やJDD(ジャパンダートダービー)といった大きなレースでは、オンライン予想会やTwitterキャンペーン、Facebook、LINEなどSNSを使った企画が今年、急激に増えました。従来はインターネット投票者の割合が約70%でしたが、今はほぼ100%なので、インターネット投票者向けの取り組みを多くしています」
――本来、大井競馬場はレジャー施設のように行って楽しむ場所。約7ヵ月ぶりの入場再開での反響はどうでしたか?
「9月から入場を再開したのですが、来場したお客様にはとても喜んで頂いています。デジタル化も進めてはいますけれども、やはりこの競馬場の魅力と楽しみ方はなくしちゃいけない、と。ただ一方で、ほとんどの方がインターネット投票ですので、そこは少々ジレンマでもあります」
――逆にオンラインから入って、実際に行きたいと思う人たちも増えていそう
「オンラインだけで完結するというよりも、相乗効果でリアルとバーチャルを行ったり来たりできるようになるといいですね。これからは自宅で投票しているうちに実際の馬を見たくなった方が、競馬場にお越し頂くというのが定番になってくるのかもしれません。そして来場して下さった方には楽しんで帰って頂けるようにしていきたいですね」
――来場者の安全対策、具体的にはどのように?
「まずは人の絶対数を絞るために入場制限をしています。徐々に入場できる人数を増やしていくのが一番大きな取り組みですね。基本的なところでは、入場時の検温、マスクの着用、小マメな手洗い、消毒をお客様にもお願いしています。指定席は間隔を開けて販売し、勝馬投票券発売所の発券機も3台おきに開け、飲食店は1フロアに1店舗だけ開けています。
ゴール前やパドックはオープンエリアなので、警備員を配置して『密にならないで下さい』とお声掛けしたり、施設の中でも『大声を上げないで』と注意することもあります。声を出さずに応援するのもなかなか難しいですけれど、拍手したり手を振ったり、お客様に ご理解頂いています」
――観客が少ない中、大井競馬場の職員やジョッキーの方々は、現場でどう感じている?
「職員はみんなイキイキしていますよ。緊急事態宣言の間を含めて、しばらくは本当に静かな競馬場の中で粛々と馬を走らせていたので、お客様にお越し頂けるのは本当にありがたいことです。ジョッキーも張り合いがあると喜んでいます。
お客様はパドック前やゴールに集まりますね。あまりご自分の席にいないんじゃないかというぐらい、皆さん場内を行ったり来たりしています。本当に馬を見たかったんだなと感じました」
ビジネスモデルと客層に大きな変化が起きた
――大井競馬場と言えば、トゥインクルレースやイルミネーション、フードフェス、合コンなど多彩なイベントでも人気。ニューノーマルが普及する中で、今後のリアルイベントの計画は?
「正直、そこは難しいですね。『リアルとバーチャルをどういう風に両立させていくのか』と、今まさに議論している最中です。短期的にはオンラインやバーチャルに力を入れていく。今年はテレビの中継も少し増やして、まずは場外でより楽しめるように頑張っていますが、場内で楽しんで頂くことも必要なので、ゆくゆくは期間限定の小規模なフードフェスなど、何かしら行ないたいです」
――かなり慎重に考えられていますね
「今までは、お客様にたくさんお越し頂いて、それが結果的に馬券の売り上げにつながるというビジネスモデルだったのですが、実際は、お客様にご来場頂かなくても売り上げが伸びている状態で、前年度比10%以上です。これは本当に場外で買って下さったお客様のおかげですけれど、そうなるとあえて競馬場にお越し頂くような取り組みが積極的に必要なのか、との議論にもなります」
――このコロナ不況下で前年比10%増はまさに快挙!
「従来は東京都を中心に千葉、神奈川、埼玉の1都3県の方がお客様だったのですが、ネットでは北海道から沖縄まで全国の方がお客様になる。これまで東京中心だったものを、全国展開していったらどうか? というアイデアも出ています。全国の皆さんにプロモーションできるかと思うと、今後の展開が非常に楽しみです」
――オンラインで増えた新しい客層とは、どのような方々ですか?
「SPAT4(地方競馬ネット投票サイト)の調査ですと、ネット投票では20代の若い層が今、とても多く入ってきています。また、今まで紙の馬券を買っていた、もっと上の年代の方がSPAT4で馬券を買うためにガラケーからスマホに変えた、なんて話も耳にしますね。実際、SPAT4の会員数は4月~8月の間に8万1489名、1割強も増えたんですよ。
それぞれの場所で手軽に投票できることがお客様に受け入れられているんだな、と勉強になりました」
禍転じて福となせ!全国展開のチャンス到来
――毎年話題を呼ぶTCKのイメージキャラクター。以前は藤田ニコルさんら若い女性陣起用が主でしたが、昨年から中村倫也さんらイケメン男性陣にシフト。その狙いについて
「今までは広告のターゲットが20~30代の若年層と女性でした。それらのお客様にお越し頂くことで競馬場が活性化し、最終的には競馬のファンになってもらうという流れだったんです。今年は中村倫也さんと新田真剣佑さんの来場イベントを企画して、特に女性の集客を想定していましたが、今後はそのプロモーション戦略も少し見直す時期かもしれません。
ただ、この先20年、30年と続けていく上では、やはり若者にファンになって頂く必要があります。もっと幅広く訴求できるようなタレントで、と考えないといけませんし、これからの検討ですが、女性の再起用もありえるかも」
――オンラインとの親和性からYouTuber、VTuber、声優が登場する可能性も?
「そうですね。いろいろな方に発信して頂いているので、PC系とのコラボもあるかもしれません。また今年はタレントさんにもご来場願えないので、イメージキャラクターの中村倫也さんに動画でメッセージを頂くなど試行してみました。今後は必ずしも来場ではなく動画での出演や、単独のテレビ中継で、といった視点も重要になりそうです」
――年末の大一番G1「東京大賞典」など、注目レースも控えているが、どんな形での開催に ?
「プロ野球は9月に入場制限5000人の枠が撤廃されましたが、競馬については、現状まだです。幸い大井競馬場では、これまで競馬開催を続けてこられたので、お客様にご協力頂きながら少しずつ人数を増やしていく方向です。
競馬は、良い馬が集まる、良いジョッキーが来る。そして皆さんに身近に見て頂けることが基本なので、それは大切にしていきたいですね」
――このご時世にオンラインで売り上げを伸ばし、全国規模で新規ファンも獲得しつつある今、リアルとバーチャル両方での未来が広がってきたのでは?
「この数ヵ月で、通常なら5年、10年掛かることが一気に変化しました。“ピンチをチャンスに”ではありませんが、コロナ禍という転機は全国展開に踏み込むチャンスだと考えています。
でも、やはり全てがバーチャル化するとは思っていないです。例えばビギナー向け企画を場内で開催するなど、競馬場の良さを今後も生かしていきたいですね」
――大井競馬場の新しい姿、TCKの新しい楽しみ方も期待できる
「いろいろと苦しい局面はありますが、その中でも楽しみながらやっていきたいと思います。東京シティ競馬はこれからもチャレンジし続けますので、どうぞご期待下さい」
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